音相は、ことばの機微を捉える | 日本語好きな人、寄っといで

音相は、ことばの機微を捉える

・・・ ある生保会社の実験より ・・・
 電話によるセールス、「テレマーケティング」を行っているある大手生命保険会社がかかえている課題は、平素取扱者に十分な指導訓練を行っていても勧誘成績の上がる人と上がらない人がいることと、種々検討を行ってもその原因が不明なことでした。
それが、ことばの音の使い方によるものではないかと思いつかれた幹部の方が、当研究所を訪ねてこられました。

 成績優良者と、良くない人30人づつの実録テープを聞きましたが、普通に聞くかぎりほとんど区別はつきませんでした。
 その原因が、取扱者の仕事への取り組み方の違いにあるのではと考えた当所では、心理面や感性面を捉える際に有効な「音相基」(注)の使用状況を調べることにしました。
  (注)音相基とは破裂音、有声音、多拍、少拍、濁音など、

  ことばに表情を作る40種類の音の単位をいいます。

 電話セールスを行う人には次の2つのタイプがあるようです。
1 商品の品質の良さや、事業や会社の社会的貢献度などを意識しながら発話するタイプ。
2 そうした意識をソフトなことばに包んで発話するタイプ。


 十分な訓練を受けている人たちの場合、両者の間には微妙な差しか生じないはずですが、①のタイプの人たちは、硬い響きを作る破裂音系(パ行、タ行、カ行)の音が入ったことばが自然に多くなるはずですし、ソフト・ムードで訴える人は、穏やかさを作る摩擦音、流音、鼻音などが多くなり、破裂音系の音は減少するはずです。

 そこで60人の実録テープをもとに破裂音系の使用状況を調べた結果、成績優良者は不良者に比べ破裂音系の音の使用が15%も多く、また破裂音系の通常の使用標準より少ない人は優良者にはなく、不良者には40%の人が見られました。
 保険会社では、この調査結果をもとにして、取扱者の訓練や新規採用方針などに幅広く利用され成果をあげておられるそうです。

 ことばの「音相」が人の心に与える影響の大きさのことはこれまで種々の機会に述べてきましたが、この調査によって、普段、音相などに関心のない人たちでも、相手が使う破裂音系の音の僅かな違いで商品への信頼度を高め、「加入」を決める動機になっていることが明らかになったのです。
音相に無関心な人たちが、なぜそうっした高度な判断ができるのか。
 それは日本人の誰もが音相感覚という共通の遺伝子を先祖伝来持っているからで、流行語が数日を経ずに国中の人が使いはじめるなども、日本語の音相という遺伝子の働きによるのです。
 音相は人の思考や行動を内面から規制しますから、企業内で多発しているこのような行動科学的な課題にも広く応用できるのです。(木通)