「失礼いたします・・・。」

教室に入ったトキムネのお父さんが目にしたのは、マチヤマさんの姿だった。

 

そして、トキムネのお母さんも続いて入り、

「どうぞ、お掛けください。」 というマチヤマさんの言葉で2人は椅子に座った。

 

「本日は、わが校の面接にご参加していただきありがとうございます。」

とマチヤマさんは、真面目な顔をして話しはじめた。

 

・・・マチヤマさんは、マジで面接官になりきってやるみたいだ・・・。

まあ、そうしてくれた方が、おれもマジで面接を受ける人の型を演じられる・・・。

そんなことをぼんやり思っていたトキムネのお父さんへすでに最初の質問がされていた。

 

「・・・はい? すみません。聞き取れませんでした。何でしょうか?」

 

「・・・お子さんの生年月日を教えて下さい。」

 

「え〜。・・・年9月11日です。」

 

「次に、本校を志望した理由を詳しくお話頂けますか?」

 

「・・・はい。学校説明会で・・シオタ校長先生がお話しされていた、"学校の良い仲間関係の中での・・良い人格形成が、良い学力に結びつく" という点に・・共感いたしました。・・・わたくしは、日頃から人としての・・こころの教育を重視して子育てを・・してきましたので、まさに教育に対する・・わたくし共の希望を叶えられる学校だと思い・・志望・・いたしました。」

 

Van Gogh - Selbstbildnis10
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1887(Wikipediaより)

 

 

 トキムネのお父さんは、ある程度予想して答える内容をイメージしてきたけど、思っていた以上、文章化して話すのに負荷がかかってしまうなと思った。

 

そんなトキムネのお父さんのこころの動揺を読んでいたかのように、マチヤマさんはジャブからいきなり強い右ストレートを繰り出した。

 

「それでは、本校の特色は何だと思いますか?」

 

「・・・。"調和" ・・の精神に基づく・・人間の教育を普段の学校生活の中で当たり前のように実施し、生徒たちが・・自然と身につけて習慣化するというものが、御校の・・特色だと思います。」

 

何とかシオタ校長先生との会話を思い出しながら、もっともらしい内容に仕上げ、マチヤマさんの右ストレートをスウェイしてかわしたトキムネのお父さんは、似たような内容を連続して問うことで、相手のネタの深さを測ろうとしているのだなと思いマチヤマさんを睨んだ。

 

マチヤマさんは、トキムネのお父さんが自分を見ていることなど気にせず、手元のメモを見ながら質問を続けた。

 

「本校の教育理念で1番賛同されていることは何ですか? 本校の、"建学の精神" について、お話をお聞かせ下さい。」

 

・・・う~む。見事な攻撃だ。しかも、質問の内容が同じようで微妙にズレているものを同時に繰り出しておれをダウンさせようとしている・・・。そうはさせるか・・・。

 

まだ1ラウンドが始まったばかりだというのに、トキムネのお父さんの足もとはかなりふらついていた。