意味より音への時代がきた | 日本語好きな人、寄っといで

意味より音への時代がきた

ビール工場を分析


 最近のネーミングには、「ビール工場」や「焙煎麦茶」「小さなチーズケーキ」「そのまんまトースト」のように、商品の材料や工程を素材にしたものが増えている。即物的でロマンがないという人もいるし、面白ネーミングやこの種のものの出現は、「意味」を中心で考えてきたネーミングの行き詰りを示すものだという人もいる。

 ネーミングは多くの関係者たちの時間をかけた討論の中で生まれるから、意味や理屈は人を説得しやすいし、うまく使えば印象度を高める効果にもなる。
 だが、ネーミングの受け手である消費者は、よほどのものでない限り、意味にはあまり関心がなく、語音の響きや字形など、感覚的なものによって評価を決める傾向が強い。
 この食い違いが見落とされているところに、今のネーミング作りの問題点があるようだ。


 前出の「ビール工場」を、一般の消費者たちがどんなイメージでとらえているかをみてみよう。
 語音を分析すると、この語には下表のような六つの特徴があることがわかる。


「ビール工場」の音の特徴
 1.語音の明るさ -B6(陰指向の高い語)
 2.調音種の数  6音種(標準より少ない)
 3.母音の種類  3種(標準より少ない)
 4.有声音の数  6音(標準より多い)
 5.頸輝拍の数  3音(標準より多い)
 6.逆接拍の数  3音(標準より多い)


公式を使ってこれらを組み合わせていくと、有効なものとして次のような表現が表れる。

 1×6…雅(みや)びやか、豪華、文化的、落ち着き、安定感
 2×6…異質感、男性的
 2×5…鋭さ、強さ、男性的、異質感
 2×3…異質感、個性的
 3×5…強さ、鋭さ、新鮮さ、男性的、異質感
 4×5…落ち着き、豪華、安定感
 5×6…落ち着き、豪華、安定感

 ここで数多くでてきたものは、種々の角度からとらえられた信ぴょう性の高い表情といってよいものだ。それらを中心に文章にすると「豪華さ、異質感、重厚感のある男性的な語」という評価が生まれ、その周辺に「文化的」「新鮮さ」「鋭さ」などのニュアンスを含んだ語であることが明らかになる。
 「ロマンに欠ける」といわれる前記の商品名も、音の面から見直すと、このような新たな味わいと存在感がみえてくる。意味的な納得よりも語音のイメージが尊ばれるこれからのネーミングの一つのパターンといって良いようである。(木通)


(日経産業新聞ネーミングNOW 1993.06.16)