【人生のおさらいをするために――児童精神科医・佐々木正美さんからのメッセージ】




日本の児童精神科医学のパイオニア・佐々木正美先生。半世紀以上にわたり、子どもの育ちを見続けながら子育て中の親たちに寄り添ってきた先生の著作や言葉には、子育てだけでなく人生を幸せに生きるための道標がたくさん残されています。



その珠玉のメッセージを厳選してお届けします。



他者の喜びを自らの喜びとし、他者の悲しみを分かち合えること。それが幸せになるための道すじです


ドキドキドキドキ人の幸せは、笑顔の交換から始まりますドキドキドキドキ




フランスの精神科医、アンリ・ワロンは、子どもが親との情緒的なやりとりを通じて、心やコミュニケーションを発達させていくことを発見しました。



生後、一、二カ月の赤ちゃんは、母親が赤ちゃんに微笑むと、微笑みを返します。この時期の赤ちゃんは、首がすわる時期で、自分の顔など見たことはありませんし、自分の顔だという認識もありません。しかし、ふしぎなことに笑顔を返すのです。



それは、人間が生まれながらに持っている共感的な感情で、ワロンは、それが基本的信頼感の獲得につながることを実証しました。




基本的信頼感とは、心理学用語で「人を信じる力」のことを言います。この力は人間が発達していくうえで不可欠な、そしてもっとも最初に身につけるべき感性です。




この基本的信頼感を身につけた子どもは、自分に誇りを持ち、他者から愛された自分に揺るぎない自信を持てるので、人生で多少の困難に遭遇しても、それを乗り越えていくことができます。そして、他者を思いやることもできるようになるんですね。




そうして、人と共感する体験を繰り返し、基本的信頼感を得た人間は、やがて人の喜びだけでなく、悲しみを分かち合える人間になっていくのです。




私がいま家族と喜びを共有し、幸せに暮らせるのは、もとをたどれば、乳児期に母親からその“根”をもらっているからなんですね。




そして、人と喜びや悲しみを分かち合う経験は、やがてコミュニケーション力につながっていきます。


ドキドキドキドキ人間は人間関係の中でしか、自分の存在や価値を見出せないドキドキドキドキ



人と喜びや悲しみを分かち合う力を持ち、人とのコミュニケーション力を持つことは、子ども時代だけでなく、人生全般において幸せになるための道すじです。



なぜなら、私たち人間は、人間関係の中でしか生きることができないからです。



アメリカの精神科医、ハリー・スタック・サリバンは「人間は人間関係のなかでしか、自分の存在や価値や意味を見出せない」と述べました。私もまさしくその通りだと思います。



人は他者との関係の中で、自分の存在を意識して、自分というものがどういったものであるのかを認識できるのです。





そして、他者を支えながら、その一方で他者に支えてもらうことで幸せに生きていけるのです。



たとえば、生徒から学ぶことができる教師だけが、生徒に豊かなものを教え与えることができる。





自分の子どもと一緒にいることを幸せに思うことができる母親だけが、子どもに母親と一緒にいることを幸せに感じさせてやれるのです。





夫婦や恋人間の関係においても、それは同様です。




自分にとって必要な人間関係は、ドイツの精神分析家、エリク・H・エリクソンが提示した「ライフ・サイクルモデル」のように、人生のステージによって異なります。


乳幼児期には母親あるいは母親的な人。

児童期や学童期には同世代の友だち。



そして思春期や青年期になると、多くの友だちよりも価値観を共有できる少数の仲間や尊敬できる先生など。



成人期には、仲間や同僚に加えて、新しい家族との関係が重要になるのです。


すべては人間関係なんですね。


そして、そういった人間たちに支えられ、支えながら、相互に依存しながら生きていくことが幸せにつながっているのです。



ドキドキ    ドキドキ    ドキドキ    ドキドキ    ドキドキ



佐々木正美(ささき・まさみ)

児童精神科医。1935年、群馬県前橋市生まれ


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