数日が過ぎるとマンションの前の報道陣の数も少しずつ減っていきました。

ニュースを見る限りでは捜査の進展は無く、新しい犯罪も起きていないようです。


第5の事件からちょうど一週間が経った頃、アナウンサーと俳優のW不倫のおかげでやっと閑静な住宅街に戻りました。

居留守を決め込む為にここ一週間玄関にも近付いていなかったので、靴の上にはたくさんの郵便物が折り重なっていました。

両手に抱えてリビングに持って行き、机の上に広げるとひとつひとつ内容の確認を行いました。

ダイレクトメールがほとんどでしたが、いつも表紙を描いてくれている人の個展の案内や、出版社から届いた映画の試写会のお知らせなども混ざっていました。

その中に一通の宛名の無い封書がありました。


「拝啓○○○○先生 ずっと先生のマンションを見ていますが、全然警察の出入りがないので少し心配になってお手紙を差し上げました。もしかして【指】は警察には届けていないのでしょうか?どちらにしても先生の創作意欲の活性剤になれば僕も嬉しいし、死んじゃった5人も喜んでいると思います。それでは次回作に期待しています。」


玄関に行き、辺りを見回しました。

郵便受けの下にあったお気に入りのスニーカーを手に取ると、ころころころと、つま先のほうから赤黒い何かの塊りが転がってきました。



それ以来、私は小説が書けなくなりました。


模倣犯が現れるのを恐れているとか、そういう単純なものではありません。

口では説明できないのですが、とにかく私は小説が書けなくなりました。


なお、その犯人は未だに逮捕されたという話は聞こえてきません。


そして玄関で郵便物が落ちる音が聞こえるたびに、私の背筋に悪寒が走るのです。