不人気ネーミングはなぜ生まれるのか
見落とされがちな音の存在
ほとんどの言葉は、意味や内容にふさわしい音の響きを持っている。「ハキハキ」という言葉には明るい音があるし、「グズグズ」には動作の鈍さや暗さを感じる音がある。「ハキハキ』を暗いと感じる人はいないように、こうした感覚は日本人のだれもが同じように持っている常識のようなものだといってよいだろう。言葉の音に見られるこの種の表情を、私は「音相」と呼んでいる。
音相は、日ごろの会話の中でだれもが有効に使っているものだが、その仕組みや成り立ちが明らかにされていないため、「語感」という言葉でしか認識されていないのが現状だ。
だが今の大衆は、言葉の好き嫌いを語音の響きで決める鋭い音響感覚を持っていて、その傾向は今後さらに高まってゆくことは明らかだ。商品イメージを決定づける「ネーミング」の仕事にとって、音への取り組みが欠かせられない理由がそこにある。
誰もが口に出して言おうとしない商品名を挙げてみた。
アセロラドリンク(ドリンク)、グリチルリチン(薬品名)、
バスジフ(浴用剤)、ミニマム(社名)、JA(社名通称)、
ペディグリーチャム(ペットフード)、ジャパンエナジー(社名)、
のぞみ(新幹線名)、どくだみ茶(ドリンク)……
前回掲げたものも含め、人気の出ないネーミングには必ず次のどれかの欠陥がある。
1.言いにくい(難音感がある)こと。
私の調査では、難音感が起こるには五つほどの原因があるが、中でもとりわけ多いのは、同じ種類の調音種(注)が三音以上連続するときだ。
「言いにくさ」は、音の流れをさまたげる異物のようなものだから、だれもがそこに「疎ましさ」を感じて使うことを敬遠する。
2.商品コンセプトが音響的に表現されていないこと。
商品が持つムードやコンセプトを、それにふさわしい音の響きで表現していないと、実体と名前が別々の像を結ぶため、イメージがぼやけるだけでなく、覚えにくいものとなる。
明るい商品には明るい音を、高級商品には高級感を感じる音を……これは優れたネームを作る必須(ひっす)の条件なのである。
これらの欠陥が見落とされたり、不問に付されることが少なくないが、大衆はそれを決して見逃さない。こうした音の問題とどう取り組むか、これからのネーミングの課題がそこにあるように思われる。(木通)
(日経産業新聞ネーミングNOW 1994.10.13)