参道の鳥居をくぐると、屋台がポツリポツリと並んでいた。

 

あまーい匂いや香ばしいいい匂いが、辺り一面漂っていた。

ぼくはフライドポテトを見つけて、お母さんの方を見た。

 

「お参りしたあとまたここを通るから、そのとき、おばあちゃん買ってあげるで。」

とお母さんの横にいたおばあちゃんがそう言って、ぼくと手をつないだ。

 

 

「・・・フレンチドッグ? アメリカンドッグじゃなくて?」

とお父さんは、少し前の屋台の看板を見て疑問に思った。

 

「ここら辺じゃアメリカンドッグを、"フレンチドッグ" って言う人もいたかな?」

とお母さんは言った。

 

「"アメリカンドッグ" もすごい名前だと思っていたけど、"フレンチドッグ" というのもすごいな。

なんか違いがあるのかな?」

とお父さんはスマホを出して調べようとしたけど歩きながらはまずいので、またポケットの中に収めた。

 

 

砂利が敷き詰められた、なだらかな坂をのぼっていく片側にチョロチョロ流れる小川があって、その所々に祠のようなものに入っている石像が見えた。

お父さんとお母さんは、ひとつひとつの石像の個性を見ながら、本殿の方へ歩いていった。

 

本殿に上がるところに急な勾配の階段があった。

お母さんはぼくの手を引いて、ぼくはおばあちゃんの手を引いて、その階段を上がっていった。

 

いかにもお正月らしい、音楽が流れていた。

参拝者の列にみんな並んで、ひとまず参拝を済ませた。

そして、ガラガラ、棒を出して番号を告げる方式のおみくじをして、ふるまいの甘酒をもらった。

境内のはじで焚き火をしていたので、みんなで焚火にあたりながら甘酒を飲んだ。

 

ひと通りやることが終わって、4人はまたもとの道を戻り、屋台のある場所までやってきた。

 

 

 

 

Van Gogh - Häuser in Auvers
フィンセント・ファン・ゴッホ  作成: オーヴェル=シュル=オワーズ, 1890年5月 (Wikipediaより)

 

 

 

とりあえず主に売っているものの名の看板が掲げられているけど、それぞれの屋台は各自、焼き鳥、じゃがバター、やきそば、フレンチドッグ、フライドポテトと売れそうなものを並べているといった感じだった。

 

その中のひとつの屋台にフライドポテトの詰め放題のコーナーがあった。

 

ぼくはそれを見て、フライドポテトが食べたいとおばあちゃんに言った。

おばあちゃんは、うんうん、とうなずいて、お金を屋台のおじさんに渡してポテトを詰める紙袋を受け取った。

 

ぼくはポテトの皿に置いてあったトングを持ってみたけど、トングが大きくてぼくには使いこなせなかった。

すぐ、おばあちゃんにトングを渡した。

 

トングを受け取ったおばあちゃんは、

「あかん。わたしじゃうまく入れられんで。」 とお父さんにトングを渡した。

 

お父さんは、無言でお母さんにトングを渡した。

 

「結局わたしがやるのね。」

とお母さんは、トングを受け取り袋を広げた。

 

そしてみんなが注目する中、1本1本丁寧にポテトをつまんで、水平にした袋にポテトの横の角を揃えて積みはじめた。

 

・・・まじか。そこまでやるのかおまえ・・・。

とトングを渡したのは自分だけど、屋台のおじさんとの気まずい微妙な空気に耐えられなくなったお父さんは、じわり後退りした。

 

参拝を終えた家族の子どもたちが、真剣にポテトを詰めるお母さんに興味を持ち、ぽつぽつ集まってきた。

 

その子どもたちの後から来た親も興味を持って、しばらくお母さんのやっていることを見たあと、自分もやってみようと、お金を払ってポテトを詰めはじめた。

 

あんなセコい詰め方されちゃ儲けがなくなるんじゃないかと心配したお父さんだったけど、一歩引いて全体を見てみると、お母さんがかなり効果的な客寄せをしていることに気づいた。

 

お客に利益度外視のサービスをしているかと思いきや、まんまとあの屋台のオヤジの策にオレらがハマっていたんだと思うと、この前やったクレーンゲームと同じように、オレたちは知らずにプロの手の上で踊らされて、逆にあのオヤジを楽しませていたということになる。

 

・・・まあ、お正月早々みんなが休んでいる中を働いてくれているし、商売だからそれでいいんだろう、と思いながらお父さんは、たくさん集まってきた子供たちの楽しそうな顔を見ていた。

 

お母さんから、山盛りパンパンに詰まった袋を受け取ったぼくは、とてもうれしくて満面の笑みを浮かべていた。

「・・・いっぱい詰めてもらってよかったねぇ、ぼうや。」

と屋台のおじさんはにっこり笑って、「はいはい、ポテト詰め放題だよっ!」 と大きな声で言った。