むずかしい新子音の使い方 | 日本語好きな人、寄っといで

むずかしい新子音の使い方

モダンだがよそよそしさも


 昭和の、とりわけ終戦以後に広く使われるようになった子音を、私は「新子音」と呼んでいる。新子音にはティ、トゥ、ディ、ドゥ音、ヴァ行音、ファ行音とその幼音がある。拗音とはドゥに対するデュのように二つの子音を持つ音節をいう。


 新子音はその昔、撥音(ンの音)、促音(ッの音)、拗音といった音が、漢語の流入を契機に使われるようになって以後、日本語が久方ぶりに獲得した新たな音韻と位置付けることができる。英語の流入などがその背景にあることから、新子音が使われることばには新しさやモダンさや西欧風のムードがあり、最近はネーミングなどに意図的に使われるケースも増えている。

 だが、この音はそういう音相を持つ半面、ネーミングとして使うには好ましくない「よそよそしさ」と「言いにくさ」という大きな欠点を持っている。
 学者の中には、日本人の口辺の筋肉の付き具合からみて、ヴァ行音の正しい発音は基本的に不可能だという人もいるほど。この種の発音が不得意ということから、日本人はこれらの音を生理的な面から拒む傾向を持っている。

 そのことは、「ディジタル」「ティケット」「ヴォイス」「ドゥリンク」などを「デジタル」「チケット」「ボイス」「ドリンク」に読み換えないと普及できない多くの例を見れば明らかだ。これらの音が一般に使われはじめて半世紀近くなるが、だれもが原音を自然に発音できるようになるには、さらに長い時間を要することだろう。


 だが、現在でもこれらの音が割合抵抗無く受け入れられている例が一部にある。その例を次に示す、
 セフィーロ(車)、オプティ(車)、ディアマンテ(車)、ハンディカム(カメラ一体型VTR)、テスティモ・ルージュ(口紅)、フェアルーセント(化粧品)、ニフティ(社名)、フェイス(社名)……

 いずれも、よそよそしさや言いにくさという欠点を逆用した例といえようが、こういう冒険ができたのは、会社の業容や商品コンセプトに「西欧風」や「先端性」などをとりわけ多く持っているからだ。大衆性や汎用性の高い商品などに使った時はその成功度は相当低いといってよいだろう。
 新子音にはイマっぽさやカッコ良さがあり、つい使いたくなる音ではあるが、日本人には基本のところで近づきにくく、人肌のぬくもりを感じにくい音なのだ。
 使ってみて一応格好がついたようにも思えても、このマイナスは目に見えないところで人気の足を引っ張り続ける要因になることを忘れてはならないだろう。


(日経産業新聞ネーミングNOW 1995.01.26)