再び舞台が明るくなり、テーブルでお茶を飲んでいる三月ウサギと帽子屋とヤマネがあらわれた。

 

「お! トキがでてきた!」

とトキムネのお父さんは、思わず声を上げた。

 

・・・ウサギはウサギでも、トキはこっちの三月ウサギの役なんだ・・・。

トキムネのお母さんは、トキムネがうまくセリフが言えるかどうかハラハラしながら見ていた。

 

そして、舞台の上手から、アリス役の女の子があらわれた。

 

「・・・あの大きな帽子を被った人は、きっと帽子屋さんで、隣に座っているのはきっと三月ウサギさん!」

とアリス役の女の子は、お茶会をやっているテーブルに近づいた。

 

「・・・おいウサギくん。そっちにあるポットをこっちへ回してくれないか。」

帽子屋は三月ウサギに言った。

 

「残念でした。このポットにはもう何も入っちゃいないよ。」

三月ウサギ役のトキムネは、そのポットを持ち上げ、いい香りのする紅茶を自分のカップに注いだ。

 

それを見ていたアリス役の女の子は思わず、「そのポットの中にちゃんとお茶が入っているんじゃない?」 と、三月ウサギに言った。

 

「誰だいキミは! 挨拶もしないで話しかけるなんて失礼じゃないか!」

と帽子屋の役の子は言った。

 

「・・・あら、ごめんなさい。でも、ポットの中にお茶が入っているのに、ないってあなたが言われたのよ。何で怒らないの?」

とアリスは言った。

 

Van Gogh - Das Bordell
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: Arles, 1888年10月(Wikipediaより)

 

 

 「わたしが怒る? 何で? あいつがないって言ったんだから、ないに決まっているじゃないか。」

と帽子屋は言った。

 

「・・・だけど、実は、お茶があったんだよね。フフフ。」

と三月ウサギは言った。

 

「・・・なんだ、あったんかい。じゃあ、こっちにそのポットを回してくれ。」

 

「・・・おあいにくさま。いま全部カップに注いでしまってありません。」

と三月ウサギは口を大きく開け、ポットの注ぎ口から直接お茶を流し込んだ。

 

・・・これは、きっと、ボケの練習をしているのだわ。

そう思ったアリス役の女の子は、黙って席に座ろうとした。

 

「ここは満席です! 外でお並びください!」

と帽子屋と三月ウサギは声を揃えてアリス役にの女の子に言った。

 

「どうして? 席はたくさん空いているじゃない。 それにわたしのほかに誰もいないわ。」

とアリス役の女の子は怒って言った。

 

「あんたは勝手に席が空いていると思っているだけで、そこははじめから予約席だったんだ。だからダメ。」

と三月ウサギは言った。

 

「・・・予約? これから誰かここに来るの?」

 

「いや誰も来やしないさ。そこはわたしの予約で、その隣はこの帽子屋の予約で、その隣は・・・。」

 

「なによ。あなたたちはもう座っているんだから、予約なんていらないじゃない。」

とアリス役の女の子は勝手に椅子に座った。

 

「・・・はい、おひとりさまご来店。」

と今まで眠っていたかのようにおとなしくしていたヤマネ役の子が初めてセリフを言った。