ひとあじ違うクリスマスの絵本『星のひとみ』 | つながっていこう~オンライン版絵本で支援プロジェクト【公式ブログ】

 

 クリスマスが近づいてきました

 

 書店の絵本コーナーも一気に華やいだ雰囲気になってきます。

実は、12月は絵本が一番売れる月なのです。

大切な人にクリスマスに絵本を贈る方が多いのはとても素敵なこと。

このブログにはオンライン絵本会メンバーが上質で心に残る絵本をたくさん紹介しているのでぜひ遡ってご覧になってみてくださいね。

 

 さて、私が今日ご紹介するのはクリスマスの絵本ではあるのですが、歓びや華やかさとはちょっと遠い絵本です。

力のある素晴らしい絵本ですが、クリスマスプレゼントには向かないかも・・・とすら思ってしまいます。

 

 私はこの絵本を読んで、人間の弱さや愚かさ、恐ろしさを感じてしまいました。心が痛んだ・・・という表現があっているかもしれません。

北欧のアンデルセンと呼ばれるトペリウス(1818年~1898)のものがたりです。

 

『星のひとみ』

せなけいこ:絵

石井睦美:文

サカリアス・トペリウス:原作

2018年11月(この作品はスライド作品として制作された原画に新たに文章を加え、絵本かしたものです)

KADOKAWA

 

 

 

あらすじ

 

あるクリスマスの前の晩、

フィンランド人のお百姓さんが、山の中でサーミ族の女の子の赤ちゃんをみつけます。

 

 自宅に連れ帰り可愛がって育てましたが、成長とともにその女の子には不思議なちからがあることがわかってきます。

 

「星のひとみ」を持った女の子の目は誰もさからえないような輝きがあり、いじめっこや動物たちさえも黙らせ、目をあわせることすらしないのです。

そして次第に「星のひとみ」は人の心を読めることにもおかみさんは気づいていきます。

 

 最初は上のお兄ちゃんたちと同様に女の子を可愛がってきたおかみさんですが、次第にその女の子の「星のひとみ」のちからを畏れ、疎ましく感じるようになりました。

 

そしてついには床下の穴倉に目隠しをして「星のひとみ」を閉じ込めるのです。

 それでも家の様子や外の様子までわかってしまう「星のひとみ」に我慢ができなくなったおかみさんは、隣に住むムッラの口車に乗り「星のひとみ」を「もといたところに戻す」決断をするのです・・・。

 私には、とても恐ろしいものがたりでした。でもこの「おかみさん」は一方的な「悪」として描かれていません。

信心深く、質素に暮らし「星のひとみ」を最初はとても可愛がり、愛情を注いでいました。

  けれど「星のひとみ」の持つ特別なちからを畏れ、愛情や罪悪感を抱きながらも床下に閉じ込めてしまうのです。

 

 未知なるものを畏れ、排除しようとすることは人間のひとつの側面であると感じます。おかみさんのしたことは恐ろしいことですが、それを一方的に責めることができない気持ちになりながら読み進めました。

 

 そしてもうひとつの側面は、人種差別です。この女の子は「サーミ族」という少数民族の子どもなのです。

昔サーミ族はラップランドでトナカイの遊牧や狩猟をして生活をしていたそうです。サーミ族は独自の言語、文化を持っていますが、北欧で激しい差別を受けていた歴史があるとのこと。

「星のひとみ」を育てていたのはフィンランド人の家族。

そんな根強い人種差別というバイアスがおかみさんの心にも当然影響したように思います。

 

 このものがたり全編で「星のひとみ」は無邪気で素直。穴倉に閉じ込められても、おかみさんを「おかあさん」と慕っています。

そんな姿にまた心が痛むのです。

 そして自然の厳しさ、美しさも心に残ります。凍えるほど寒く雪深い中で空に輝く星の美しさは北海道に住んでいるからこそより伝わってくるのかもしれません。

 

 このお話が書かれたのは1800年代のこと。けれど今を生きる人の心はもちろん、人種差別、他と違う人、ものへの偏見、子どもの人権無視や虐待など現代社会が抱えている問題と残念ながら何ら変わっていないと感じました。

 

 この絵本に深い感銘を受けたのでもっとトペリウスのお話が読みたくなり、インターネットで探して古本を購入しました(2018年に購入)

 

『星のひとみ』

サカリアス・トペリウス:作

万沢まき:訳

丸木俊:絵

岩波書店 1965年

 

 表紙の絵が素敵だし、岩波書店から発行されているから間違いないのでは・・と思って購入。

 表紙の写真だけを見て購入したので絵を誰が書いているのかわからなかったのですが、届いて確認したら丸木俊さんでした。素敵なはずだ~中の挿絵もどれも素敵です。

 この本は発行が1965年!!さすがの私も生まれる前です(笑)

11篇のお話が収録されています。どれも信仰を大切にし、北欧の神話が基になっているものや北欧の自然を感じるお話です。

 機会がありましたらぜひ読んでみていただきたいです。

 

ちなみに「アナと雪の女王2」で描かれた先住民族はサーミ族をモデルにしているそうです。トナカイを飼っている「クリストフ」もサーミ族とのこと。サーミ族の文化にもとても興味がわいてきます。

 

 サーミ族の伝統工芸品であるドゥオッチと呼ばれるブレスレットは日本でもおしゃれなセレクトショップなどで販売されています。

サーミ族のものとは知らず、ただとても素敵で欲しいと思ったのですが、なかなかのお値段でまたの機会に・・・と思ったのです(笑)

 そんな風に過去のことが新しい知識を得たことで今とつながっていくのも楽しいです。

 

 絵本の「星のひとみ」の方は石井睦美さんが文を書かれています。

素晴らしい翻訳書やオリジナルの絵本もたくさん出版されています。

昨年出版されたこの絵本がとても人気です。

 

『王さまのお菓子』

石井睦美:作

くらはしれい:絵

世界文化社 2021年

 

こちらはガレット・デ・ロワのお話。ちょうど来月活躍しそうです!

 

 

石井睦美さんが翻訳した絵本で私が大好きなのはこちら。

『みんな星のかけらから』

文:ジーン・ウイリス

絵:ブライオニー・メイ・スミス

訳:石井睦美

フレーベル館(2018年)

 なんとも心を勇気づけてくれる素敵なお話。宇宙のことも出てきます。宇宙のお話が大好きなのでそこも好きなポイント。

 

 岩波文庫版の「星のひとみ」の絵を描かれた丸木俊さんについても書きたくなりましたが、それはまたの機会に。

 こんな風に一冊の絵本からあれこれ知りたいこと、調べたいことが増えてどんどん興味が広がっていきます。

それはもう手に負えないほど(笑) 

 

でもそうやってまた素敵な絵本やアートや文化、新しいことを学べるのがとても楽しいです。

 

 ぜひみなさんも1冊の絵本から始まる様々な楽しさを味わってみてください。 クリスマスにはぜひ絵本を♪

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。