リゾート階層3編 | アヴァベル×ラノベ

アヴァベル×ラノベ

アヴァベルをラノベにしてみました(`・ω・´)
といっても完全に2次創作に近い感じになってますが(´・ω・`)
念のために言っておきますが、非公式です。

アツミは目を紫色に光らせ、高速移動で火球を交わした。

「止めてください!私が何をしたって言うんですか?!」

「覚えてないんですか…?!」

コウガは左手に風の刃を纏わせ、アツミに迫っていった。

「俺がまだ小さかった頃…!」

コウガは風の刃をアツミに向けて突き出した。アツミは体を反らして交わし、その手首をつかんだ。

「殴る蹴るは日常茶飯事…!」

コウガは左手の風の刃を竜巻に変化させた。アツミは数メートル吹き飛ばされた。

「刃物で切りつけられたり…!」

コウガは右手に雷を纏わせ、アツミに向けて電気エネルギーを連射した。アツミは目を黄緑色に光らせ、重力を操作し、砂の壁で電気エネルギーを防いだ。

「ハンマーで殴られたり…!」

コウガは頭上に巨大な火球を出現させ、アツミに向けて発射した。砂の壁ごとアツミを吹き飛ばした。アツミは生えていたヤシの木に背中から激突した。

「数えきれない罵詈雑言を俺に浴びせた!!」

コウガは氷弾を出現させながらアツミに近づいていった。
アツミはよろめきながら立ち上がった。

「私は…私はそんなこと1回もしてません…!」

「まだ言い逃れをするんですか…!」

コウガは自身を氷零状態へと変身させ、体の前に巨大な氷柱を複数発生させた。
コウガは一斉に氷柱をアツミに向けて放った。先程の一撃でかなりのダメージを受けたアツミは動くことができなかった。

「コウガ!!」

蛮狼状態のカナエが、鷹の翼を展開させ、猛スピードで飛行し、アツミを救出した。氷柱はヤシの木を破壊した。

「何をするんだ、カナエちゃん!」

「ソレハコッチノ台詞ヨ!」

カナエはアツミをそっと地面に下ろした。同時に蛮狼状態を解いた。

「何を考えているの?!アツミさんに攻撃するなんて…!」

カナエはコウガに詰め寄った。コウガは毅然とした態度であった。

「そこを退くんだ、カナエちゃん」

コウガはカナエの肩に手をかけた。カナエはその手を叩くように払った。

「いいえ、退かないわ」

「仕方ない…!なら力ずくで…!」

コウガはカナエを強引に押し退けようとした。カナエはコウガの頬に強烈なビンタを食らわせた。

「このバカ!!」

コウガは叩かれた箇所を指でなぞった。

「あんた言ったわよね?『アツミさんを殺させるわけにはいかないって』。そのあんたが何でアツミさんを殺そうとしてるの?!」

「…カナエちゃんにはわからないよ。俺のこの気持ち…」

コウガは氷零状態を解いた。それと同時に、2人に近づいてくる人物がいた。

「コウガ殿、いい加減にしなさい」

ユキミチが厳しい口調で言った。

「ユキミチまで来ちゃったか…」

コウガはため息をついた。

「コウガ殿、冷静になって考えて下され。もし当時のアツミ殿がコウガ殿に対して虐待を行っていたとしたら、血眼になってまで探し続けると思いますか?」

「それは…。だけど…!」

コウガはアツミを睨み付けた。それを見かねたアツミはコウガに近づいていった。

「あなたに見てもらいたいものがあります」

アツミは首から下げてあるペンダントを取り出し、カバーを開けてコウガに見せた。

「覚えていないかもしれませんが、小さい頃の私とあなたの写真です」

写真の中の2人の子供は肩を寄せあって、満面の笑みを浮かべていた。

「あなたはグランゼールの手によって記憶が書き換えられています。今すぐに信じろとは言えませんが…」

「俺が…記憶を…」

コウガはペンダントとアツミの顔を見比べた。













「ったく、もう終わりかよ」

リグルは舌打ちをした。

「あの魔法使いはなぜアツミさんをいきなり襲うような真似をしたんです?」

エスナはいまいち状況が飲み込めておらず、困惑していた。

「こいつを読んでみろ」

リグルはグランゼールに手渡された本をリグルに手渡した。

「理由がわかるぜ?」

「…後程読ませていただきますかねぇ…」

エスナはゆっくりとその場から立ち去った。













マツリとカグラはサキを連れて、昨日の夜に訪れた喫茶店を訪れていた。カウンター席に座ってコーヒーを飲んで談笑していた。カグラは相変わらず砂糖を大量に投入していた。

「じゃあ本当にオゼロ城の王子様とお姫様なんですね」

店員のお姉さんが心地よい声で驚きの声をあげていた。

「はい。そうです」

マツリはコーヒーを一口飲んだ。

「すごいな~。まさか本物に出会えるなんて」

お姉さんは憧れの視線を2人に向けた。
サキは

「私だって最初は信じられませんでした。凄く似た人程度にしか思ってませんでした」

サキはミルクティーをストローで飲んだ。

「やっぱりそうなりますよね~…。あっ、サインとかお願いできますか?」

「すいません、そういうのはちょっと…」

マツリは愛想笑いを浮かべ、やんわりと拒否した。

「そうですよね~…」

お姉さんはしょんぼりとした雰囲気で、紙とペンをしまった。
それと同時に、正面玄関から誰かが入店してきた。

「あら、お帰り」

お姉さんが優しく声をかけたのは、昨日、バルバロス邸にて失態を犯してしまったブーカであった。
ブーカはマツリとカグラの、サキの姿を確認すると、おどおどしながら頭を下げた。

「昨晩はどうも、ごちそうさまでした」

マツリ、カグラ、サキもそれに応えるように、お辞儀をした。
ブーカはそそくさとカウンターの奥に隠れてしまった。それを見かねたサキはお姉さんに話しかけた。

「弟さんですか?」

「はい。私と12歳違いの弟です」

「12歳も離れてるんですか?!」

サキはその言葉に驚きを隠せなかった。それはマツリやカグラも同じであった。

「べノンではよくあることなんですよ?私の幼馴染みなんか、一番上の兄と17歳離れてます」

お姉さんは穏やかな口調であった。
マツリとサキが重ねて驚いているなか、カグラはため息をついていた。

「(17歳…間にリンさんが丁度入るのか…)」

カグラは少しだけ残っていたコーヒー(多量の砂糖とクリーム投入済)を飲み干した。
そして、空になったカップを置き、おもむろに立ち上がった。

「どこ行くの?」

マツリはカグラを呼び止めた。カグラは振り向くことなく答えた。

「…トイレ」

「わかった。行ってらっしゃい」

カグラは店の奥にある、カウンターやテーブル席からは見えないトイレに向かった。
トイレのドアノブに手をかけたとき、カグラはどことなく視線を感じた。

「(今のは…?)」

カグラは辺りを見渡した。近くにはカグラ以外誰もいなかった。

「(気のせい…か…。いや…違う…!!)」

近くの小窓から、カグラは覗いていた人物を確認できた。
小道を跨いで、エスナがどこか悲しそうな表情で店を見つめていたのである。

「…何でエスナがここに…?!」

エスナは視線を反らし、その場から立ち去ろうとした。カグラは小窓を開け、体をねじ込ませるようにして外へ出た。そして足音を消してエスナの尾行を開始した。













コウガはカナエたちに連れられ、宿屋の部屋に戻ってきていた。
コウガは落ち着きを取り戻しているようで、一同の警戒心は薄れつつあった。

「…俺がアツミさんを憎む記憶を植え付けられて、しかも解除する方法のリスクが大きすぎる。このままだとあなたを受け入れられることが出来ません…」

柱に寄りかかって座っているコウガは複雑な表情で、目の前に座っているアツミを見つめた。
アツミは何も言い出すことが出来ず、視線を反らした。
それを見かねたソウマは、助言をした。

「その事実がわかっただけでも十分じゃないのか」

それにユキミチも続いた。

「そうでございます。これからコウガ殿は記憶を書き換えられていることを常に念頭に置いてくだされ。あの写真から判断するに、仲睦まじい御姉弟だったのでございましょう」

「…わかった。信じてみるよ。さっきみたいに暴走したら、止めてくれるかい?」

コウガは視線を巡らせ、囲んでいる一同を見た。
カナエはコウガの手を握って、強い眼差しで見つめた。

「当然よ。私はあんたの何なの?」

「相棒…だったね。…今も変わらず」

「…今度暴走しても、私が絶対に止めるから」

カナエの目には力が籠っていた。

「(まいったな…まさかこんな台詞、言われる日が来るとはね…)」

コウガは内心、苦笑いを浮かべていた。
2人が妙に長い時間見つめあったままなので、その空気に耐えかねたリンが割って入った。

「おいおい、お前らどうしたんだ?らしくねぇぞ?」

リンに突っ込まれ、2人はようやく手を離した。そして形だけの弁明をして、笑って誤魔化した。
その光景を見て、アツミは確信した。

「(やはり…この2人は…)」













エスナを尾行しているカグラがたどり着いたのは、町外れにある墓地だった。

「(エスナはなぜこんなところに…)」

カグラは大きめの墓石の影にに身を潜め、エスナの行動を観察した。
エスナは一際小さい墓石の前で止まった。そして静かに手を合わせた。

「(墓参り…?一体誰の…)」

エスナは合掌を止めると、明後日の方向に向けて言った。

「…私が尾行に気づいてないとでも思っているのですか?ねぇ、カグラお姫様」

「(バレてる…!)」

カグラは血の気が引いていくのを感じていた。

「丁度よかった。少々私のストレス発散に付き合ってくれませんかねぇ!!」

エスナは右手をハンマーに変化させ、カグラが隠れている墓石を叩き割った。カグラは軽い身のこなしで交わした。

「…なぜここに…!」

カグラは両手にナイフを構えた。

「帰省ですよ、帰省。いけませんか?」

「…嘘だ…!何か隠してる…!」

カグラはナイフをエスナに投げつけた。

「ご冗談」

エスナは右手のハンマーでナイフを打ち緒とした。

「お話ししませんでしたっけ?べノンは私の故郷だと。覚えていないのなら今覚えて下さい。まあ、今はどうでもいいことなんですけどねぇ…!」

エスナはカグラに駆け寄りハンマーを振り抜いた。カグラは跳躍して回避した。

「訳のわからないまま生き返され」

エスナは左手を槍状に変化させ、カグラに向けて連続で突き出した。カグラはナイフでさばきながら回避した。

「訳のわからない作戦に巻き込まれていく」

エスナは右手を鞭状に変化させ、カグラに向けて伸ばした。右手はカグラの胴体に巻き付いた。

「こっちの身にもなってくださいって話ですよ…!」

エスナは身動きがとれないカグラを持ち上げ、左手の槍を喉元に突きつけた。

「…っ!離して…!」

「カグラ様にも私と同じ苦しみを味あわせてあげましょう」

───────────────────

「…誰が…こんなところで…!」

カグラは道化状態を発動させた。

『死ぬわけにはいかなんだよ?』

エスナの槍状の手が突き出されると同時に、カグラは瞬間移動とも思える動きで抜け出した。

「なるほど…。カグラ様も力を手にいれたんですねぇ…。危険な力を」

エスナは両手を元に戻した。
カグラは両手を腰に当て、自分を誇張するようなポーズをとった。

『どう?すごいでしょ!』

「私個人としては、とても迷惑なんですよねぇ…」

エスナは腰に差してあるレイピアを抜いた。

「しかし、死んでしまえば関係ありませんがね」

エスナはレイピアを構え、カグラに向けて連続で突き出した。カグラはステップを踏むように回避した。

『おじさん遅いなー。そんなんじゃボクにちっとも追い付けないよ?』

「追い付く必要なんてありません」

エスナは左手をハンマーに変化させ、地面を叩いた。振動により、カグラのステップが一瞬乱れた。

「引きずり下ろせばいい」

エスナはその隙に、レイピアを振り抜いた。レイピアの切っ先はカグラの腹部の服に命中した。

『あっ?!もー!何するの?!』

カグラは頬を膨らませて怒りの感情を顕にした。

「…まるで幼児を相手にしているようですねぇ」

エスナがため息をついたその時、どこからともなく風と炎の刃がエスナに向けて飛んできた。エスナはレイピアでそれらを受け流した。

「誰ですか?邪魔をするのは」

「…私です」

近くの木の上から、サキが扇を両手に構えて跳び下りてきた。

「お初にお目にかかります。サキと言うものです。カグラさんには手を出さないでいただきたい」

「サキ…?」

エスナはサキと言う名に心当たりがあるのか、少し考えるような素振りを見せた。
その間に、マツリがカグラを連れて安全な場所まで避難した。

「ああ…思い出しました。あんなに小さかったサキお嬢様が、今や私の前に立ちはだかるとは」

「なぜ…私のことを?」

エスナはレイピアを納めた。
影に隠れているマツリとカグラは困惑した表情で顔を見合わせた。

「私があの魔法使い君と同じくらいの頃、私はあなたのお父様のお屋敷にて、従者として働いていました。当然、あの大手術ことも知っております」

エスナは天を見上げ、呟いた。

「そうか…あの時の若者がソルレイン君だったんですねぇ…」

エスナは視線を落とし、マツリたちが隠れている方に視線を向けた。

「手術の後、すぐにオゼロ城の従者になりましたけどね。全く…運命というのは奇妙なものですねぇ…」

「あなたが言うな!」

いてもたってもいられなくなったマツリは物陰を飛び出して、叫んだ。

「僕たちの記憶を弄んだくせに…!」

マツリの目には強い怒りの感情が籠っていた。

「その事について、詫びるつもりは一切ございません。使えそうなものは何でも使っておきたかったですしねぇ…」

エスナはゆっくりと歩き出し、墓地の中心から離れていき始めた。

「興醒めですねぇ…。少しは成長しているかと思ったら、相も変わらず復讐ですか。もう私は死んでいるのですよ。追うべき敵は他にいるはずだと思うんですかねぇ…」

エスナは墓地の出口で止まった。

「…最後に1つ。今すぐべノンから逃げた方がいいですよ。逃げないのなら、覚悟を決めておいた方がいいかも知れませんねぇ…」

エスナは墓地を後にした。
すぐそこの建物の影に、リグルが待機していた。

「探したぜ。早く戻らないとサリーが怒ちまうぞ?」

「…あの化学者はどうも好きになれません。本当に…」

「…気持ちはわかる」

リグルは魔方陣を発生させ、エスナを引き連れファボスに戻っていった。













いつの間にか通常状態に戻ったカグラは、エスナが手を合わせていた墓石に近づいた。

「姉ちゃん?」

マツリが呼び止めたが、カグラは聞こえないふりをした。

「(エスナは一体何を…)」

小さい墓石には、1輪の花が手向けられていた。
カグラはその花を持ち上げた。そこにはエスナがべノンの地を訪れた動機がかかれていた。













ファボス城、地下広場。
サリーは骸骨兵の最終メンテナンスを行っていた。先日はただの骸骨であったが、今日は粗末ではあるが甲冑を身に付けており、剣や槍などで武装していた。
その光景を、グランゼールは上方についている窓から覗いていた。

「ようやりおる…」

その隣には、ソルレインが不機嫌な顔で腕を組んで立っていた。

「…サリーをナンバー2にするというのは本当か」

「そうだ。嫌か?」

「…あんなパワハラ上司、俺はごめんだ」

グランゼールはため息をついた。

「報告は上がっている。だが、今は解決させるつもりはない」

「何?」

ソルレインはグランゼールを睨み付けた。

「時期が来たら、お前たちに力を授けてやる。それまではサリーの言うことを聞いておけ」

「力…か」

ソルレインは呆れた様子で、その場を後にした。













地下広場では、サリーが骸骨兵に向かって号令をかけていた。

「構え!」

骸骨兵は一斉に武器を構え、戦闘体制をとった。

「そこまで!」

骸骨兵は武器を収め、直立の体制をとった。

「完璧…!ここまで統率がとれるなんて…!」

サリーは1人で喜びに浸っていた。

「これでグランゼール様の悲願が達成できる日が近づく…!」

サリーは机の上の本を手に取った。

「よし、仕上げにいくわよ」

そして、10体の骸骨兵を引き連れ、地下広場を後にした。
サリーが向かった先は、白の中庭だった。
ソルレインが腐りかけのベンチに腰掛け、空を眺めていた。

「いた…」

サリーはニヤリと笑い、ゆっくりとソルレインの方を指差した。

「軽ーく遊んでやりなさい…!」

背後からする異様な気配に、ソルレインは気づいた。

「これは…!」

ソルレインは臨戦態勢を取った。迫り来る骸骨兵に向けてベンチを蹴り飛ばした。骸骨兵は一瞬怯んだ。

「サリー!どういうつもりだ?!」

ソルレインは振り下ろされた剣を交わし、奪い取った。

「さぁね?」

「なんだと?!」

ソルレインは迫り来る骸骨兵を剣で薙ぎ倒しながら、サリーに近づいていった。
その光景をサリーは鼻で笑い、顔の前で指を鳴らした。
すると、倒れていた骸骨兵が一斉に起き上がり、ソルレインに襲いかかった。

「何?!」

ソルレインは俊敏な身のこなしで攻撃を交わした。そして頭蓋骨めがけてナイフを投げ込んだ。
ナイフは骸骨兵たちの頭蓋骨を貫通した。骸骨兵らは再び倒れた。

「貴様…!こんな真似をしてただで済むと思うな…!」

完全にキレたソルレインは剣を振りかざしてサリーに向かっていった。

「無駄よ」

サリーは左手から紫色の波動を出し、目の前に迫っていたソルレインをスライム状に変化させた。

「またこれか…!」

剣が激しい音をたてて落ちた。

「私に歯向かおうなんて、100年早い」

サリーは蔑んだ目でスライムを見た。

「あんたは所詮、私の実験動物。こういうテストには無理矢理にでも参加させるに決まってるじゃない」

サリーはスライムを踏みつけた。

「今日だけは多目に見てあげる。今度逆らったら…!」

サリーは剣を拾い上げ、スライムを軽くつついた。

「わかるわよね…?」

サリーは剣を後ろに投げ捨てた。
そして頭上で指を鳴らすと、ソルレインは元の人間の体に戻った。同時に骸骨兵らが起き上がり、サリーのもとに近づいた。

「明日、出発の予定よ。それまでに支度しておきなさい」

サリーは骸骨兵を引き連れ、城内に戻っていった。

「くそっ…!」

その背中を睨み付けているソルレインの拳には、力が籠っていた。













夜。
バルバロス邸は人だかりでごった返していた。
シルキスエルダ学園に派遣されていた調査団が帰ってきたからである。しかし、バルバロスの機嫌は良くはなかった。

「何もわからなかっただと?!」

バルバロスはテーブルを激しく叩いた。

「我々も丸1日粘ったのですが、断固として敷地内に入れてもらえませんでした…」

団長の男性は申し訳なさそうに頭を下げた。

「強引にでも中に入れ!」

「しかし、これ以上敷地に入ろうとするなら、武力行使も辞さないと警告されました!」

団長の必死な表情にバルバロスは何かを感じ取った。

「…わかった。後は俺の方で方をつける。今日はゆっくり休めと伝えろ」

「了解しました」

団長は一礼し、リビングから立ち去った。

「妙だな…。何をそんなに知られたくないんだ…」

バルバロスはソファに座った。そして、団長が残した資料を手に取った。

「これは…」













十数分後、バルバロス邸のリビングにはサキの姿があった。

「お話というのは?」

「これを読んでみろ」

バルバロスは資料をサキに手渡した。
ある箇所にサキの視線が到達したとき、サキは一瞬だけ目を見開いて驚いた。

「…なるほど。学園は私を捨てたってことですか」

それはサキへの退学処分通知であった。

「今となってはもうどうでもいいことですが」

サキは資料をバルバロスに返した。

「明日、俺が直接乗り込んで調査に行く。腐りきった内情を世界に公表しなけりゃならん。関係者のお前から聞くのが一番手っ取り早いんだがな…」

「今は…話したくありません。…百聞は一見にしかずとも言います。ご自分の目で確かめてもらった方が良いかと」

「わかった。呼び出して悪かったな。ブーカはいるか?」

バルバロスの呼びかけに、リビングの出口からブーカがおどおどしながら顔を出した。

「…お、お呼びでしょうか…」

「この子を宿まで連れていってくれ」

「わかりました…」













バルバロス邸を後にし、2人は宿に向けて海沿いの道を歩いていた。
ブーカのビクビクしている様子に、サキはどうすればいいかわからなくなっていた。

「(いつもこんな調子なの…?。昨日といい今日といい…、こっちが疲れる…)」

その時、近くの草むらで突然物音がなった。

「ひぃっ!!」

ブーカは跳び上がる位の驚きっぷりで、サキの背中にしがみついた。サキはブーカの行動に呆れていた。
物音の正体は猫だった。猫はブーカの声に驚き、どこかへと逃げていった。

「…大丈夫ですか?」

「は、は、はい…。ごめんなさい…」

ブーカは慌てた様子でサキから離れ、頭を下げた。

「また僕のせいで迷惑を…」

「問題ないです」

このことがきっかけになったのか、少しずつ話をするようになった。













「…なら、ブーカ君はお姉さんと2人暮らしってこと?」

道路から砂浜へ通ずる数段の石段に腰掛け、サキは体を縮こませるように座っているブーカに話しかけた。


「…うん。もう何年にもなるよ…」

ブーカもサキとは同い年だということがわかって、少しずつではあるが、肩の力が抜けつつあった。

「君は…?」

「私はお父様が実家のお屋敷にいるけど…今は絶縁状態…かな」

「そうなんだ…。お嬢様なんだね…君って…」

「そんなことはないよ。マツリ君やカグラさんに比べたら…」

「知ってるよ…。オゼロ城の王子様とお姫様なんだってね…」

ブーカは立ち上がって、海の方に歩き始めた。

「姉さんの婚約者の人がオゼロ城で働いているんだ…。名前を言ったらわかるんじゃないかな…?」

「何て名前?」

ブーカの口から、衝撃的な言葉が飛び出した。

「…エスナさん」

───────────────────

翌朝。
バルバロスは数人の従者と共に、シルキスエルダ学園に向けて出発した。
ラクダに股がって、砂漠へ向かっていく背中を、ブーカは黙って見送った。

「…本当にあんな少人数で行かれるつもりなの?」

その背後から、サキが扇で自分を扇ぎながら表れた。

「町長はべノンで一番強いって言われているんだ…。10人くらいなら軽く蹴散らせる…?」

「すごいね。バルバロスさん」

「うん…」

ブーカはサキの方を振り返った。

「何でかな…。君となら話しやすいや…」

「えっ…?」

サキは戸惑いの表情を見せた。
サキが返答に困っていると、あくびをしながらリンが表れた。

「よう、お前ら。朝っぱらからこんなとこで何してんだ?」

リンの登場に、ブーカはサキの影に隠れるように身を潜めた。

「あ…う…」

「あん?何だこいつ」

リンがブーカに話しかけようとしたが、サキが目で制した。

「リンさん」

「何だよ。少し位いいじゃねぇか」

リンがブーカに近づくと、ブーカはさらに身を縮こませた。

「ダメだこりゃ」

リンはやれやれといったポーズを取った。

「そういえば朝飯もう食ったのか?」

「いえ、まだです」

サキは首を横に振った。

「ラッキーだな。コウガとユキミチが飯作ってくれるってさ。お前も一緒にどうだ?」

リンは視線をブーカに向けた。ブーカは視線を反らし、先程より増してサキの背後に身を潜めた。

「まあいいや。来たけりゃ来いよ」

リンはサキを連れて宿に戻ろうとしたとき、町の向こうから近づいてくる人影の集団を発見した。

「やっぱり有名な観光地なだけはあるな。客が次から次だぜ」

リンはのんきに構えていたが、サキは異変に気づいていた。

「…本当に観光客でしょうか?」

「どういうことだ?」

「何というか…遊びに来たっていう雰囲気じゃないような…」

サキの悪い予感が的中した。
集団は一斉に剣を抜き、3人に向かって走ってきた。

「別の意味で遊びてぇらしいな」

サキは大剣を構えた。

「寝起きの体操だ!ちょっくら付き合ってやる!お前たちはみんなを呼んでこい!」

「わかりました!行こう!」

サキとブーカは宿の方に向かって走り出した。
それを確認したリンは、向かってくる集団に向けて、戦闘体制をとった。

「止まれ!何物だ、てめぇら!」

集団の中の1人がリンに突撃してきた。

「名乗る必要はない」

襲撃者は剣をリンに突き出した。リンは大剣で受け流した。

「へっ!そっちがその気なら…」

リンは大剣に燃え盛る炎を宿し、真一文字に振り抜いた。襲撃者たちは熱波によって吹き飛ばされた。

「手加減なしだぜ?!」

リンは大剣を天高く突き上げた。大剣を纏っていた炎がリンを包み込んだ。
炎が吹き飛ぶと、紅蓮状態へと変身したリンがそこに立っていた。手にしていた大剣も灼熱の炎の刃を帯びた。
襲撃者の男性は顎で、半数の仲間にサキたちを追うように指示した。

「あっ!おい!」

リンは数名の襲撃者を追おうとしたが、残りの襲撃者によって行く手を遮られた。

「くっそ…!」













砂浜沿いの道を走っているサキとブーカであったが、突然、目の前に襲撃者が表れた。

「えっ?!」

2人は逃げる方向を変えようとしたが、すでに襲撃者たちに取り囲まれていた。

「対象を確認。これより行動を開始する」

襲撃者たちは一斉に剣を抜き、サキたちにに向けて突きつけた。

「…ブーカ君、まだ走れる?」

「えっ…?」

「私たちが泊まってる所はすぐそこだから…!」

サキはブーカの腕を掴み、側に引き寄せた。すぐに、サキは扇を取り出し、激しい風を起こして襲撃者たちを吹き飛ばした。

「誰でもいいから呼んできて!」

サキはブーカの背中を突き飛ばすように押した。

「う、うん…」

ブーカはその場から宿の方角に走っていった。