バラの木に混じった、明らかにおかしい4人の前を、しらじらしく白いウサギが通り過ぎ、トランプの兵隊が通り過ぎ、王様と女王様が半分通り過ぎたところで、「ちょーーーっと、待てーーー!」 と、女王様は叫んだ。
「ぜんたーーーーい、とまれっ!、いっち、にっ!」
とトランプの隊長の号令がかかって、行進が止まった。
「おい、お前たち。何も気にならんのかー?」
と女王様は続けて言った。
「・・・何がですかー?」
とトランプの兵隊たちは口をそろえて言った。
「みんな、ほんっとーに何も気にならんのだなー?」
と女王様が言って間が空いたあとすぐに、「全員、首をはねてしまえー!」 と真っ赤になって怒った。
「・・・いきなり、どうしたんだね?」
隣りに座っていた王様は驚いて女王様に言った。
「誰もコイツらに気づいていないのは、大問題だー!」
と女王様は、手に持っていた羽根の扇子を4人の方に向けて言った。
トランプの兵隊たちは、すぐにバラの木になりすましている4人を捕らえ、女王様の前に連れ出した。
「おまえたちは、一体ここで何をしているのだ?」
と女王様は4人に向かって質問した。
「・・・あ、あのですね。女王様に喜んでもらえるよう、自ら真っ赤なバラになって・・・。」
とアリスが言いかけるとすぐに、「このムスメのクビをはねてしまえー!」 と女王様は、トランプの兵隊に叫んだ。
「・・・お、お待ち下さい、女王様。いくら女王様のご命令でも、裁判もせずにそんなことはできません。」
とトランプの兵隊の1人は言った。
「それならば、今から裁判を始めるぞー! さっそく準備せぇー!」
女王様がそう言ったところで、舞台の幕がおりた。
Van Gogh - Wilde Rosen und Käfer
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1890年4月30日(Wikipediaより)
再び幕が上がると、裁判長の王様と女王様が前に座り、記録係がそのすぐ下の段に座り、検察官と弁護人が証言台の両脇脇に座り、その周りを囲うように傍聴人が座っていた。
「・・・被告人、証言台の前へ。」
王様が言うと、舞台上手からトランプの兵隊に連れられたアリスが入ってきた。
「なぜ、わたしがいきなり裁判を受けるのです?」
とアリスは掴まれていたトランプの兵隊の手を振り払い、王様に向かって言った。
「・・・発言は裁判に則り、証言台の前で行うように。」
と裁判長の王様は、アリスに向かって強く言った。
とにかくアリスはこの場を上手く切り抜けなくてはと思い、大人しく証言台の前に立った。
「それでは、被告人が嘘をついたことの裁判を始める。」
裁判長の王様はそう言って、すぐに人定質問を始めた。
冷静にアリスは、その質問の受けこたえをしながら周りの様子をもう一度確認した。
・・・向こう側に座っているのは検察官で、こちら側に座っているのはわたしの弁護人・・・。
そう思いながらアリスが視線を動かしていった先には、三月ウサギと帽子屋とヤマネが座ってお茶を飲んでいる姿があった。