1/1(月)
 
宿で一眠りしていると、猛烈な爆発音と光が宿のカーテンから、おいお前起きろと言わんばかりに飛び込んできた。
 
イスラム教のこの国でも西暦の新年を祝うらしく、今回泊まっているホテルのこのシルケジ地区でもまた、盛大に新年を祝っているようだ。
 
まだ体が日本時間で動いているのか、完全に目が覚めた俺は宿を出て商店でビールちゃんを買い、宿最寄りの大通りに出てみた。
このムーヴは「朗らか陽気なあなあ主義」の東南アジアで身につけてしまったもので、瞬発的に動いた結果ビールのプルタブを開けた瞬間若干我に返った自分に、「おいここはトルコだぜ」と突っ込んでしまった。
 
で、通りに出ると踊りたい奴は踊り飲みたい奴は飲んでいる、なんとまあめでたい雰囲気だ。
 
今泊まっている宿にチェックインする前に、スルタンアフメット地区の絨毯屋を冷やかしていたところ「New yearを祝うときはめちゃ人が出て賑わう」と聞かされていたが、まさにそのとおりだ。
 
街が賑わっている間、しばし自分も落ち着けず、もう一度寝たのは朝3時のことだった。
 
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目が覚めたのは朝の8時だった。
日本時間でいうところの14時。
日本時間で考えるとかなりの寝坊である。
 
昨夜の年越しのワクワクの余韻は完全に自分の体と心から抜け落ちたが、
今度は街でデモのような威勢の良い声が鳴り響いてきた。
それもかなりの数の人々が参加しているようだ。
かつてミャンマーでクーデターを経験した時に感じた、熱狂が通りから伝わってくる。
そして、新年早々デモとは一体どんなことに対してなのだろうと、興味のタネがニョキニョキと頭の中で芽生えてくる。
 
二日ぶりのシャワーを済ませ外に出ると、
そのデモの正体は、イスラエルに対する抗議のものだった。
 
 
 
その抗議の列は旧市街と新市街を結ぶガラタ橋へと連なっており、
したがって、
 
デモ隊の人が多すぎて今日観光したい新市街に辿り着けない(白目)
まあまあまあ。
それはそうとて、どれだけニュースを聞いていても自分ごとに考えきれないイスラエル・パレスチナ問題も、トルコにとっては隣人の問題だ。
今回のデモはイスラエルに対して「あんたやりすぎや」の抗議らしく、パレスチナの旗はもちろん、
アラブ語で書かれた鉢巻を額に結んで向かう人々もおり、
どうやら宗教もんだも絡んでいるようだ。 
 
 
そんなデモ隊によって旧市街と新市街を結ぶガラタ橋が封鎖状態になってしまった。
 
俺は今日新市街側に渡って散歩する予定だったのだが、完全に出鼻をくじかれた。
 
で。
デモ隊を避けるようにして歩いていると、エジプシャンバザールと呼ばれるバザールに着いた。
 
 
 
 
色とりどりのオリーブから、トルコのランプなど、観光客が喜びそうなものが並んでいる。
 
ここイスタンブールの旧市街は、適当に歩いていても何らかの風情のある通りや建物に巡り合うことができ、第一級の観光地だと改めて感じる。
 
そんなバザールを抜けた先に、「スレイマニエ・モスク」があった。
 
 
スレイマニエ・モスクは、その名の通り、オスマン帝国の全盛期のスレイマン大帝の時期に建てられたもので、
まあ、ミーハーな俺からすると、
名前だけでも恍惚に至れるモスクなのだが、
それだけでなく、
スレイマニエ・モスクはイスタンブールの旧市街の繁華街の小高い丘に位置しており、
なんせまあ目立つ。
新市街やフェリーから見るとひときわ目立つのがスレイマニエ・モスクだ。
 
そしてそんなモスクでまた歴史のロマンに悶絶し、一通り満足したところで外でボケっとしていると、
現地人に声をかけられた。
流暢な英語を話していたのできっとお育ちが良いのだろう。
 
で、何かというと写真を取ってほしいのだという。
なるほど、観光地だからツーショットを撮りたいのね、と彼女のスマホを見ると、自撮りモードだ。
 
つまり、俺と写真を撮りたいらしい。
 
そうだった。
トルコは外国人への興味関心その他諸々を隠さないどころか攻めくる人々なのだ。
 
大都会イスタンブールだからそんな展開はないと思っていたが、イスタンブールでもこの展開があるようだ。
 
と、「トルコの普通」を思い出した瞬間だった。
 
 
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スレイマニエ・モスクから見た街の風景は美しい。
丘の街、イスタンブール。
丘の街は住む分には大変そうだが旅をする分には上り下りがあるからこそ見える風景、上り下りがあるからこそ作り出せる風景があるので、基本的に歩いていて楽しい。
そして、大都会イスタンブールといえどもコンクリートジャングル化しきっておらず、丘から見下ろせる風景が常にあるのが嬉しい。
 
また、イスタンブールの町並みを一望して常に感じるのが、各建築物が淡い色使いをしており、街全体が独特の風味を持っている。
 
とりわけこの季節の薄曇りの弱々しい日光に街が照らされると、一層それが引き立てられる。
真夏のカラッとしたイスタンブールもきっと良いだろうが、冬のイスタンブールも味わい深いものがある。
(それと、そもそも論なのだが、海の街かつ丘の街で、宗教建築が林立している街となれば、風景が面白くないはずがない。)
 
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それにしても、まだデモ隊の威勢の良い声が街からまだ鳴り止まない。
いつまで続くのか。。。
と思いながら、デモ隊から遠ざかるように散歩を続ける。
すると、
来た、
ヴァレリアヌスの水道橋。
 
 
前日のブログでアヤ・ソフィアをたときと同じように、
また、
 
 
 
悶絶(≒昇天)
 
 
 
たまらねえなあ。
探しに行かなくても歴史的遺物がそこら中に転がっているイスタンブール、来た甲斐がある。
 
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それからも何件かモスクをハシゴしていると、ようやくデモ隊の音が静かになった。
 
やれやれ。
ようやく普通に観光ができる。
 
そう思い、旧市街から新市街に抜ける橋へと向かう。
 
その橋では、釣人が所狭しと釣り糸を垂れていた。
 
 
これ、イスタンブール名物なのです。
 
一尺もない小魚を複数の針を仕掛けたシカケで狙うスタイル。
 
金角湾の水は意外と澄んでおり、この水質なら有象無象の小魚もそれなりにおいしく食べられそうな気がしてくる。
 
俺も釣りが小さい頃から好きなのだが、大の大人が列をなして15cmもない小魚を釣って楽しんでいるのを見ると、
大物狙いもやればいいのにと思うが、
それは間違いだ。
やらないのではなくできない。
こんなに人がぎゅうぎゅうになって釣りをしていては、縦横無尽に泳ぎ回る大型魚を引っ掛けてしまったら、他人の釣り糸と「お祭り」になってしまう。
 
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で、橋を渡った先もまた起伏激しい街なのだが、ひとまずランドマークのガラタ塔が撮れそうないい感じのところを探すとした。
 
12年前にここのエリアに来たときも、いわば職人街といった感じでとりわけ栄えている印象がなかったが、今回もその印象を抱いた。
 
しかし今回は幾分きれいになっている印象を受けるのだが、それは自分がかなりの途上国感を醸し出す途上国にだいぶどっぷり浸かったのか、
 
はたまたイスタンブールの発展が著しいのかはよく分からない。
 
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ガラタ塔の近くへと丘を登ったあとは、新市街のメインストリートを歩くことにした。
 
 
12年前も歩き、12年前もほぼ同様の感想だったろうと思うのだが、
率直に言うと
 
「欧米かよ」
 
それに尽きる。
 
もしくは
 
「資本主義極まってますなあ」
 
だろうか。
 
久しぶりにヨーロッパっぽい大通りを歩けて楽しいが、
それ以上もそれ以外もない。
 
そんな大通りから少しそれた小道では、今回の旅最高の美猫が鎮座していた。
 
 
どうだろうこの堂々とした佇まい。
もふもふの毛並みとお上品な顔立ち、つんとすました姿勢、そして存在感のある大きな尻尾。
そして街ゆく人々を眺めながらも、媚びようとはしないモテムーヴ。
どれをとっても一級品だ。
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そして長い大通りを抜けた末、タクスィム広場を通り、今度はドルマバフチェ宮殿に行ってみたのだが、
 
 
曜日の都合上、閉館(チ~ン)
 
まあ、ええよ、オスマン帝国衰退期に作られた「欧米かよ」な宮殿だろ?
 
と思い残念な気持ちになっていると、朝から歩いたことへの疲労を感じ始めた。
 
するとまあ、またタイミングよく野良猫が寄ってきた。
 
 
休憩をするのにコーヒーをしばくこともチャイをしばくこともできるこの国だが、それ以上に猫と戯れることで休憩ができるという、これぞイスタンブール。
 
こんな国他にあるだろうか。
まあたしかに東南アジアだと野良犬と戯れることはできるっちゃできるが、その犬が狂犬病のワクチンを打っているともかぎらないので、ホント自己責任の世界だし、
 
野良犬は夜に野生に目覚めてしまった奴と対峙することのほうがずっと印象深くあり、正直野良犬は恐怖の対象だ。
 
ちなみにこの街もちょいちょい野良犬がいるのだが、日本ではほぼお目にかかれないほど大型の犬種で、
しかも、東南アジアのぐた〜〜っとやる気のない奴ではなく、
まっ昼間から縄張りをマークしている感があり、
これは夜どころか日が傾き始めてからは近寄りたくない。
 
野良犬は嫌いだ。
 
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その後は宿のあるシルケジ地区に戻り、メゼをつまみにビールを頂く。
 
 
メゼは冷菜盛りといった感じの料理で、フムスのような近年日本でも聞かれるようになった料理から、トルコらしいヨーグルトを使った冷菜、ブドウの葉で包んだ肉料理など、ちょっとの量のおつまみを色々食べたいという日本人の色のニーズに応えている料理だ。
 
今回食べてみて改めて美味しいと思ったのは、ヨーグルトにミント、ニンニク、オリーブオイルを混ぜた料理で、これがまたコクと爽やかさが両立されていてお酒に合う。
作り方もそれほど難しくなく、素材もおそらく日本で手に入るはずのものなので、帰国したら真似したい。
 
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そんな食事を終え、ホテルでのんびりしていると、窓のすぐ近くで物音が。
もしや、と思い、ネコ語を話すと、
「ニャ~~~~~~ン」
というリアクションが。
窓のあたりを指で軽くたたくと、いらっしゃいました、ネコチャン。
 


歴史的ロマンとネコチャンの街、イスタンブール。
チュールを持ってくればよかった。