鬼塚パンチ!

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連載 第7回 サッカー部に入部
更新しました。

イラストは桑原晋吾。しんご。
描いたのは淵上さきさん。
城西中学からきたサッカーも勉強も優等生。

さて、どうする。

では。

ーーーーーーー
ぼくは受験勉強で落ちた体力を取り戻すために受験が終わると毎朝日走り込んだ。平原先生の期待に沿うために、体力作りだ。技術も戦術も体力に支えられなければ、効果を発揮できない。
 入試後といっても学校の授業はまだ残っている。なので、朝礼には間に合わせなくてはいけない。
 家を出る朝六時、まだあたりは暗い。早朝の空気は冷たく、小さな針のように肌を刺す。ジョギングウェアに着替えて、軽くジョグをしながら近くの公園まで向かう。体が温まってきたらストレッチを行い、軽い筋トレを続ける。
 ちょうどそれらのウォーミングアップが終わった頃、まるで見計らったように、みどりちゃんが公園にやってくる。
「ウッス~! 今日もありがとう!!」
「今日のご褒美はハチミツレモンだよ~っ」
 みどりちゃんがとびっきりの笑顔で、タッパーを掲げる。
「ありがとー! ぼくの女神っ!!」
 そんな風にふざけあいながら、自転車でぼくのジョギングを伴走してくれた後、持参している笛を吹いたりして練習をアシストしてくれるのだ。
 軽く小一時間身体を動かした後、ぼくたちは再び家に戻る。
 帰路につきながら、みどりちゃんが用意してくれた、冷たいおしぼりを顔に当て、スポーツドリンクを飲む。こうしていると、本当に恋人同士のようだった。まだ、そんな関係にはなれていないけれど……。
「ハヤト君って本当にサッカーが好きなんだね。そんなに夢中になれるものがあって羨ましいな」
「でも、ぼく、すげえバカだぜ。みどりちゃんは何でもできるからいろんな夢を追いかけられるじゃん! それこそすごいことだと思うよ。それに毎日誰が見てなくても努力できるのって、ぼく、すごいと思ってる。夏休み、本当、毎日のようにみどりちゃんを尊敬してたもん。すげー、やっぱ、みどりちゃん、すげーわって」
「えー、そんなことないよ~」
 そんなことを話しながら自宅へ向かう。まだ、風は肌寒かったが、みどりちゃんと一緒にいると、体ばかりか心も暖かくなるのだった。

 玉木高校の入学式がやってきた。
 入学式の行われている体育館から外を見ると、満開だった桜のうす紅色がちらちらと舞って綺麗だ。
 壇上では担任の先生の発表と自己紹介があった。
「私が1年3組の担任は高杢暁夫です」。ぼくの担任だった。うっすらウェーブのかかった髪型で、通りすがりのひとにさえ食生活を心配されてしまいそうに体の線は細く、生地の高そうなスリーピースを着ている。「担当の科目は理科でそのなかでも物理で・・・」話し方がとてもゆっくりとしていて、気が弱そうな感じである。生徒たちの前で話すのに、まったく大きな声を出せなかった。
 8クラスまで担任の自己紹介が終わると、それまでとはまったく様相の違う中年の男性が登壇した。その男は新入生の前に立つと、みんなを見回した。
「私が生徒指導の弓場です。皆さんに高校生活をはじめるにあたって守って貰わなくちゃいけないことがあります。では先ほど配布した生徒手帳の校則のページを開いてください」
 高杢先生とまったく逆で声はドスが利いたように大きかった。前列は唾がとんできそうなほどだった。ちなみに、話の中身だが、髪型の規則が半分を占めていた。でも、その話を聞けば聞くほど、笑いが出てきそうだった。
 なぜなら、髪型の話ばかりする、当の生活指導の先生の頭ははげ上がって頂点部の髪がないのだ。
「おい、池P、あいつ、まるでカッパだよな」
「ぶっ」と池Pは吹き出した。「まさに!! 規則で髪型のことが多いのって、あいつのコンプレックスじゃねえの?」
 ぼくたちは、目を見合わせながら、クスクスと笑ってしまった。同じように思っている人が他にもいるようで、クスクスという笑い声は、様々なところから聞こえてくる。
 しかも、入学式中に、伝言ゲームで伝わってきた話によると、例の生活指導の先生のあだ名は、『ザビ』というらしかった。その名の由来はフランシスコ・ザビエル。日本にキリスト教を持ち込んだ宣教師のフランシスコ・ザビエルに頭のはげ具合がそっくりだからというのが理由である。
 しかし、サッカー好きにとってあの禿げ具合は、ジダンの頭だった。ぼくは、弓場先生がこの体育館でユベントスのユニフォームを着て、デルピエロと駆け回ったり、ドリブルをしながら、プレスをかわすためにマルセイユルーレットをしたり、マテラッツィの胸に頭突きしたり、パロンドールのトロフィーを掲げたり、と妄想を楽しんだ。
 とはいえ、ぼくが何よりも一番、気になっていたのは、生徒規則などではなく、どこの中学のどの選手が玉木高校に入学してきたかということ。
 とまあ、ここまで来て、サッカー部に入ることに代わりはないのだけれど、少しばかりの躊躇もあった。なぜなら、高校でもまた、中学のように根拠のない上下関係があって、3年王様、2年平民、1年奴隷というヒエラルキーがあるのは間違いないと思ったから。
 小学校からずっとサッカーを続けてきて、中学でも1年からレギュラーだった池Pとぼくである。今更、奴隷になるというのがイヤだった。それも自分より下手な上級生に絶対服従なんてのは絶対嫌だった。サッカーはそもそもそんな禁欲的なスポーツではない。もっと夢のあるものだ。ヨーロッパで活躍している選手とか、苦しい顔をひとつも見せない。点を入れたときなど、最高の喜びを感じ、表現し、恍惚の顔をしている。あれこそがサッカーなのだ。
 一年が奴隷から脱するには、公式戦でスタメンに選ばれるしかない。それでやっと奴隷から少しだけ脱することが出来る。ぼくは池Pとともに夏の大会からスタメンに入り、いち早く奴隷の座から抜け出すことを考えていた。
 入学式が終わった後、サッカー部の入部申し込みにいくと、平原先生が家に来た時に名前を挙げた通りの選手が並んでいた。
 それは、こんな面子である。
 しんご。桑原晋吾。おそらく平原先生が最も期待していた選手だろう。本来はもっと偏差値の高い高校へ行く予定だったが、平原先生の熱意に負けて玉木高校に来た。もちろん神村実業から誘いも受けたが、神村実業はサッカーだけ。偏差値の低い学校である。親の意向もあり、進学校でもある玉木高校を選んだというわけだ。城西中学時代の市大会ではぼくらの清水中学に勝ち、その後県大会でも勝ち進み、県代表となった城西中学サッカー部のキャプテンだった。キャプテンになったのは技術的な理由だけではない。人間的な資質も備えていた。それだけではない。しんごは城西中学時代生徒会長も務めていた。玉木高校でも生徒会長になる可能性は高いはず。素行や成績がいいだけでなく、顔もいい。背も高く、性格も二枚目で、「城西中学のプリンス」と呼ばれていたくらいなのだ。サッカーの試合でも、ファンクラブの女の子たちがたくさん応援にきていて、「シンゴーッ」というが黄色い歓声が響き渡っていた。ぼくも、しんごのサッカーの腕前はじゅうぶん認めていて、いつかはしんごと一緒になることを望みつつ、サッカーの技術でしんごを追い抜きたいと密かに思っていた。
 イシアタマ。蔵原英二。ドイツ人のように屈強でフィジカルでは誰にも負けない。身長はすでに180センチを超え、なんだか骨がごつごつした体格。それゆえに空中戦ではめっぽう強かった。あだなは中学の頃、ゴール前での空中戦で接触した相手が額から血を流したことからそう呼ばれるようになったそうだ。頭の形が、前から見ると逆三角形の形をしていて、側頭部は鋭角になっていた。横から見ると三日月のようになっていた。なので、頭はほとんどハンマーにも近かった。それはサッカーの試合のときには武器にもなった。
 センターバックになるために生まれてきたような人物で、スライディングすればほとんどのボールはカット出来る。難しいことは嫌いで、ディフェンスからでもチャンスがあればシュートを撃つ。
 ヒガシ。またの名をゼット。本名は東靖人。左利き。サッカーのテクニックはそこまであるわけではないが、とにかくスッポンのように相手の主力選手をマークするのが得意だ。とにかくねちっこいというところが武器なのだ。相手からすればマークにつかれた段階で、何もすることは出来ないと諦めさせてしまう。いわば、グランド上のストーカー。とにかく相手のパス供給元キーマンをつぶす役回り。目立たないが、試合に勝つためには重要であったりする。性格はというとちょっと暗いかもしれない。基本、ボソボソとしか喋らない。口より、態度で表現するタイプだ。ぼくはどっちかと言うと、考えたらすぐに動き出すタイプなのだけれど、不思議とゼットとはウマが合う。
 ベップ。上別府徹。とにかく俊足。顔はニキビだらけ。基本はディフェンスだが、右のライン際を縦横無尽に走る。短距離では陸上部よりも早い。またキック力があり、ロングフリーキックは速い球を蹴る。またセンタリングが得意。
 ここまでは平原先生が勧誘して集めた選手。
 そして福原洋一、ようちゃん。サッカーはうまくはないけど、サッカーの知識は誰よりもすごい。
 そんな新入生たち。
 先輩にはひとつ上の福崎先輩、通称ノブ先輩がいた。他にも、大会などで見かけた顔があり、このなかでサッカーをすることができるのかと思うと、ぼくの胸は高鳴った。
——これから頑張るぞ!!
 密かにこぶしを握って、一人熱くなっていたら、突如、野田キャプテンが吠えた。
「おい、一年! お前らは今日から、玉木高校サッカー部の仲間だ。よぉく聞いておけ。厳しい練習になるから覚悟しておけ」
 一年生を見渡しながら言い、「おい、1年。上級生の命令は絶対だからな。特に3年生の命令はな。いいな」と付け加えた。
「はい」とそれぞれが言うと、
「お前ら、返事が小さい、もう一度。いいな」と叱責。
「はい!」と皆の声が揃った。
「一年! まずは抱負を語れ!」
 野田キャプテンが指示を出す。まず、進み出たのは、しんごだった。
「勉強と部活、両方とも頑張りますっ」
 続いて、池P。
「早くレギュラーになって試合に出ますっ」
 おっと、これは何気に上級生に対する挑戦状だ。そう思っていると、ぼくの番になった。
「次は鬼塚だ」と野田キャプテン。
「はい、神村実業を破って県大会で優勝します。そして全国高校選手権へ出ます」
 そう言うと、二年生のひとりがくすりと笑って、「まじかよ。志は高ぇな」とつぶやいた。
 その日のうちから、一年生も練習着に着替えさせられ、ボールを使わずに走らされた。
 それからも陸上部かと思わされるくらいとにかく走らされた。
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