言いにくい音とは
同じ調音種の連用に注意
「言いにくいことば」というのがある。私が調査してきたところでは、同じ調音種を連続させると、それが起こるように思われる。「東京特許許可局」や「竹立てかけた」のような早口ことばの言いにくさも同じ理由で説明することができる。
調音種とは、ことばの音を作る単位のことで、破裂音、摩擦音、唇内音など八つの種類のものがあるが、カ、キ、ク、ケ、コ、サ、シ、ス、セ、ソなど一つ一つの「音節」(拍)は、二つの調音種の組み合わせで作られている。
例えば、タ、チ、ツ、テ、トの子音「t」は舌内音(舌を使って出す音)と破裂音(息を破裂させて出す音)の組み合わせ、マ、ミ、ム、メ、モの子音「m」は唇内音(唇を使う音)と鼻音(息を鼻に抜かせて出す音)の組み合わせなどというものだが、ことばの中で同じ調音種が三音以上連続すると、口の回りの筋肉がもつれて「言いにくさ」が生まれてくる。
(注) 同じ調音種の間に単独の母音(アイウエオ)や撥音(ン)
促音(ツ)、長音(ー)が入った時はその連続は中断される。
言いにくい語は、語音の流れがギクシャクして疎ましさを感じるから、社名や商品名など大衆へ向けて出すことばには極力避けることが望ましい。だが、それらをあまり気にしていないネームが意外に少なくないようだ。
清涼飲料の「アセロラ・ドリンク」(ニチレイ)は「セ、ロ、ラ、ド、リ」と舌内音が五連続するし、化粧品「タクティクス」(資生堂)は「タ、ク、ティ、ク」と破裂音の四連続、口臭除去剤「リステリン」も「リステリ」で舌内音が四連続してどれも非常に言いにくい。
ネーミングを行う場合、語源やその他、意味的取り組みには多くの時間がかけられるが、いったん決まって社会へ出ると、受けての側の大衆は意味上の納得や共感などより「語感のよしあし」で評価をしていく傾向が強い。
「ことばの音」など些細なことにする見方が過去にはあったが、今の大衆は音響的なわずかなキズにも反応できる高い感性を持っている。
ことばの中の不協和音を感じとり、その原因を解明できる技術にこそ、ネーミングのプロにとって大事なことと思われる。(木通)
(日経産業新聞ネーミングNOW 1991.09.11)