千鶴子の次に福来の研究対象となったのが、香川県丸亀市の裁判官夫人・長尾郁子でした。
郁子は千鶴子の霊能に関する新聞記事を読んで、面白半分に子供たちを相手に透視をやってみたところできたという人です。
福来は「新たな千里眼婦人」という見出しの新聞記事を読んで郁子の存在を知り、「彼女は透視能力者としてよりも、念写実験の元祖として心霊研究史上に不朽の名を留むべき人である」と評します。力量は千鶴子に及ばなかったものの、実験物に手を触れることも、福来に背を向けることもなかったため、この点が学術的研究の立場から千鶴子に優れる点でした。
・念写の発見
今までの実験は、名刺や白紙に書いた文字など誰の目にも見えるものだったため、目に見えないものを透視したらどうなるかと考えました。そこで、福来が考えたのは現像していない写真乾板でした。文字を撮影した乾板を現像すれば、その文字は誰でも見えますが、現像しないと誰も見ることができません。現像していない写真乾板を透視することができれば、透視の事実の強力な証明につながると考えたのです。
「高」の一字と「哉・天・兆」の3字を撮影した乾板を、現像しないまま光が入らないように密封して透視したところ、結果は的中します。この結果から福来は「霊能者は普通人で見ることのできない、現像せざる乾板の撮影物象をも透視し得るのである」と断定します。
また、この未現像乾板の透視実験の時、不思議な現象があったことに福来は気づきました。2枚の乾板を現像すると、2枚ともに甚だしく感光していたのです。感光とは、フィルムに塗布された臭化銀に光が当たって化学反応を起こすことで、多量の光があたるほど感光の程度も大きくなります。
この現象について福来は「念力が働いて感光現象が生じたのではないか」と予想し、もしそうであれば、「乾板に向かって円形または方形を念じれば、円形または方形に感光するのではないか」と考えました。
福来は「心」の一字だけを書き、念じこむ気になって精神統一するよう郁子に頼みました。
郁子は「心」の文字を1分ほど凝視し、次に眼を閉じ、しばらくして眼を開き、「何かわかりませんが、とにかく念じこみました。こんなに汗がでました」と言いました。
現像してみると、「心」の文字がはっきりとした形で現れませんでしたが、乾板の中央に局部的感光の現象が生じたことは確認できました。
次に、福来は黒丸を写すことを求めました。
郁子は精神統一し、次に眼を開いて、「確かに打ち込みました」と言いました。
現像してみると、輪郭は明瞭ではありませんが、円形の感光現象が起きていました(下図)。
さらに方形で試してみると、今度は極めて明確な方形の感光現象を示し、こうした結果から福来は念写の事実を確信します。 他にも、様々な形や文字で実験しますが、いずれも良好な結果が得られました。
