1・
「あっ、笑い顔のサンタだ」
俺の姿を見かけたガキどもが、一斉に群がってくる。
「お、おい!」
もみくちゃにされながら、ガキどもは俺が持つ袋を奪い去っていく。
「少しはサンタに感謝しろ~!」
俺の言葉を他所に、ガキどもはプレゼントを奪い合う。
「だいじょうぶ、マモルくん?」
ハッとするような声に、俺は素早く振りかえる。
そこには、サンタ姿の佳織さんが立っていた。
清楚可憐、頭脳明晰と非の打ちどころがない大学2回生。
佳織さんには「ボランティアサークル」に勧誘されたことで知り合い、
その美しさに惹かれてホイホイ入会したのが俺である。
別にボランティアなんて興味なかった。
ガキにいたずらされるのも納得いかない。
だが、サンタ姿の佳織さんを拝める。
こんな幸せなことはない。
佳織さんが企画した「笑うサンタ計画」は、街の繁華街になる商店街にて開催してある。
協賛店として、商店街にあるおもちゃ屋「トミー」が提携してくれる。
子どもにプレゼントするおもちゃを始め、サンタの衣装もすべてお店が用意してくれたのだ。
サンタの衣装だけでなく、以前子どもたちと作った「笑顔」のマスクをつけることになった。
この仮面のせいで、ガキに殴られている。
そんな気がしてならなかったのだが、佳織さんの決定なら何も言えなかった。
「ほら、立って立って」
佳織さんがほほ笑みながら、俺に手を差し出す。
その手を取って、立ち上がろうとしたときだった。
「泥棒よ!」
その声に、俺の視線は商店街の中に向く。
商店街を歩く人々が、全速力で走ってくる「笑うサンタ」を見ている。
そのサンタは、あっという間に俺の横を通り過ぎる。
俺が動く前に、佳織さんがサンタの後を追いかける。
釣られて俺もサンタを追い駆ける。
サンタは商店街にある脇道に入る。
佳織さんと共に、俺も脇道に入った。
しかし、そこにサンタの姿はなかった。
あったのは、「笑い顔のサンタ」の衣装と、ひとりの子ども。
俺はその子どもに駆け寄って、サンタを見なかった聞いてみる。
しかし、子どもはこう言った。
「サンタが、僕にプレゼントを持ってきてくれたんだよ!」
2・
俺たちは、犯行現場になったおもちゃ屋さん「トミー」に集まった。
「笑い顔のサンタ」をしているのは、俺を含め3人。
キョウジとタカシだけだった。
2人は犯行時刻に別の子ども達にプレゼントを配っていた。
もちろん、俺は佳織さんと共に犯人を追い駆けた。
誰に事情聴取してみても、完全なアリバイがあった。
襲われたとき、「トミー」の店長は用事で店に居らず、バイトのミドリさんに店を任せたようだった。
ミドリさんも学生バイトだが、家が貧しいので夜間大学に行っているようだ。
昼間はほとんど「トミー」でバイトしているみたいだ。
ミドリさんにも話を聞いたが、「突然のことで気が動転した」とだけ語った。
犯行現場にいた子どもが握っていた袋には、トミーで販売していたおもちゃが入っていた。
そのおもちゃは、子どもがほしがっていたものだったらしく、
彼自身はサンタからのプレゼントと思い込んでいた。
子どもからも話を聞く必要があるため、店の奥で店長が相手をしていた。
俺たちサークルメンバーとミドリさんは、警察を待ちながら店のカウンター前で話し込んでいた。
「どういうことかしら」
佳織さんが呟く。
「この笑い顔のサンタは、私たちボランティアサークルの人間しか持っていない。しかし、誰にもアリバイがある……」
このままだと活動停止かも、と佳織さんが弱音を吐く。
俺は店内を見渡す。
見渡っているとき、俺はあるものを見つけて手に取った。
「どうしたの、マモルくん」
佳織さんが声を掛けてくる。
俺はその声を無視して、犯行現場に脱ぎ捨ててあったサンタの仮面を手に取る。
「佳織さん、俺たちが付けていたものと見比べてよ」
佳織さんは俺の言うとおり、サークルで用意した仮面と比べてみる。
「うそ……」
佳織さんは、比べた2つを見て驚いた。
「ああ、犯人がわかったよ」
俺が堂々と宣言する。
5人の視線が一斉に集まるのがわかる。
「今回、この笑い顔のサンタを使って犯行を企てた犯人がわかったぜ。仮面の下で笑っているサンタは、お前だ!」
俺は、犯人を指さした。