川の幸(その3)ズゴ編 | 温故痴人のブログ

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もう一つ忘れられない川の幸がある。

台風シーズンになると川は増水し、河口は浅く幅は最大になる。
この時を狙って、池や川から産卵のために海に出ていく美味しい生き物がある。
これは季節の限られた食べ物である。

ズゴという鋏に藻が生えている藻クズ蟹のことである。
彼らは、大雨が降った流れの早いときを狙って一斉に海に出ていく。
少し流れが落ち着いた時がチャンスである。
この時にも一斗缶は大事な入れ物になる。

河口の流れの中に立ち、上流から流れて来る物を待つ。
川の流れは速い、しかし浅いので流れて来る物が良く見える。
握り拳くらいの石が流されて来る。
それに混じって同じ様なこのズゴも流されて来る。イヤ!下って来るのである。

これからが技術である。
どちらも大きさ、色(黒っぽく)も良く似ている。
一瞬のうちに流れの中からこれを見分け、ズゴと判れば走って行き素手で掴み捕る。
グズグズしていれば獲物は海に流れ込んで行く。
ゆっくりしていては彼らの強力な鋏の餌食になる。

今では、絶対に石とズゴとの見分けはできないと思う。

この技術は、お袋、妹が特に旨かった。
近所の人には絶対負けない。
お袋、私、妹と3人が河口を走り廻って捕るときには、この一斗缶がすぐに一杯になった。

豆腐屋でもあった我家には大きな鍋がある。

冬の松葉蟹のように、この鍋でゆで揚げる。
グラグラと沸き立った熱湯の中に獲物を放り込み、鍋蓋で押さえ込む。
赤くなれば出来上がり余り、ゆで過ぎると味がなくなる。頃合が大切!

肉は甘く、蟹味噌はよい味である。
今、中国で有名な上海蟹(チュウゴクモクズガニ)と同種のカニであろう。

獲物に群がり、肉にシャブリ付いているライオン一家の食事風景を思い出す。
たてがみを持った親父ライオンの姿は、もうこの時大阪に出稼ぎに行き、いなかったように思う。
残った母を中心の母系集団である。それが実に逞しい!

大人になったある時、
先輩から川魚料理を食べに連れて行って貰った事がある。
「ここは、この辺で有名な所で蟹が名物!」との説明を聞いていた。
どんな物かと期待して行ったところ出て来たのは・・・・!
何と!あの懐かしいズゴではないか!
それも料理の代表として、この店では君臨しているではないか。

後でその値段を聞き更に驚く、松葉蟹料理と変わらない高価な物である。
この店の人や、その道の「食通」に言わせれば、松葉蟹よりも上品で、きめ細かい味がすると言う。

これを子供の頃に、喰い散らかしたのである。
やはりこれも贅沢な楽しみなのであろうか?

その場所で「子供の頃これを捕り、大釜で茹でて、贅沢な食べ方をした!」その事が話題になったのは言うまでもない!

田舎の川には、これらの色々な生き物が住んでいたが、なまずだけは見掛ける事がなかった。
おかげで還暦を超えた今も、水族館でガラス越しの対面以外の経験はない。
しかし、これも蒲焼きが旨いそうである。考えるだけで涎が・・・

田舎での生活は貧しかったが、
自然の豊かなめぐみのおかげで、
季節ごとに贅沢な食生活を送っていたのと今更ながら感心する。

次は山の幸編を!

2013.02.06 NO:140


                    生きている姿
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                   皿に盛られた茹で上がった上海蟹?
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