肩書:精神科医、パナソニック健康保険組合東京健康管理センターメンタルヘルス科部長
参照著書:なぜうつ病の人が増えたのか
- はじめに
「なぜ日本ではこれほど急激に短期間でうつ病患者が増えているのか?」
「ある病気の患者数が6年間で2倍に増えるということは、医学的にはかなり稀な現象である」
このように言い、増加原因について「実はそれほどきちんと検証されているわけではない」と言います。
また、ストレス社会だからうつ病が増加しているなどといわれますが、それは主たる要因ではなくもっと別にあり、そしてこの問題は日本だけでなく世界的なものだと言います。
「この要因によるうつ病患者の急増はグローバルなものであり、他の先進国においても認められた現象だった」
「おそらく本書を読む最大のメリットは、グローバルなうつ病診療の流れを理解できることだと思う」
ちなみに、著者は次のように中立的な立場に立つことを表明しています。
「重箱の隅をつつくような反対論を唱える気もない。できる限り中立的に、うつ病診療の問題とその解決のための情報を伝えようとしてみた」
第二章 なぜ1999年からうつ病患者が増えたのか
「うつ病患者数」「メンタル休職率」「抗うつ薬の売り上げ」の3つのいずれも、「1998年までは特に大きな変化がなかったが、99年から飛行機が離陸するかのように、突然右肩上がりに増えた」と指摘します。
「いったい何が原因で99年を境に、うつ病患者が突然急激に増え始めたのだろうか?」
このように疑問を提起し、その原因を追究していきます。
「SSRIが市場導入されると、うつ病患者やメンタル休職者が爆発的に増加するという現象は、日本以外の先進国で繰り返されてきた社会現象なのである」
そして、10年遅れた日本で、「今同じ現象が起きている」と言います。
「SSRIの発売は、どの先進国においても、うつ病患者の急激な増加を引き起こすのである」
〇療法の比率が変化した
今では薬物療法が当たり前ですが、「以前は精神療法の比率が高かった」と言います。
「今ではとても想像できないことだが、87年当時、抗うつ薬よりも精神療法を受けるうつ病患者のほうが圧倒的に多かったのだ」
第三章 なぜ「SSRI現象」は起きるのか
「実は私自身も、いろいろなデータを調べるまでは、ここまでSSRI導入がうつ病患者の増加をもたらすとは、予想していなかった」
このように言い、増加の仕組みを説明しています。
〇病気づくり
ほとんどの日本人は、「うつ病患者が増加したため、その対応策としてうつ病の啓発活動が行われるようになった」と信じていますが、それは逆で、「うつ病の啓発活動が始まったため、うつ病受診者が増加した」と言い、「原因と結果を取り違えている」と指摘します。
・日本での宣伝
「日本の医療関係者には、製薬会社が行う病気の啓発活動など大した影響はない、と思っている人もいる。しかし、病気の啓発活動に患者を増やす力があるかどうかを議論する時代はとうに過ぎ、現在は社会がこの強大な力にどう対応すればよいのかが問題となっている」
・医師の知識
「ほとんどの医師は製薬会社を通じて新薬の知識を得る。新薬を理解するため、自分の時間と労力を費やして徹底的に文献を読み、しかるのちに薬を処方する。こんな医者はほとんどいない」
〇見直しは難しい
「新薬に関するよい情報ばかりを毎日シャワーのように浴びていると、新薬が従来薬より優れていることが、段々当たり前のように思えてくるのだ」
「確実にいえることは、SSRIは、薬理学的効果というよりも、プロモーション力によって精神科に大きな変化をもたらしたということである」
「薬価の高いSSRIが市場導入されると、どの国でも必ずうつ病の啓発活動が盛んになる。国や学会によるうつ病キャンペーンが始まり、やがてうつ病患者が数倍に増加していく」
「意識してもしなくても、大きな流れの中に患者や医療者を巻き込んでいく。人間社会のダイナミズムのようなものさえ感じてしまう」
〇未確定なものばかり
「世間の人々が想像する以上に、医療というものは、かなり未確定な知識の上に成り立っているものなのである」
このように言い、「メタボ」「コレステロール値」「レントゲン検診」などを挙げて、何が正しいか確定されてないものは多くあると言います。
第四章 「SSRI現象」によるうつ病診療への影響
「これで同じ病名でよいのかと思うぐらいうつ病の経過は多様である」と言います。
〇不都合な真実
「病院を受診していないうつ病患者層は、病院を受診しているうつ病患者層よりも明らかに経過がよいのである。治療を受けないのに、治療を受けている患者よりも早く改善しているのだ」
このように言い、この事実は製薬会社にとって「不都合な真実」だと言います。
「元々健康な職業集団に対して、毎年繰り返しうつ病エピソードがあるかどうかを確認しながら、15年の長期にわたって追跡したところ、大半の参加者がうつ病の診断を満たしてしまった」
「そもそもDSM-4のような操作的診断基準は、あらゆる精神的不調に何らかの病名がつけられるように作成された、非常に間口の広い診断基準である。DSM-4で一般の米国人を診断すると、2人に1人は何らかの精神科病名がつけられるほどである」
そして、著者はこう結論づけています。
「うつ病への意識が高くなればなるほど、自分をうつ病と認識する人が増える」
「うつ病への認識が高い社会ほど、うつ病と診断される人が多くなる」
「啓発活動はうつ病患者そのものを増やし、さらに受診率も増やす相乗効果がある」
「うつ病患者の増加に受診率の上昇という効果が重なることによって、通院患者が相乗的に急増する」
第五章 抗うつ薬の有効性について
〇隠蔽
「うつ病が改善するのは患者本人の自己回復能力のおかげであり、抗うつ薬による薬理作用の部分は20%以下である。製薬会社は自分らに不都合なデータを隠蔽することによって、抗うつ薬の有効性を実体以上に強調してきた」
「その弱い抗うつ薬の効果も、重症うつ病においては比較的認めやすいが、軽症うつ病の場合、抗うつ薬とプラセボの差はほとんどない。軽いうつ病にまで抗うつ薬による治療を勧めることはおかしい」
「以前から抗うつ薬の比較試験での失敗は知られていたが、約半数が失敗しているという事実は衝撃的であった」
〇治療ガイドライン
日本では重症度にかかわらず薬物治療から勧めていると言います。
「日本の学会には、軽症うつ病には最初から抗うつ薬を投与しないようにしようという動きは、私の知っている限りまったくない」
〇自殺率
2000年に、カーン教授らが連邦情報公開法を利用し、FDAに対してプラセボ対照試験のデータを請求し調査したところ、抗うつ薬服用群のほうがプラセボ投与群よりも、自殺者の比率が高かったといいます。
「カーンらの論文は衝撃的であった。なぜなら当時製薬会社は、自殺予防を前面に押し立てて、うつ病の啓発活動を行っていたからである」
「カーンはデビッド・ヒーリーのようなSSRIに批判的な研究者でもないため、その結果に関係者は戸惑った」
〇利益供与
「それにしても、SSRIを評価する論文や学説を次々に発表してきた大物研究者たちが、製薬会社から多額の不正利益を得ていたとなると、一般の精神科医や患者は何を信じて良いのかわからなくなってくる」
- おわりに
本書の最後にも、次のように書いています。
「精神科医という仕事柄、製薬会社のプロモーション活動には気がついていた。しかし、正直これほど強い影響力があるとは知らなかった」
「専門家は業界の中にいるので、業界の利益に関わる問題を議論するのは難しい」
「アウトサイダーの立場の人が指摘することによって初めて問題が露呈することが多い」
付録2 精神医学の実態
1.アレン・フランセス
2.ロバート・ウィタカー
3.井原裕
4.冨高辰一郎
5.マーシャ・エンジェル
6.デビッド・ヒーリー
7.内海聡