あらすじ
今鏡家の伊都から依頼を受けた私立探偵の木更津は、京都近郊に建つ今鏡家の屋敷・蒼鴉城を訪れる。
到着すると、京都府警の車両が大挙しており、顔見知りの刑事に事情を聞くと、伊都が殺害されたと言う。伊都の遺体は、首が切断されており、更に履かされていた甲冑の鉄靴を脱がせると、そこに足首はなかった。
しかし、木更津の指摘に従い生首を探しに行った警官が見つけたのは、別人の首だった。この異様な連続殺人が辿り着く壮絶な結末とは……。
(byウィキペディア)
うーん…
自作解説に『「黒死館」のオマージュのみが残ってしまった感じです。』と作者が語っている。
何を言っているのか全く理解不能な会話シーンはあるものの、黒死館殺人事件ほど難解な文章がちりばめられているわけではなかったので、一応読むことは出来た。
探偵・トリックにおいては本作の方が好み。
(以下ネタばれあり)
物語の中では、殺人事件は4回解決される。
1度目の解決が間違いだった後、探偵が山籠りしてしまうシーンは笑ってしまった。
その後、メルカトル鮎が登場し、2度目の解決。
さっそうと事件解決か?と思っていたが、その解決も探偵によって誤りだと指摘される。
3度目の解決には突っ込みどころが満載。
何故見立てを行ったのか→極点に達した!
密室トリックは→何十億分の一の確率で首がすげ変わった!
警察は3度目の解決を公式記録とするのだろうが、報告書には何と書くのだろうか。
「何十億分の一の確率で首のすげ替えが起こった…」
といった報告書で辻村さんの上司は納得するのだろうか?
表面上の解決を見せた後、4度目の解決がひっそりと行われる。
とりあえず、90歳の老婆は人の首をポンポン切り落とすことは出来ないはず…
もちろん、闇の中の人間が老婆であるとは限らないのだが。
さて、第2の解決に対する反証は「探偵の身元ははっきりしている」→「だから動機はない」というものだったが、これでは何の反証にもならない。「協力すれば菅彦から金がもらえる」というのも動機としては十分成り立つ。
「神になりたかった」という動機は信じるが「探偵が金に目がくらんだ」という動機を信じない警察に恐怖の念しか抱けない。
動機の面は横に置いておくとしても、菅彦と共犯者であれば物理的に犯行が可能であるという点を無視し過ぎではないだろうか。
何十億分の一の確率で起こる首のすげ替えトリックや90歳の老婆が次々と人の首を切り落とす、などといった解決よりもよほど信憑性がある気がするのだが…
また、第3の解決が「解決」として成り立つには、「何十億分の一の確率で起こった神の御技」を読者に信じさせる必要があるのだが、それに対する探偵の解説は
「しかし、それが真実です」
のみ。
…さすがに信じられません!!
第3の解決を読んで軽くパニックを起こしている状態の読者に第4の解決が提示されたとしても、もはや頭に入ってこない。
第3の解決と第4の解決を繋ぐ、『The Door Between』を〈国名シリーズ〉だと認識しているかどうか、という点は見抜けなかったためとても面白く感じたが、それ以外の解決には手掛かりや伏線もほとんどない。
ミスリードにまんまと引っ掛かった場合、どんでん返しはどんでん返しとして機能する。
手掛かりや伏線も何もなく、実はこうでした!と言われても、「…ふーん」としか思えない。
第3・第4の解決に全くもって納得できないけれど「黒死館のオマージュ作品」と言われればこれはもう納得せざるをえない。(首のすげ替えが何十億分の一かで起こるという話は「匣の中の失楽」のトンネル効果のくだりを思い出したが。)
作者が巻末の「自作解説」で書いてあったが、『作品の最上位には一人しか立てず、それを誰が占めるのか?探偵は神となれるか?』ということを追い求めた小説のように思う。そういった面から読むと非常に面白い作品だった。
…面白かったが、好みではない小説。
読んでよかった度 :☆☆☆
もう一回読みたい度:☆
「メルカトル鮎」の存在を知ってから「鴉」を読みたかった度:☆☆☆☆☆