ラ行音は流動感をつくる | 日本語好きな人、寄っといで

ラ行音は流動感をつくる

 前回この欄でネーミングには音のフォローが必要なことを述べたが、それをさらに具体例で考えてみたい。

 優れたネーミングとして、英国車「ロールスロイス」の名が浮かぶ。この語は人の名前で特別な意味を持たないから、この語の良さとは音の良さということになる。「ロールスロイス」は頭韻と脚韻、二つの韻をふんでいる。日本語では押韻で効果を上げている例は少ないが、この語の場合二つの韻がエキゾチックなムードを高めているし、四・三拍の音数律が落ち着いた日本的なリズムを作っている。それに加えてこの語の良さは、ラ行音(流音)を多用して「流動感」を表現した優れた工夫があることだ。


 ギリシャの哲学者ヘラクレートスが「ラ行(R、L)音は移動または回転のイメジを作る」と言ったのは紀元前四世紀のことだが、今でもそれは世界の言語に多く見られる現象だ。

 英語の単語にRUN(走る)、DRIVE(運転)、REMOVE(移動)、ROTATION(回転)、ROUND(回る)などがあるし、

 フランス語にもTOURNER(回す)、REMUER(動かす)、ALLER(歩く、進む)などがある。

 また日本語でもコロコロ、クルクル、ぶらぶら、のろのろ、流れ(る)、転(ぶ)…など数えあげればきりがない。


 ラ行音はそういう意味の語に多いから、この音を聞くと多くの人が意識の深層で「移動や回転」のさまをイメージし、それが商品コンセプトにつながっていると印象深く記憶に残るネーミングとなる。
 また、ラ行音に長音(ーの音)が加わると移動や回転のイメージはさらに促される。長音は引き音といわれるように音そのものが「動き」を作っているからだ。
 ロールスロイスをはじめフォルクスワーゲン、ゼネラルモータース、ルノーなど人気の高い車の名にラ行音と長音の併用が多い理由がそこにある。自動車の名前を例にあげたが、優れた音響感覚を持つ現代人はこのような高いレベルのネーミングを求めているのである。(木通)

(日経産業新聞ネーミングNOW 1999.04.06)