甲子園球場に夏の球児たちが帰ってらっしゃいました。
第90回全国高校野球選手権大会であります。
毎年、夏の球児たちに感動させて頂いている私にとっては非常に楽しい季節です。
今年はどの高校が第90回全国高校野球選手権大会を制するのか。
想像しただけでワクワクしてしまうのであります。
なぜこれほどまでに彼らに感情移入してしまうのか。
それは実は私も幼少の頃、全国高校野球選手権大会、いや、プロ野球選手を目指す野球少年だったからなのです。
あれは小学4年生の夏でした。
近所に住む大ちゃんたちと近くの公園で草野球を楽しんでいた私は自らの類まれな身体能力、そして凄まじいまでの野球センスに気付いてしまい、愕然としたのであります。
プロ野球選手になることを強く決意した私はすぐに両親にその意思を伝えました。
両親はまず野球の名門校に入学することを勧めてきました。
名門高校での甲子園出場から即プロ入りというエリートコースを頭の中で思い描き、存分に納得した私は中学校受験に向け猛勉強を開始しました。
私の人生の中でもっとも努力した日々だったと思います。
努力の甲斐があって私は早実、立教、明治中学に合格しました。
王貞治氏の早実、長嶋茂雄氏の立教、星野仙一氏の明治、どの学校も素晴らしい野球選手を輩出しているので私は非常に悩みました。
私の人生の中でもっとも悩んだ日々だったと思います。
悩みに悩んだ私でありましたが、ホームランバッターを目指していた私はやはり世界のホームラン王、王貞治氏の母校、早実に入学することを決めたのです。
入学式、野望に燃えた私は、ああ、私はこの学校のエースで4番になるのか、うふふなんて思いながら校門をくぐったものです。
今すぐにでも野球部に入部したい、そんな心境でした。
そして入学から数日後、隣の席の石原君が話しかけてきました。
「一緒にバスケ部に入らない?」
私は即答しました。
「うん、いいよ。」
私のはかない夢は終わりを告げました。
友達が欲しかったのであります。
野球がやりたい一心であれほど受験勉強を頑張った私でしたが友達ほしさにバスケ部に入部してしまったのです。
本当になんというあれでしょうか。
しかし、これくらいでへこたれるような私ではありません。
日々バスケットボールの猛練習をしながら野球への愛をさらに大きく育んでいったのです。
私の野球への愛は、私がプロ野球選手になった際の年度別成績を想定し、授業中にノートに書き記すまでに至りました。
時には先生に、ノートに落書きするんじゃない、などと叱られたりもしました。
しかし私は
「先生、違うんです。これは落書きなんかではありません、僕の将来の年度別成績なんです。」
とは言い返せませんでした。
先生を不安にさせたくなかったからです。
そんな私もエスカレーター式で無事に高校に進学し、プロ野球選手になるため野球部に入部する最後のチャンスがやってきました。
私は、この機会をまさに人生のラストチャンスと位置づけました。
しかし、なにをとち狂ったか私はラグビー部に入部しました。
本当になにをとち狂ったのかなと。
振り返れば私は今までに野球をやったことがいっさいありません。
我ながら一体なんなんだろうと感じずにはいられません。
運命のいたずらですか。
私は悲劇の球児ですか。
野球の神様は私の人生を翻弄なさったのでありますか。
そうでらっしゃいますか。
しかし、野球への愛は衰えるばかりか年々深まり、とうとう球団マスコットの追っかけになるまで成長したのであります。
夏の球児たちよ、私の分まで頑張ってくださいね。