利他という行為の中に、「苦に立ち向かう」「善をする」「コミュニケーション」etc.メンタルヘルスに重要なキーワードが数多く詰まっています。
利他が心身に良い影響を与える研究はゴマンとありますが、最近では心の病にも有効であることがわかってきているようです。
「最近の研究では、社会不安障害の改善には親切がかなり大きな効果を及ぼすことがわかっている。(中略)親切にするとその人たちは幸せを感じ、人前でも以前より安心していられるようになるのだ」(デイビッド・ハミルトン著「親切は脳に効く」より)
「利他的な人は、そうでない人より、直観的に相手の真意を見極め、他人を正確に判断できることがわかっている。利他的な人のほうが、人の振る舞いや考え、気持ちに敏感なので、手掛かりを見つけやすいのだ」
「利他的な人は自分の思考、感情、振る舞いをコントロールするのが得意なことが明らかになっている。筋力トレーニングを積んでいるうちに、だんだんと筋肉が鍛えられるように、利他的な行いによって気力も鍛えられていくのかもしれない」
「24歳以上のアメリカ人2800人を対象にしたある調査において、ボランティア活動をすると1年後、幸福度、人生への満足度、自尊心が高まり、うつ病が軽減したのである」
「人に何かをしてあげることは生きがいをもたらし、自分自身の問題から目を逸らさせ、人から評価されていると感じさせるようだ」(アダム・グラント/心理学者/ペンシルベニア大学教授)
また、気持ちが前向きになると視野が広がり気づきが高まることもわかっています。
利他が心の病の改善につながるのは、生命の進化の視点で考えれば当然のことなのかもしれません。
「人間と人間を結びつける目に見えない力を注意深く眺めてみると、さらに深遠なことがわかってくる。私たちの脳も体も、別個にではなく集団で機能するよう設計されているのだ。社会的なつながりは、たんなる潤滑油ではなく、人間のオペレーティングシステムの基本的な構成要素なのだ」(ジョン・T.カシオポ/シカゴ大学教授)
「ヒトは、利他主義をテコとして個体レベルだけでなく集団レベルの選択の結果として生まれた。そこに言語の発生が加わることで、遺伝と文化の共進化という進化のブースターがもたらされる」(吉川浩満著「ヒトの社会の起源は動物たちが知っている 『利他心』の進化論」より)
・利他をすると人の心がわかる
アダムが言うように、利他をすると人の心がわかるようになってきます。たとえば、「自分が思い込む人が気にしていること」ではなく、「実際に人が気にしていること」がわかってきます。
・我慢より利他
利他をすべきタイミングなのに、そうはせず、じっと苦しみに耐えようとしている人は多いです。
これは自分に意識が向いている状態であり、利他の視点が抜けているので良くありません。一見すると苦しみに立ち向かっているように見えて、心根は楽をしています。いくら我慢してもほとんど何も変わらないはずです。利他をすることは自制心を高めることにもつながります。こういった点からも仏教は注目されているようです。
「数千年にわたって自制心を研究してきた仏教が教えてくれる知見は、真剣に受け止めるべきだ。自制心を高めるには感情を抑えるのではなく思いやりのような感情を養うのが1番である、という考え方をはじめとした、仏教の知見の数々が、最新の科学的調査の結果とぴったり一致しはじめた場合には、とりわけそうだろう」(デイヴィッド・デステノ/ノースイースタン大学心理学教授)
・苦しくなったら利他
ちなみに、心の問題に関しては、苦しいと感じたら利他が足りないと思ってだいたい間違いありません。
「苦しくなったら利他」「症状が気になったら利他」という具合に、苦しみが利他をするようケツを叩いてくれていると思うべきです。
「自分の悩みでいっぱいなのに、人を幸せにする余裕などない」と思うかもしれませんが、この発想がそもそも苦しみを生み出しています。人の幸せを優先し、後から自分の悩みが消えるという流れを取るべきです。「苦しい→利己的→ますます苦しい」の悪循環から、「苦しい→利他→楽になる→利他がしやすくなる→もっと楽になる」の好循環へと変えていく必要があります。
・引きこもりでも生きられる日本
現代の日本人は、幸せは他人と競争して手に入れるものだと考えたり、他人とは別個の存在と考え「共通点」に目を向けなかったり、人付き合いをしなくても生きていけたりします。つまり、不二の教えに反し、自利利他に反する生き方になりやすく、精神が悪化しやすいのです。
ちなみに、イギリスのCAF(Charities Aid Foundation)というチャリティー機関が125カ国以上の国々を対象に各国の寛容度を採点したところ、日本は総合順位で107位で、先進国で最下位だったといいます。調査は2009年から2018年までの10年間に渡って行われ、「見知らぬ人、あるいは、助けを必要としている見知らぬ人を助けたか」という項目では、日本は125位と世界最下位だそうです。
・心の引きこもり
心の病は、自分の殻に引きこもろうとする習慣による強い力が働いているので、外へ向ける力を加える必要があります。その方法の1つが利他です。
家に引きこもるのはもちろん、外に出ても人とコミュニケーションを取らないでいると苦しくなります。また、マスクやイヤフォンをつけるとコミュニケーションが取りづらくなり、心の引きこもりにつながりやすいので注意が必要です。
日々の行為を反省すれば、人のために使う時間は非常に少なく、ほとんどは自分の時間です。1人の時間を減らし、人に使う時間を増やすべきです。
・人の悩みを気にする
心の病は自分のことで苦しんでいる状態なので、人の悩みを気にし、人のことで苦しむべきです。その苦しみは利他心から生まれた苦しみであり、自分のことで苦しむのとは質の異なる苦しみであり、価値ある苦しみです。どんな人でも悩みを持っており、気にしていることがあるので、そのことを気にするのです。
1.5自利利他(人の幸せを優先する)
〇孤独の怖さ
〇利他の力
〇何をしたらいいのか
〇よく話す
〇利他心
〇利他の欠点
〇誹謗中傷の受け止め方