アリスが舞台の下手に消え、一旦幕が降りるかと思いきや、再びウサギの集団が列をなして舞台の下手から現れて、遅刻しちゃうという同じセリフを繰り返して舞台全体を駆けずり回った。
そして、アリスが、、「ウサギさん、待って〜!」 と、もはやウサギの列の最後尾の一員のようにいっしょに走って、舞台の上手に消えていった。
「・・・いやぁ、すごいドタバタ劇だな。しかし、トキはあのウサギの列の中にいなかったぞ。」
とトキムネのお父さんはお母さんに言った。
トキムネのお母さんは、確かにその通りだったので静かに頷いた。
舞台の上手からアリスだけがトボトボ現れて、「ウサギさんたちは、どこへ行ったのかしら・・・?」 と、あれだけビッタビタにつけ回していたのに、なぜはぐれてしまったのだろうという観客の疑問などお構いなしに、アリスはさらに次のセリフを言った。
「・・・きっと、この穴に入って行ったのね。よ〜し。」
アリスは少し高い台の上から飛び降りるとすぐに照明が消えて、舞台の上が真っ暗になった。
そして、会場にはあらかじめ録音されていたアリスのセリフが流れた。
「・・・わたしの体はどんどん下に落ちていくけど、この穴はどこまで続くのかしら? きっと地球の裏側まで行けちゃうのね・・・。」
再びスポットライトで舞台が照らされた所には、7つのオーク材風のダンボールで作られたドアが並んでいて、その前にアリスはしゃがみ込んでいた。
「・・・ウサギさんたちは、このドアのどれかに入って行ったのね。どれだろう・・・?」
アリスは立ち上がり、舞台のいちばん上手のドアからノックしてみると、いちばん舞台の下手のドアが開いて白いウサギが顔を出し、「おい、誰もいないじゃないか。忙しいんだから、イタズラしないでくれよな!」 と言ってバタンとドアを閉めた。
Van Gogh - Die Schlucht "Les Peiroulets"
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1889年9月30日(Wikipediaより)
「あ! ウサギさん、待って!」
アリスは、今開いたドアまで走り、ドアノブを回したけど開かなかった。
そして、アリスは、一呼吸を置いて、そのドアをノックした。
すると、今度は真ん中の別のドアが開いて白いウサギが顔を出し、、「おい、誰もいないじゃないか。忙しいんだから、イタズラしないでくれよな!」 と同じセリフを言ってまたドアを閉めた。
そのあとだんだんと会場から笑いが沸き起こってきた。
アリスが3回目のノックをすると、全部のドアが一斉に開き、「今、忙しいのでまた今度にして下さい。」 と白いうさぎたちがハモって、そしてドアは一斉に閉まった。
会場の観客みんなは大爆笑した。
驚いたアリスは、ドアから少し後退して尻もちをついた。
お尻を摩りながら立ったアリスは、すぐそばに3本足のガラスのテーブルがあって、その上に金のカギが置かれているのに気付いた。