トキムネの幼稚園最後のお遊戯会の案内が、お便り帳に挟んであった。
・・・今年の年長さんは、『不思議の国のアリス』 をやると、トキちゃんが言ってたけど・・・。
・・・年中さんの時のお遊戯会は確か、ギリシャ神話のオルペウスの話だったか。
トキちゃんはカロンさまの役をやって、やたらと長いセリフを言っていたような・・・。
・・・しかし、いろいろとあっという間に過去になっちゃうな・・・。
年少さんの頃にトキちゃんが演技した、『サルカニ合戦』 のウスの役なんて、遥か昔のような感じね・・・。
トキムネのお母さんは、お遊戯会の案内を開いて演目を見ていった。
・・・年長演劇、 『シン・フシ議のクニのアリス』・・・。いつもながら、ヘンなタイトルね・・・。
年中演劇、『注文の多い三つ星レストランに連れてって』 ・・・で、年少さんは、『突撃! ももたろう!』 ・・・"痛快" から、"突撃" に変わっている・・・。
トキムネのお母さんは、先生たちがまじめに話し合ってタイトルを決めているとは思えないほど妙なタイトルに、別な意味で感心した。
「それで、トキちゃんは今回、何の役をやるの?」
とトキムネのお母さんは、居間でガンダムのゲームをやっているトキムネにきいた。
「・・・うさぎ。」
とトキムネはゲームをやりながらぽつりと言った。
「え? うさぎなの? ウサギはアリスを不思議な国へ導く役割だよね? トキちゃん、すごいじゃない。いい役もらったね。」
「・・・。」
トキムネはそのあと何も言わなかった。
さては、ゲームに集中していて返事しなかったんだなとトキムネのお母さんは思って、夕飯の支度をするためキッチンへ行った。
Van Gogh - Stillleben mit Weintrauben
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1886年12月31日(Wikipediaより)
しばらくしてトキムネのお父さんが帰ってきた。
トキムネのお父さんはすぐに着替えてダイニングにきて、ダイニングのテーブルの上に置かれたお遊戯会の案内に興味を持って中を見た。
「・・・"おまちかね。今年もやってきました、へんてこりんな幼稚園のお遊戯会" って感じだよね・・・。
いやあ、毎年変わらず興味深いタイトルだ。
それで、トキは、『シン・フシ議のクニのアリス』 の中の何の役やるの?」
とトキムネのお父さんは、ミートソースを食べているトキムネにきいた。
「・・・ウサギの役だって。」
とトキムネのお母さんは、スパゲティを頬張って話せないトキムネに代わって言った。
「トキがウサギかぁ。なかなかいい位置の役だね。
去年のカロンさまの役の演技がなかなか良かったからトキは、今年もそんな役をもらったんだね。
・・・なんだか、とても楽しみになってきたよ。・・・この三つ星レストランの話も面白そうだし。」
毎年、この3人の中でこのお遊戯会を1番楽しみにしていたのは、実はトキムネのお父さんかも知れなかった。