ある日の夜、教育雑誌のダイレクトメールの中に入っていた付録の工作をぼくは見つけ、それを夢中になって作っていた。
それを見ていたお母さんは、すぐにアマゾンで、"つくってあそぼ" のわくわくさんの本を2冊ポチッた。
そして数日後の休日、その本が届きすぐぼくに見せてくれた。
ぼくは本で紹介されている作品をすぐに作りたくなって、お母さんに材料を集めてもらった。
牛乳パックや曲がるストロー、ペットボトルのキャップ、輪ゴムなど、家にあるもの全てテーブルの上に集め、お母さんとぼくは工作をはじめた。
今回買った1冊目の本は、"のりものをつくろう" で、2冊目の本は、"たのしいまち" ということで、両方作れば街のジオラマができる。
「何から作る?」
とお母さんは自分の買った本の食い付きがよかったので、とても嬉しそうな声でそう言った。
「くるま。」
とぼくは言って、1冊目の本を開いた。
ぼくはいちばん大きそうな、はしごの消防車を指差した。
「ちょっと待って、トキちゃん。まず、簡単そうなものから、手を慣らしていこうよ。」
とお母さんは言って、牛乳パックを切って装飾を施すだけのトラックを指さした。
そこに、自分の部屋で何かしていたお父さんがやってきた。
「お! 工作やっているのか。オレも何か手伝うよ。」
とお父さんは言って、工作に参加してきた。
テーブルに仲良く3人並んで牛乳パックを切り始めた。
Van Gogh - Weber am Webstuhl
フィンセント・ファン・ゴッホ 作成: 1884年4月30日 (Wikipediaより)
少し前にお店屋さんゴッコで作ったお父さんのメガネの時のように、大人の本気作品を見本として作ると、そんなのできないと言わんばかりにトキちゃんは自分で作ろうとしなくなる。
だからと言って、ゆるい、いい加減に作った見本だと、モノをきちんと作るこころが育たないだろう。
やったことのない作業を好きなようにやりなさいというのも乱暴のような気もする。
非常に難しいところだけど、最近はその加減がお母さんも少し分かってきた感じで、ともかくやりすぎないことを心がけるようになったのは、お母さんの大きな進歩だった。
何より、集団の中でいろいろな子がやっているのを見ているせいかトキちゃん自体、道具を使うのが以前に比べてだいぶうまくなっていた。
これが、ほかの子に影響されることのよい部分なんだろうな、とお母さんは真剣にはさみを使っているぼくを見てそう思った。
しかし、相変わらずお父さんは大人の本気モードでガンガン車を作り上げていった。
「プラッチックの曲がるストローで作る作品が多いな。オレなら違う素材で作るけどな。」
とお父さんは、わくわくさんの本に載っていないオリジナルカーを作り始めた。
「だから、トキちゃんぐらいの子が作るものだから、曲がるストローが一番扱いやすいでしょ? 車はいいから、ジオラマの背景でも作っていて。」
とお母さんは目を三角にして、お父さんの暴走を違う方向に向けた。