肩書:精神科医、獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授

参照著書:うつの8割に薬は無意味

 

序章 「8割」の方のために

「本書のタイトル『うつの8割に薬は無意味』という表現は誇張ではありません。事実です。精神科医は、皆、知っています。知らない精神科医はいないはずです」

「すべての精神科医は、常識としてこの事実を知っていなければいけません。なぜなら、それは最近になって明らかになった新発見ではなく、古くから知られている常識だからです」

「精神科医だけではありません。製薬会社の人たちだって知っています。特に、精神科医薬剤を担当しているMR(医薬情報担当者)は、皆、よく知っています。知った上で、『2割もの人に効くのだから』ととらえて、抗うつ薬の販売促進活動にいそしんでいます」

 

第1章 あれもうつ病、これもうつ病

〇グレーゾーンが増える

25年もの間、うつ病の臨床に携わりながら精神医学を勉強してきた著者ですが、「そうすればするほど、うつ病とは何かがわからなくなってきました」といいます。

問題は、明らかにそれとわかる重度のうつ病ではなく、軽いうつ病などグレーゾーンのうつだと言い、うつ病とされる人の大半はグレーゾーンだと言います。

「悩める健康人までもがうつ病と診断される傾向が顕著になっている」

「昔に比べ、比較にならないほど拡大し、拡散し、その結果、うつ病の姿は輪郭不鮮明なものとなってしまった」

このように言い、DSMによる操作的な診断が普及したことがグレーゾーンの拡大につながっていると指摘します。

・健康がわからない

「医学には健康の概念がない」と言い、「医学は病気の定義を山ほどしているが、教科書のどこを見ても健康とは何かは書いていない」と言います。だから、医学生はひたすら病気を学び、患者を見た医者は「この人は健康かもしれない」という意識が吹き飛び、「どの病気なのか」ということだけが関心事になると言います。

 

・病気にされる

多くの精神科医は、まず「この人は理由があってここに来た。その理由はきっとうつだろう」と考え、そして、ここに来る人は疲れた人たちなので、たちまち診断カテゴリーにあてはまってしまい、結果として薬が出されることになるといいます。

「本人としては『病気にしてください、うつ病と診断してください、薬を出してください』。そう頼むつもりではなかったはずです。でも、結果はそうなります。必ずや、うつ病もしくはうつ状態と診断され、抗うつ薬が出てくることでしょう」

 

〇薬を出すしかない

健康人の悩みに対して、「薬を出すしか能がない」と言います。

「本当に必要なのは精神療法だが、精神科医の多くは教わったことがないので精神療法ができず、薬を出すしかない」

・善意があるから根深い

精神科医は優しい人ばかりで、悪意がなく善意に基づいているからこそ根深いのだと指摘します。人の役に立ちたい、助けてあげたいという奉仕感は人一倍あるものの、できることは薬物療法だけなので、助けたい一心で薬を出しており、悪いことをしている意識はまったくないと言います。

「悩める健康人が精神科を訪ねるとは、つまるところ、薬を出されて、お茶を濁されることなのだと、覚悟しておいてください」

 

第2章 「心の風邪」キャンペーンは、誰のためか?

うつ病患者の急激な増加は製薬業界によるうつ病啓発キャンペーンが一因と指摘し、その流れを説明しています。

〇共通する特徴

製薬会社が宣伝する対象となる疾患の共通点として4つ挙げています。

・正常と異常との境界領域を狙う

・致死的でも緊急性もないものを狙う

・何万人に1人しかいない希少疾患ではなく、数人に1人というような、ごく普通の疾患を狙う

・投薬期間が長期にわたる疾患を狙う

 

〇病気を広める

医薬品の宣伝は厳しい規制がかけられているため、「薬のかわりに病気の宣伝をして、人々を不安な気持ちにさせて、薬を出してくれる病院へと送りだそうとした」と言います。

 

〇犬になった精神科医

「私ども精神科医は、これまで製薬会社による情報操作に、いとも簡単に踊らされてきました」

「いつの間にか精神医学の客員教授のごとき地位を得ています。精神科医たちは、気がつけば製薬会社に教えて頂くような立場に成り下がり、教授の指導に従う研修医のように、MRの声に耳を傾け、薬剤のパンフレットを精神医学の教科書とみなすようになってしまいました」

「条件反射でよだれを垂らした犬のように、精神科医たちは『うつ』と聞けばただちにSSRIを処方するよう条件づけされてしまったのです」

 

〇効果がない

2012年、日本うつ病学会の「軽症うつ病については、プラセボに対し確実に有効性を示し得る治療薬はほとんど存在しない」という宣言や、「SSRIの効果は小麦粉と変わらないことを証明する論文」、「最初は向精神薬ブームを好意的に報じていたが、批判的になった」というNHKの例などを挙げて、薬に効果がないことを説明しています。

 

〇長く使わせようとする

製薬会社のマーケティングの流れをまとめています。

「まずは、『疾患啓発』によってまだ受診していない患者を受診させ、『早期発見、早期治療』によって服薬を直ちに開始させ、『上限まで増量』『最大量をそのまま維持』と言って患者に少しでも多く、少しでも長く、薬を使わせ、場合によっては、『服薬中止によって再発するリスクがある』といった脅し文句を使い、さしたる根拠もなく『生涯にわたる服薬が必要』と強調し、薬をやめようとする患者に対しては、『薬を飲み続ける必要性』を主張して、ストーカーのようにしがみつく。これが製薬会社の基本姿勢です」

そして、「製薬会社の辞書には、健康という言葉はありません。なぜなら健康な人は薬を使ってくれないからです」と言い、製薬会社は「ライフスタイル・ドラッグ」へ急速に向かっているといいます。「ライフスタイル・ドラッグ」とは、発毛促進剤、痩身剤など、疾患の治療というよりも日常生活上の不便や不快を解消するような薬のことです。それは、すぐ治せたり、すぐ死んでしまうような患者に向けた薬では長く使ってくれないためだと指摘します。

 

〇患者にも責任がある

薬漬けは、「精神科医・製薬会社・患者の三位一体で起こり、薬を求め、副作用も理解し、あえて薬剤を自ら選択しているため、患者にも責任がある」と指摘します。精神科医も製薬会社も、「患者が求めたから売っただけ」という反論を用意しており、患者がこれを崩すのは難しいと言います。

「精神科医が処方しないかぎり薬漬けは起きないため、薬漬けの責任の第一は精神科医にある」

「第二は精神科医をそそのかして薬漬けを引き起こした製薬会社にある」

しかし、どちらも責任をとってくれないため、患者自身が「絶対に騙されないぞ」という思いで臨む以外ないと言います。

また、たとえ精神科医がなくなっても、苦しくなると薬にすがるという患者自身の弱点がなくならない限り、根本解決にならないと指摘します。

「『自分かわいさのあまり、油断して薬に走る』、このような人間の根本的な弱さに向き合うことをしなければ、向精神薬乱用問題は、麻薬乱用問題にすり替わるだけでしょう」

「薬でごまかすのではなく、皆、ある大切な事実に向き合わなければなりません。それは、心の痛みも不安も憂鬱も、すべては人生の一部であり、薬でごまかすことはできないということ」

 

第3章 「脳の病気」は本当か?

一般のうつ病の書籍は、「心に癒しを」と言いながら、治療になると「脳の病気だから薬」という流れになっていると指摘します。病院でも同じ状態になっており、抗うつ薬が機械的に出されていると言います。

「『脳の病気』仮説にしがみつく狂信的な精神科医というものは、その実、精神療法のできない2流の精神科医にすぎません」

〇脳科学では治せない

脳科学で診断しようとする研究が進んでいることに触れ、診断はできても治療は別問題だと言います。

「結局、その患者さんの背景を探り、それに応じた適切な対応を考えなければいけません。それをすることこそ精神科医の役目です。脳科学とやらにそこまでのことができるわけがないのです」

 

第7章 うつと診断されたら 本人、家族、会社は?

〇質がバラバラ

精神科医にかかるのはギャンブルであり、クオリティにばらつきがあると言います。

「私は、メンタルクリニックがいかにクオリティ・コントロールされていないかを知っています」

「ロシアンルーレットとまでは言いませんが、パチンコ程度には負ける確率が高い。その覚悟が必要です」

 

〇企業の負け

従業員のメンタルヘルスは精神科医に丸投げするのではなく、会社でできることはすべきだと言います。

また、休職の診断書が出てしまえば企業は手が出せなくなり、利益は1円ももたらしてくれないが給料は払わなければならないという状況になるため、精神科に行かれてしまったら企業は負けだと言います。

「精神科医のところに行かれてしまった時点で、もう企業としては敗北だと考えるべきです」

・足を引っ張る

そして、精神科医は社会の足を引っ張っていると指摘します。

「残念ながら、今日の日本で、精神科医は高度産業社会の足を引っ張っています。疲れ果てたビジネスパーソンたちを、ドックに停泊させて、メンテナンスを行って、元気な状態にして企業に返すのではなく、逆に、ますます悪化させて、2度とカムバックできないようにしてしまっています」

 

終章 医師と患者、大いなる誤解を越えて

現代の日本人は、気軽に精神科医に相談しに行くようになり、結果として起きたことは「悩める健康人の大量のうつ病化」だと言います。

「悩みは解決されるどころか、薬漬けになってさらに別の苦しみさえ付加されてしまいました」

〇精神科医は治せない

「精神科医なんて職業は、この世から消えてなくなっても大したことはありません。ただ、患者さん自身が『自分の問題を解決できるのは自分だけ』という自明の事実に向き合いさえすればいいのです」

「うつ病を精神科医なんかが治せるわけありません。この世に患者さんを治せる精神科医なんて一人もいません」

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付録2 精神医学の実態
1.アレン・フランセス
2.ロバート・ウィタカー
3.井原裕
4.冨高辰一郎
5.マーシャ・エンジェル
6.デビッド・ヒーリー
7.内海聡