診察室で真剣に聞いたはずなのに、次回予約がいつか忘れてしまう。
飲食店で七味をテーブルにこぼす。
子どもの分を小さく切り分けていて、肉もテーブルにこぼす。
キッチンの電気を消そうとして、間違えて食事中にダイニングの電気を消す。
たぶん疲れてるんだ。
飲んでないのに二日酔いみたいに頭が回らない。
でもそんなの言い訳にしかならないから、何も言えない。
たった半日で色んなことをやらかしてしまって、私は絶望的な気持ちで義父の顔色を伺う。
義父は元々私にとても優しい人だった。
しかし、昨年病気で余命宣告され、一緒に過ごす時間が増えると少しずつ嫌味を言われるようになった。
たった一度だけだが、最も体調が悪くて余裕のないときは、はっきりと罵られて睨まれた。
トロくさい私はそこで初めて気付いた。
義父が私を見下していることに。
思い返せば病院や役所関係で私の説明や説得を受け入れてくれたことは今まで無く、いつも夫と義姉に説得してもらっていた。
言い方は悪いけど、夫と義姉はずっと私に義実家の世話を投げたがってた。
でも義父は、余命宣告されるような体調ギリギリ限界まで、大丈夫だからと私の手伝いを断っていた(出来ないから結局やるんだけど)。
多分、もたつく私を見るのは、体に鞭打って頑張るより耐え難かったのだろう。
見下されていると気付いたときは、本当にショックだった。
金銭的物理的に義実家を援助している、義姉と夫と私。
義父は義姉と夫の言うことは聞き入れ、感謝の言葉を口にするが、私にだけは時折悪態もつく。
のろまで要領が悪いから。
私のお給料からも義実家支援してるのに。
通院も食事の支度も、フルタイムの仕事と3歳児抱えながら頑張ってるのに。
すごくすごく虚しい。
つい最近、義父の入院した病院に私の車で行ったとき、裏道ばかり走る私に、夫が「すごい道走るね」と言って笑ったことがあった。
混んでいる幹線道路を使ったり、黄色信号でエンジンブレーキかける私に、義父が舌打ちやため息で不満をぶつけてくるから、混まない裏道を通るようになったのだ。
それを夫は知らずに笑う。
そういうことも、疲れる。
散々やらかしてしまって、重い気持ちで顔を上げると、義父は優しく笑っていた。
お互い余裕がないんだよね、きっと。