台風が過ぎ去って次の日はいい天気の朝を迎えた。

トキムネのお母さんはトキムネを幼稚園に送り、そのまま和顔小学校へ向かって入学許可証を受け取り、提出できるものを提出した。

 

トキムネのお母さんは和顔小学校へ通うことを伝えるため、その許可証を役所へ持っていった。

 

・・・あとは、和顔小学校の指定の銀行口座を開いて、トキムネを学校に連れていき制服のサイズを決めて・・・それから相性塾への最後の支払いもして・・・健康診断書もいるんだったか?

 

トキムネのお母さんは、昨晩書き込んだ手帳を見ながらできることを全てやっていった。

 

そして、トキムネのお迎えに幼稚園の門の前に待機した。

 

「・・・トキムネくんのママ、こんにちは。」

突然、後ろから声をかけられ、トキムネのお母さんはドキッとした。

 

トキムネのお母さんは振り向くと、お祭りやお花見に誘ってくれていたヨースケくんのママが立っていた。

 

「久しぶりです。こんにちは。ヨースケくんのママ。」

 

「で、小学校は決まった?」

とヨースケくんのママはストレートに聞いてきた。

 

トキムネのお母さんは、一瞬、どう答えるべきか迷った。

だけど、ウソはつけないと思い、「ええ、何とかうまく入れたみたいです・・・。」 と他人事のように言った。

 

「まあ、すごいですね! おめでとうございます! うちは、いちばん近い学校に決めて、今、役所に提出してきたところです。そうですか・・・。」

とヨースケくんのママは、そう言ってしばらく黙った。

 

Van Gogh - Zwei grabende Bäuerinnen auf schneebedecktem Feld
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1890年3月と1890年4月の間(Wikipediaより)

 

 

 この、"間" がトキムネのお母さんには辛かった。

 

・・・違う学校へ行くからといって、偉いだの偉くないだのといったタテの意識など、わたしには全くないし、子どもたちだって、将来、タテの意識が蔓延して不幸な世界にならないために勉強するわけだから、それは、どこの学校へ行っても同じだとわたしは思っている。

 

ただ、ヨコの意識の良さを知らなければ、タテの意識こそが全てと思う確率が高まると思い、諸々の条件も揃ったので和顔小学校へ行くことになったけど、学んで欲しいことはどこ行っても同じ。

 

ヒトの世界は人間と動物の間で揺れ動いて進んでいて、それが、"欲" という言葉で簡単に説明されてることが多いけど、自己保存を基本に置いた生命体の思考の、"欲" と集団の中で、"普通" に生きていられる以上の優先順位を欲する、"欲" とは同根だけど、全く別のものであることを、自分たちの未来のためにも、トキちゃんたち自身で学んで欲しいとわたしは思っている。

 

それを、より学べる所ならば、どこでもいいと思っていて、そんな折に、たまたま和顔小学校のシオタ校長先生の話を聞く機会があって、同じ方向の人だと感じたから、この学校へ通わせたいと思って無理して頑張っただけ・・・。

 

「今年も秋のお祭り、ありますよね? トキムネもいっしょに参加させてもらっていいですか?」

トキムネのお母さんが、この沈黙を破った。

 

「・・・ええ、もちろんですよ。今年も神輿が出ますから、担ぎに来てください。」

とヨースケくんのママが言った時に、幼稚園の門からトキムネとヨースケくんが、手を繋いで出てきた。