習慣の力は非常に強いため、これは恐怖でしょう。しかし、その恐怖に立ち向かうのです。自己を直視するということは、苦に立ちむかうということでもあります。何度も直視して立ち向かっていると、やがて恐怖が消え改善に向かいます。

・気づけば改善

仏教には「サティ」という言葉があります。日本語で「気づき」、英語で「mindfulness(マインドフルネス)」を意味します。 

仏教は自覚教ともいい、「気づき」は非常に重要です。昨今、「マインドフルネス」が流行しており、「気づき」の重要性はよく知られるようになりました。小さな「気づき」を繰り返すことで、やがて大きな「気づき」である「悟り」を開くことができます。

「決まりきったことや習慣は学習された機能であり、それを変えるには常に新しい気づきが与えられることが必要である。何かを変えるには別の方法や考え、ふるまいの可能性がなければ変えようということすら考えられない。『気づき』がなければ新しい選択の可能性すら思いつかない」(フレデリック・パールズ/精神科医/ゲシュタルト療法の創設者)

 

気づいた瞬間が客観視できた瞬間であり、「気づき」はそれだけで即改善につながります。

 

・境界が見えてくる

また、自己を凝視することで、心の病を引き起こす心の働きが見えてきます。どう考えれば心の病になり、どう考えれば心の病にならないのか、その「境目」が見えてくるということです。

 

・素直になる

よくいわれるように、「こうあらねばならない」という頑固なクセが染みついてしまっています。「こうあらねばならない」と「自分ルール」を決めてしまえば楽ですが、我慢すべきでないところで我慢したり、バランスが悪く不自然なので、臨機応変に対応できるようにすべきです。

 

・事実を受け入れる

心の病になったという事実、そして自分の力で治せていないという事実を素直に認めるべきです(心の病という言葉が適切かは別として)。

金メダル23個を含むオリンピック最多の28個のメダルを獲得した「水の怪物」、マイケル・フェルプス。

彼は、「ひたすらハングリーに上を目指していた」「自分の限界を極めたかった」と思う一方で、「五輪が終わるたびに気分が大きく落ち込んだ」といいます。北京大会から数週間後、大麻を吸っている現場を写真に撮られます。「薬物は何かから逃げ出したい、逃げ出そうとするときの手段だった」と言い、ロンドンオリンピックの後は特に深刻で、「水泳をしたくなかった。もう生きていたくもなかった」と語ります。

しかし、気持ちを口に出し始めた時から、生きるのが楽になったといいます。

「なぜ10年前からこうしていなかったのかと、何度も自問した。でもそのときはまだ用意ができていなかったんだ」

「かつての自分は話したくないこと、向き合いたくないことを常にしまい込み、どこかへ片づけてしまうのが得意だった」

「打ち明けるのが怖い、だから自殺率が高くなる」(フェルプス)

 

イギリスのヘンリー王子も、精神的に破綻寸前でセラピストにかかっていたそうですが、自分の感情をオープンに話すことで救われたといいます。

稲盛和夫も次のような話をしています。

「私は、鹿児島弁しかしゃべれず、田舎者だということで、非常な劣等感に苦しんだことがあります。自分ができないことをできるようなふりをするのではなく、できないことをできないと素直に認めて、そこからやり直していくのです。これが大切です」

 

・自己を知るのは難しいこと

しかし、自己を知るというのは非常に難しいことです。そのため、昔から求道者は血のにじむ努力をしたのです。

「『気づき』を促すためであれば、時に大きく感情を揺るがすような攻撃的言動も辞さないほどの姿勢が取られ、まさしく壮絶な苦闘が繰り広げられることもしばしば見られる。『気づき』という契機は、それほどの努力をもってして、ようやく得られる困難な過程であり、またそれほどの努力をしてでも手にするべき、重大なものであるともいえるだろう」(安藤治/精神科医/花園大学教授)

しかし、心の病の改善というレベルであれば、それほど難しいことではありません。

 

・ツールを活用する

自己を知る1番早い方法は、正しい先生が24時間つきっきりでアドバイスすることです。今、その瞬間に何をどうしたらいいのか、その人にとって的確なアドバイスを受けることができれば理想的です。

しかし、現実的にそれは難しいことです。ですので、ツールの活用が重要になります。当会でも本やネットでできる限り情報を提供しています。将来的には、人工知能ロボットなども、ある程度は「先生」の代わりとして期待できます。完全な代わりとはいかなくとも、近づくことはできるはずです。

ちなみに、現代のカウンセリング業界は、アドバイスする側にとってもされる側にとっても、往々にしてかなり効率が悪いので、ITなどでもっと効率化すべきです。その人にマッチした解決法というのがあるのですが、今のやり方だとマッチングしづらいのです。もしかするとIT企業が心の病を治すようになるかもしれません。

 

・自分で気づくしかない

「気づき」を得させるために仏教でも様々な教えが説かれていますが、最終的には自分で気づくしかありません。ガリレオは、「人を教えることはできない、ただ自悟させる手助けをするにすぎない」と言いましたが、自分で自分の欠点に気づいて自分で良くしていくしかないのです。

どんなに優れたカウンセラーがいようが、本人の努力は必要不可欠です。どんなに優れた薬があっても、本人が飲もうとしなければ意味がないようなものです。「本人の努力」という因と、「優れたカウンセラーや薬や治し方」といった縁が和合して「治る」という結果が生まれます。

 

・絶対治るか

本人の努力にもよるので、絶対治るとはいえません。ただ、冒頭でも触れたように今のところ真面目にやった人は皆、改善しています。

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1.6自己を知る(クセに気づくだけ)
直視する
心の病は自分が生み出した世界
罪悪観
欲はコントロールできる
性を知る
仏教は自己を知るためにある