幼稚園の運動会も3回目にもなるとトキムネのお父さんとお母さんの朝からの作業段取りは完成されていて、持ち物・備品の用意、弁当を作る流れ作業、そして、おじいちゃんの車が来て、そのまま幼稚園へ向かうという無駄のない動きになっていた。

 

幼稚園に来てからも、トイレに近い木の下に場所を取り、レジャーシートを置いてポップアップテントを張り、テーブルや座布団をセットしてベースキャンプが出来上がった。

 

さっそく、ポップアップテントの中でトキムネのおじいちゃんは寝転がった。

 

・・・みんな、余裕の行動になっている。・・・ノウハウの蓄積は重要だわ・・・。

 

「ここ、空いてますかぁ〜?」

トキムネのお母さんが余裕でお茶を飲んでいると、若い夫婦が声をかけてきた。

 

「はい空いてますよ。どうぞ。」

若い夫婦は会釈したあと、レジャーシートを敷いて荷物を置いた。

その時、トキムネのお母さんは、その旦那さんの顔をどこかで見たことがあると思った。

 

開会式の一連の儀式が始まり、一気に会場全体が運動会らしい雰囲気になってきた。

トキムネのお母さんとお父さん、おばあちゃんは、トキムネの出番の度に入場門の方へ行って動画撮影をした。

 

あっという間にお昼になり、お弁当を食べて午後のプログラムに入っていった。

最初の応援合戦が終わり、ママさんリレーの順番がきた。

 

トキムネのお母さんは、ケガをしないことを優先事項としていたけど、バトンを渡された瞬間にはそんなことすっかり忘れて全力疾走していた。

 

スポーツ競技においては、トキムネのお母さんは手を抜くことができなかった。

 

Van Gogh - Gepflügtes Feld
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1888年8月31日(Wikipediaより)

 

 

 幸い大きなケガはなく、ただ、普段使わない筋肉を使ったことで、しばらく筋肉痛に悩まされるだろうことをトキムネのお母さんは覚悟していた。

 

トキムネも、選抜リレーに出場していた。

トキムネのお母さんは自分の筋肉痛のことよりも、トキムネがケガしないか心配していた。

トキムネは最後まで転ぶことなく、無難にバトンを次の子に渡して終了した。

 

トキムネのお母さんはここで今回の運動会のヤマを越えたと思い、みんなのいる場所へ戻ってきてお茶を飲んでいた。

すると、隣に座っていた若い夫婦の旦那が上着を脱いで、走る格好をして入場門へ向かって行った。

 

その走る後ろ姿を見てトキムネのお母さんは、「あの人、どこかで見たことがあると思っていたけど、野球選手のフジノマさんじゃない?」 と、トキムネのお父さんに言った。

 

「うわ本当だ! みんな気づいているのかな? ・・・次のプログラムは?」

 

「"パパさん中距離走" だって。幼稚園の外を5周して戻ってくるという種目よ・・・。」

 

「それ・・・プロが走るのは、反則じゃない?」

 

そんなことを2人でヒソヒソ話しているうちに、会場にアナウンスが流れた。

 

・・・プログラムナンバー13番。パパさん中距離走。今回の選手の中に、野球のフジノマ選手と水泳のヨコノウエ選手、地元警察署のカトウ巡査、そして、同じく地元消防署のオカジマ消防士が参加しております・・・。

 

「年少さんにすごいアスリートのパパたちが入ってきたのね・・・。」

「・・・このアナウンスは、本人の許可を得ているのだろうか? 」

トキムネのお父さんは、そう言いつつも誰が勝つのか興味を持ちはじめていた。