ブログネタ:サンタの正体に気付いた時の気持ち 参加中
1・
「サンタなんていないわよ」
確か、こう告げられたのは小学校の低学年だったと思う。
私の家は旧家で、小さいときから英才教育。
その影響なのか、家族は私に現実的的な話ばかりした。
サンタの正体も何も、その存在自体に興味を抱く暇も与えられず、私は高校生3年生になっていた。
「おい、どうした竜崎」
私は先生の言葉で我に返る。
目の前を見ると、模試の結果が出ていた。
判定は、どれもA。
もちろん、日本でも5本の指に入る大学ばかり。
先生も特に、私に対する心配はしていないようだ。
ただ、聞かれるのは「大学で何をしたいのか」だけだった。
「何をって……。勉強ですよ」
「勉強といっても色々あるだろ」
私ははぁ、とだけ答えて席を立つ。
先生が私を止める声がするけれど、ピシャリとドアを閉める音に遮られる。
先生だって、何も考えてないくせに。
私は声にならない言葉を、胸の中で丸めて捨てた。
「お土産忘れないでちょーだいねー」
年末のピリピリした空気の中、のんきなうた声が響いてくる。
その声の正体は、やはりカオルだった。
2・
「あっ、りゅうちゃん。おわったの~?」
カオルは私を発見すると、トタトタと足音を鳴らしながら近づいてくる。
カオルは私と違って、芸術的な天才タイプ。
カオルが描く絵は胸を打つものがあって、コンクールでも評価が高い。
彼女は美大への進学が決まっているが、本人としては海外の絵に触れたいようだ。
私としても、日本だけで活動するには惜しい存在だと確信している。
そんな天才が、なぜか私のような堅物に懐いている。
よくわからない。
同級生は、誰もがつまらなさそうな顔をして私の前を通り過ぎるのに……。
自分だってわかっている。
家にに縛られて、とりあえずすごい大学、なんて選択している自分が嫌だった。
嫌なくせに、何も言えない自分も。
そんな私なのに、カオルはちょくちょく絡んでくる。
「ねぇねぇ、クリスマスだよ」
このカオルも、だいぶズレてはいるのだけれど。
ズレているもの同士、惹きつける何かがあるのかも。
私はそんな風に思っていた。
「あのね、カオル。一応私たち、受験生なのよ」
「別だよ~ サンタを出迎える準備をしないと」
「……もしかしてさ、カオル。あんた、未だにサンタいるとか思ってないよね?」
「……むしろりゅうちゃん、いないと思ってるの‼︎」
カオルの顔はマジだった。
私はプッと吹き出した。
わらうなぁ、と子どものように私の腕をつかむカオル。
その姿は、母にサンタの存在を否定され、はじめて抗議をした姿に似ていた。
こんな純粋に、素直に自分の気持ちを吐露する。
そんな気持ちを、どこに置いてきたのだろうか。
「……カオル」
「ふんだ、りゅうちゃんにはもうプレゼントあげないんだもん」
「カオル」
私はカオルの頭を撫で付ける。
カオルはそれだけで、ニコッと笑ってくれる。
サンタなんていない。
それは事実だと思う。
でも、サンタはどこかにいる。
私だって、サンタになりたい。
大事な人のために。
「プレゼント」
「えっ?」
「クリスマス、交換するもの。選びにいこうか」
カオルはえへへ、と笑いながら答えた。
「秘密にしないとつまらないよ」
(おわり。最後までありがとうございます)