私が上京した年の7月のことでした。

女子高生小説家という肩書きが無くなり、真の実力が試されるこの年は寄稿も増やし、毎日部屋に閉じこもって小説を書いていました。

そんなある日、インターホンが響きました。

東京には友達も居なく、私の部屋を知っているのは編集者の人ぐらいなので、ドアの前に立っていたスーツの男が警察手帳を出したときは、現実なのか小説の中なのか一瞬混同しました。


警察署の中は高校生の時に小説を書くための取材で何度か見せてもらったことはありましたが、あのときは広報の女性警官が付き添ってくれたのに対し、今回は本物の迫力と緊張が漂っていました。

刑事と一対一で対峙して鏡がマジックミラーになっているような取調室を期待していたのですが、私の通された部屋はさながら応接室のような部屋で、私が腰掛けたのは冷たいパイプイスではなくソファーでした。