音相へのご招待
私がことばの意味と表情の関係を考え始めたのは、ラジオの放送台本を書く仕事をしていた昭和二十六年頃のことでした。
「桃色」と「ピンク」は意味は同じとみてよいですが、「ももいろ」という音には穏やかで落ち着いた表情があり、「ピンク」には輝くような明るさがあります。だから、赤ちゃんの頬は「ももいろ」よりも「ピンク」の方がその実感がよく伝わるし、老婆の頬は「ももいろ」の方がより印象的に伝わってゆくのです。
このような表情はことばの「音」から生まれるものなので、私はそれを「音相」という名で呼ぶことにしています。
音相は、同じ言語を使う人たちが同じように感じる感性といってよいでしょう。
音相理論は、ことばが作るの表情と音の仕組みの関係を音声学や統計学の手法を借りて明らかにしたもので、ことばの科学がこれまで見棄てていた「感性」の部分を、新たな認識のもと再構築した理論です。
「表情」という面からことばを見ると、これまで気づかなかったものがいろいろ見えてきます。
例えば文学作品の題名や、使われている語彙や登場人物名などが、イメージ的に寄与している心理的、美的な関係などが捉えられますし、商品名を分析すると、その商品がどんなイメ―ジで客層に受け入れられているかがわかるなど、これまで論議の外におかれていた情緒や雰囲気などの実体が、客観的な尺度を使って解明できるようになるのです。
音相論は言語としての自立度が高く精緻な構造をもつ日本語にして初めて可能になった理論ですが、それはまた日本語美の奥を捉える新たな手法といってよいようです。
ここは、ささやかなサイトですが、日本語美を求める方々とともに、暖かく楽しい語らいの広場にしてみたいと思っています。
皆さんのご協力をいただければこの上ない喜びです。(木通)