保証人のサインをトキムネのお父さんの弟のショウゴおじさんにしてもらい、全て書類を和顔小学校へ提出し、トキムネの制服の注文も終わって落ち着いた週末、トキムネのお父さんとお母さんとトキムネは、相性塾へ報告とお礼の挨拶に向かった。
「・・・初めてここに来た時のことを思い出すよ。シオタ校長先生の講演会をここでやるということで来たのが初めてだったな・・・。オレ、シオタ校長先生を見るなり、自販機の後ろに隠れて・・・。」
トキムネのお父さんは、ついこの間の出来事なのにえらく懐かしく思った。
「マチヤマさんに早く挨拶して、終わったら駅前のファミレスに行こうね。」
トキムネのお母さんは、トキムネに言った。
トキムネは、にっこり笑って深くうなずいた。
3人は初めてここに来た時のように、ゆっくりと塾の引戸を開けて中に入った。
受付のマチヤマさんは、すぐにトキムネのお母さんたちに気づいて、「おめでとうございます。」 と声をかけてきた。
トキムネのお父さんは、菓子折りの入った手提げ袋をマチヤマさんに渡して握手した。
「いろいろとお世話になりました。ありがとうございました。」
とトキムネのお母さんは、お辞儀をして書いてきた報告書を渡した。
マチヤマさんは、会釈してお母さんからの報告書を受け取った。
そして、トキムネのお母さんは、トキムネに挨拶するよう促した。
「・・・ありがとうございました。」 とトキムネはセリフを言うように言った。
「トキムネくん、よく頑張ったね。」 とマチヤマさんは、トキムネの肩をポンと叩いた。
無事挨拶は終了し、トキムネのお母さんたちは相性塾との縁が切れた。
Van Gogh - Das Restaurant de la Siréne in Asniéres
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1886年12月31日(Wikipediaより)
3人は、相性塾の帰りによく寄っていたファミレスに入った。
「マチヤマさんは相性塾に何年いるか分からないけど、毎年塾に入ってきては出ていくという親子を見ていて、全て同距離で淡々と仕事しているんだろうな。
それは、ベルトコンベアに乗ってきたものを自分の担当の部分だけ作業をする感じなんだろうな。」
と言って、トキムネのお父さんはマルゲリータピザを食べた。
「確かに、流れ作業のようだけど、わたしたちは、"人" だからね。物のような扱いしていたら、クレームになるでしょう?」
と言って、トキムネのお母さんはパルマ風スパゲティを食べた。
「まあ、そりゃそうだけどね。たまたまビジネスの中で知り合いになった人との距離というものはどんなものかと思う時がある。親しくもないけど、親しいフリの関係・・・。さっきオレ、マチヤマさんと握手しちゃってたよ・・・。」
「・・・そんなこと思いながら握手していたんだ。・・・でも、マチヤマさんが仕事してくれたこともあって、トキちゃんは和顔小学校に通えるようになったじゃない。わたしたちだけだったら、分からなかったよ。」
「そりゃそうだな。オレたちのよい結果のためにマチヤマさんがアシストしてくれたことは確かだな・・・。」
トキムネはひたすら、大好きなフライドポテトをたくさん口に入れて食べていた。