心は、変えようと思っても思うように変わってくれません。行学でないと、とても変わるものではなく、自己はわかりません。座学も大切ですが、どうしても頭だけの理解になってしまい弱いのです。この一因は進化論で説明できるものかもしれません。

「想像の中で食べて満足してしまうと、栄養不足で死んでしまいます。進化の原理からすると、人間の想像力は高いものの、現実ほどにはありありとしていない範囲に抑えられているに違いありません」(石川幹人/明治大学教授)

認知を変えるために行動が重要であることは、認知行動療法でもいわれていることです。

ちなみに、依存症が治り難い理由の1つは、最終的に実行してしまう(欲を満たしてしまう)ことにあるでしょう。体験は強い力があります。実行しないでいれば治っていくはずです。

・目的は自己を知るため

注意が必要なのは、行動する目的はあくまで心を変えるためであり、自己を知るためです。

動作療法を提唱している臨床心理学者の成瀬悟策(九州大学名誉教授)は、「主体の変化そのものが狙いであって、動作するということはそのための手段・方便である」と言います。

自己を知るという目的を忘れ、行動量を増やすことばかりに意識が向く仏教もありますが、それは間違った仏教であり本末転倒です。

 

・仮時

仏教には「仮時」という言葉があり、「ケガをして痛かった時」とか「プロポーズが成功した時」といった時を指します。

仏教では、「午前1時」とか「午後1時」といった実時よりも、仮時を重視します。

 

・ちょっとした心がけ

利他にしても何にしても、ちょっとした心がけが大きな違いを生みます。行動量を増やすという視点も大切ですが、その前にまずは心がけを見直すべきです。少し意識を変えるだけでも結構違いが出ます。

 

・心は後からついてくる

良くも悪くも行動した通りに心が作られていきます。

心がきちんとしてなくとも、きちんとした行動をすることで心もきちんとなっていきます。心がきちんとしていても、だらしない行動をすることで心もだらしなくなっていきます。

間違った言動をすればするほど、ますます間違った信念になっていき、正しい言動をすればするほど、ますます正しい信念になっていきます。

 

・形をつくる

形についても同じことがいえます。人間は形に影響を受けます。このことは体験的にわかっている人が多いと思いますが、研究している人もいます。

心理学者の春木豊(早稲田大学名誉教授)が、著書「動きが心をつくる」の中で紹介している事例です。顔の方向が「上向き」「正面」「下向き」のそれぞれについて、背骨が直立の場合と曲げた場合の計6種類の姿勢をとったところ、首が下向きの場合と、背筋を曲げた場合でネガティブになったといいます。

「うつ気分になるとうつむき姿勢になることはだれしも経験していることであるが、逆にうつむく姿勢をとると、うつの気分がかもし出されるともいえるだろう」(春木)

また、視線を下に向けただけで、うつ気分が大きくなったという事例や、うつむきの姿勢で音楽を聞くと他の姿勢よりネガティブに聞こえるという結果なども紹介しています。

部屋が散らかっていたり、身なりがだらしなかったり、心が不健康だと様々なことにいい加減になりやすく、ますます心が不健康になっていくので、すべてきちんと整えます。

ちなみに、警察官は身なりが汚い人を怪しむといいます。

 

・治ったように見せる

もっと言えば、心の病が治ってなくても治ったかのように明るく振舞うという視点も大切です。

嘘でもポジティブなことを言えば、心も必ず良い影響を受けます。また、そうすれば人にも良い影響を与え利他になります。

逆に、ネガティブなことを言えば、自分にも人にも悪い影響を与えます。

ちなみに、明るく振る舞うことは社会生活で最低限度のこととして要求されることでもあります。

 

・できることがある

「行動が重要です。できることからやってみてください」と言うと、「何もできない」という返事がよく返ってきます。

しかし、どんな人でもできることが必ずあります。会話ができなくとも挨拶ならできるでしょう。人に挨拶ができなくとも動物にならできるでしょう。どんなに小さくとも、できることを見つけてコツコツと積み重ねることで、心の病を治すことも、もっと大きな成功を収めることもできるようになります。

 

・できたことに目を向ける

また、できたことに目を向けることも有効です。

そうすることで、「できなかったらどうしよう」という予期不安を消すことができ、自信につながります。成功体験を思い出すことで前向きになり、脳機能が高まり、気づきも高まることがわかっています。そして、行動する→できたことに目を向ける→自信になる→もっと行動できる、という流れを生みやすくなります。

 

・記録する

記録するだけで痩せるというレコーディングダイエットもありますが、行動した結果を記録することも有効です。悩みを言葉にすることで客観視することができます。目に見えない心の世界を、目に見える形にするということです。

言語化する際の注意点として、何が原因でどのような悩みを抱えるようになったのか、因果関係を明確にして具体的に書きます。そして、仏教療法を少しでも実践した人なら、何をどう実践してどうなったのか、同じように因果関係を明確にして具体的に書きます。このように言語化すれば、アドバイスするほうもアドバイスしやすくなります。

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1.7 行学(気づくまで行動する)
行動しないと自己はわからない
正しい努力