すべての苦を、大きく「生老病死」の四つに分類したものを四苦といい、これに「愛別離苦」「怨憎会苦」「求不得苦」「五蘊盛苦」の四つを加えたものを八苦といいます。現代では、非常に苦労することを四苦八苦といいますが、本来はこのような意味になります。

・生苦

生まれ出る苦しみです。

生きることは苦しみの連続ですが、そのもととなる苦しみです。赤ん坊は泣きながら生まれてきます。それはまるで、泳ぎ方を知らない赤ん坊が大海に放り出されるような苦しみといえます。

その昔、ミダスという王様が賢人シレノスに「人間にとって最も幸せなことは何か」と聞きました。するとシレノスは「それは、生まれてこないことです」と答えました。しかし、すでに生まれてしまった王様は「では、2番目に幸せなことは何か」と聞きました。するとシレノスは「それは、今すぐ死ぬことです」と答えました。

この話は、生まれることが苦しみのもととなっているということを教えています。もっとも、「死後は必ず地獄」という事実を知らないからシレノスはこうアドバイスしたのですが、生まれることが苦しみのもとであるという点はその通りです。

(人間の死後が必ず地獄であることは、第1巻で詳しく説明しました)

 

・老苦

老いる苦しみです。

どんな人でも年を取れば、衰え弱くなります。いくら外見を若く見せても、その衰えはごまかし切れません。外見が老けたり、物覚えが悪くなる程度であればまだいいですが、要介護者となったり寝たきり生活となれば、自分はもちろん、周囲の人間にとっても大きな苦痛です。

 

・病苦

病気になる苦しみです。

「人は病の器」といわれるように、次から次へと病が生じ、大半の人は病気で死にます。病気は四百四病あるといわれ、これは無数にあるということですが、どれほど医学が進歩しても、結局は病気に負ける運命にあります。

人間の命はあっという間ですが、いわゆる健康寿命はもっと短いです。重い病にかかれば天を仰ぐようにして激しく苦しみますが、死にたくないために激痛に耐えてでも治そうとし、体が機械化してでも生きようとします。死にたくない欲求と死にたい欲求がせめぎ合うのです。

 

・死苦

死の苦しみです。

本書の主題ですが、人間にとって最大の苦しみが死苦です。他のどんな苦しみも死の苦しみに比べれば、無きに等しくなってしまいます。

 

・愛別離苦(あいべつりく)

愛する人と別れる苦しみです。

「会うは別れの始め」といわれますが、会者定離であって、出会ったからには離れる定めにあります。一瞬で大切な人を失うことがあり得るのがこの世界です。意識するとしないとにかかわらず、別れの時は刻一刻と確実に近づいています。

そして、いざやってくれば、その大きな衝撃に塗炭の苦しみを味わうことになります。嫌いな人と別れるなら嬉しいでしょうが、生き別れにしても死に別れにしても、大切な人との別れは耐え難いものがあります。

 

・怨憎会苦(おんぞうえく)

嫌いな人と会わなければならない苦しみです。

学校にしても職場にしても、どの世界にも嫌な人間はいるものです。好きで一緒になった人が嫌な人間に変わるということもあります。一時的なものであればまだいいですが、長時間一緒にいなければならないとなると、その苦痛も大きなものがあります。

 

・求不得苦(ぐふとっく)

いくら求めても満足できない苦しみです。

命は有限であるのに、欲しいものは次から次へと無限に出てくるため、心から満足することはありません。第2巻で説明した通りです。

 

・五蘊盛苦(ごうんじょうく)

蘊とは「集まり」を意味します。人間は、五蘊という大きな5つの集まりから仮にできているという考え方を、五蘊仮和合といいます。

 

想蘊:イメージしたりする表象作用

色蘊:肉体部分

受蘊:感覚や感情等の感受作用

識蘊:識別、区別する認識作用

行蘊:意識を生じさせる意志作用

 

色蘊が肉体、その他の4つが心です。ですので、五蘊盛苦とは心身が盛んであるために生じる苦しみです。

五蘊盛苦は、前7つの苦の根本に位置する苦です。煩悩にしても前7つの苦にしても、あらゆる苦は五蘊が盛んであるために生じるということです。

 

以上、四苦八苦について簡単に説明しましたが、「老苦」「病苦」「死苦」「愛別離苦」は、後で詳しく説明します。

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1.1どんな苦しみがあるか
四苦八苦
煩悩
例外なく苦しんでいる
老苦
病苦
愛別離苦