山に登る目的は人それぞれでよいのですが、山頂に立つことだけを目標にすると、結果は登れたか、登れなかったかのいずれかになってしまいます。もし、登れなかったときは失望感が心の多くを占めるでしょう。

そういう私も、以前は山頂に立つことにこだわっていた時期があります。数年前の2月下旬、山岳雑誌の取材で富士山に登ったときのこと。夏は登山経験のまったくない人も登りますが、厳冬期の富士山は日本でも屈指の難度となります。

 トレーニングを重ねたものの、出発前は成功させなければならないというプレッシャーと、もしミスをしたら生きて帰れないという恐怖感にさいなまれました。そのときに山の仲間が掛けてくれた言葉は「楽しいと思えなくなったら下りればいい」というものでした。

 とても気持ちが軽くなり、そのときに気がついたのです。山頂に立つという気持ちが強過ぎて、一番大切にすべき「楽しさ」を忘れていたと――。

この言葉をもらってからは、無理をして登ることはなりました。体力が追いつかなければ素直に下山する。天候の条件が悪ければ中止する。それが安全登山につながっています。

 登れたかどうかという結果より、登っていることをいかに楽しむかが重要だと思うようになったのです。結果にかかわらず、山にいる過程がその人にとって充実していれば、登山は成功だといえると思います。

小林千穂 : 山岳ライター )


結果をもとめ、こだわってしまうことがありますが、そこに至るまでのプロセスを味わい、楽しむことも大切と気づきます。

人生、何かを成し遂げるということも大切ですが、その道のり、プロセスそのものが人生と思います。

日本には、柔道、剣道、華道、茶道など、道のつく言葉があります。これはそのプロセス、実践をあらわしているかもしれません。