リゾート階層1編 | アヴァベル×ラノベ

アヴァベル×ラノベ

アヴァベルをラノベにしてみました(`・ω・´)
といっても完全に2次創作に近い感じになってますが(´・ω・`)
念のために言っておきますが、非公式です。

輝く太陽、青く澄み渡った海、ゴミ1つない砂浜。

「ひゃっほー!!」

今海に走っていったのは、(どこで調達したのか)水着姿のカナエであった。

「…ま、待ってください…!」

その後に、同じく水着姿のカグラが続いていった。
コウガたち一行の他にも、このビーチはたくさんの観光客で賑わっていた。

「水は苦手だぜ…」

一応水着に着替えているリンは、ローブを羽織って砂浜に座っていた。隣には完全防備のサキが日傘を差していた。

「何か…すごい格好だな…」

「元々皮膚が弱い体質なので。曇りなら私も泳ぎたいと思ってます。リンさんは?」

「え?あ、ああ、もちろん私も泳ぐに決まってんだろ?!」

リンが全く泳げないのを取り繕うように大袈裟に言ったが、近くで話を聞いていたマツリがボソッと言葉を漏らした。

「カナヅチ…」

「おい、マツリ!!」

リンは立ち上がり、マツリに詰め寄った。

「誰がカナヅチだぁ?!」

マツリはその場から逃げ出した。リンは拳を振り上げて後を追いかけ始めた。
その光景を、砂浜から1段上がった高台から、ソウマは眺めていた。

「また始まったか…」

ソウマは呆れたような表情をしていた。ソウマは何となく後ろを振り返った。すると、コウガとユキミチが近づいて来るところだった。

「どうなった?」

「9時過ぎに来いって。それまでは自由にしてていいらしいよ」













遡ること30分前。
町にたどり着いたコウガたち一行は、町の中心部にある町長の屋敷に招かれた。
その町長は強面の髭面のオジサンであり、サインとは真逆の人物であった。

『がっはっは!よく来たな!俺がこの町、べノンの町長、バルバロスだ!』

強烈なインパクトを受けた一行は言葉が出なかった。

『俺についてきてくれ!さあ、入った入った!』

バルバロスに連れられて来たのは、フカフカの1組のソファがカーペットの上に、豪華な装飾が施されているテーブルを挟んで置いてあるリビングだった。
一行はソファに座るよう言われた。

『実はサインのやつから、お前さんたちに休暇をくれてやれと言われててな!粗方の事情は知っているぞ!大変なんだな、お前さんたちも!そこでだ!』

バルバロスのやかましい声がより一層やかましくなった。

『ここにいる間は、俺の権限で自由に過ごせるようにした!宿も手配してある!この町で一番の宿をな!』













バルバロスはこのような調子で約30分間しゃべり続けた。途中からべノンの歴史や、サインとの思い出話に脱線していたのは内緒の話。
バルバロスに解放された女子4人+マツリは海に向かっていったのだ。
しかし、コウガとユキミチは残され、歓迎パーティーの打ち合わせに付き合わされた。
今、男3人はビーチが見渡せる、小洒落た喫茶店の屋外のテーブルを囲んで座っていた。テーブルの上には軽食が配膳されていた。

「さっきあの人の容態見てきたけど、相変わらず起きる気配が全くないよ」

コウガはテーブルのジュースを飲みながら言った。

「もしかしたら、もう2度と目が覚めないかもね」

「それは困るな」

ソウマは困った表情で腕を組んだ。

「どう転ぶにしろ、あいつが目覚めてくれないと、俺たちの負担が増える。いつまでも背負って移動するわけにはいかない。キズの方はもういいのか?」

ユキミチはどこか申し訳無さそうに言った。

「ええ。先程、コウガ殿と一緒に彼女の容態を確認しましたところ、キズは完治しております」

「そうか…」

「しかし、治癒魔法を彼女に唱えたところ、拒絶されました」

「拒絶?どういうことだ?」

ソウマの体が前に乗り出した。ユキミチの言葉を継いでコウガが話し始めた。

「どうだろうね。少なくとも、俺の目には自分の意思で魔法を受け付けてないように見えた」

「私もコウガ殿と同じでございます。恐らく、目を覚ましたくないのでございましょう。時が来れば、自ずと覚めるのではございませんか?」

「待つしかないか…」

ソウマが背もたれに寄りかかったその時、何かがソウマの頭をを直撃した。

「「あっ…」」

コウガとユキミチは少し驚いた様子だった。対照的にソウマはこめかみに血管を浮かび上がらせていた。
飛んできた物体の状態は人の頭より2周りほど大きい白色のボールだった。
リンが下から声をかけてきた。

「おーい!ボールそっちに行っちまったから取ってくれ!!」

ソウマはボールをわしづかみにし、柵から上半身を乗り出した。

「…こいつを投げ込んだのはお前か?」

「投げてねぇよ!カナエが本気でスパイク撃ってくるからよ、弾いたらどっか行っちまってさ!気づいたらそっちに飛んでってたんだ!」

「わかった。返してやる」

「ありがとう!助かったぜ!ソウ…」

ソウマはボールを全力でリンに向かって投げつけた。見事リンの顔面にクリーンヒットした。
ボールが顔から落ちると、リンの顔は真っ赤になっており、鼻血を出していた。

「ってーな!おいソウマ!何しやがんだ!!」

「自業自得だ」

リンはぶつぶつと文句を言いながらも、ボールを持ってカナエたちの元に向かっていった。

「…ったく、いくらなんでもはしゃぎすぎだろ」

ソウマはコウガとユキミチの方を向き直した。

「気持ちはわかるよ。ずっと極限状態にいたわけだしさ。リラックス出来るいい機会だと思うよ」

「そうは言っても歳考えろよ、歳を」

「カナエちゃんたちみんな俺たちより年下だよ?」

コウガに言われて、ソウマはモヤモヤした表情になった。コウガが19歳、カナエが18歳である。ちなみに最年長のユキミチが21歳、最年少のカグラとマツリが15歳である。

「ソウマ殿、あまり堅くならないでくださいませ。私もコウガ殿と同じ考えでございます」

「いや、息抜きすること自体に反対はしていない。ただな…」

ソウマが話を続けようとしたとき、再びボールがソウマの頭を直撃した。

「あー、2回目…」

「これはいけません…」

「こうやって周りに迷惑をかけるから嫌なんだよ!!」

完全にキレたソウマは転がっているボールを持って、柵からビーチに跳び降りて行った。

「おい、今当てたやつ、誰だ!」

ソウマはゆっくりとした足取りでカナエたちに近づいていった。

「あーあ、行っちゃった」

コウガは頭の後ろで手を組んだ。

「ソウマ殿も気が短い。これからどうなさいますか?」

「もう1度あの人の様子を見に行ってみるよ。起きた時に誰かが近くにいないとね」

「なるほど。私もお供させていただきます」

コウガとユキミチはバルバロスが手配した宿に向かった。













ビーチから歩いて3分もかからない場所、南国植物が出迎えてくれる宿が、コウガたちの宿泊場所であった。
老若男女の観光客とすれ違いながら、コウガとユキミチは部屋の一室に向かった。和室の、いっぺんに大人数が止まれる部屋であった。
その海が一望できる窓際に布団が敷いてあり、アツミが寝かされていた。

「やっぱり眠ったままか…」

「先程申し上げた通り、私は、この方は自分で目を覚ますのを拒否しているように思われます」

「そうなのかな…」













『また来た…』

アツミは意識のない中で、2人の気配を感じ取っていた。

『まだ起きる訳にはいかない…』

アツミは目の前に広がる光景に意識を集中した。色鮮やかだった光景はモノクロになり、全てが停止していた。女の子が連れ去られる場面であった。

『もう少しで何かが見えてくるはず…それまでは…!』

アツミは鞭をしならせ、ところ構わず振り回した。鞭は気や岩などの物質がない場所でも跳ね返った。

『あの辺りね…』

アツミは鞭が跳ね返った場所に近づき、そっと手を触れた。それは丁度絶望に表情を歪ませる少女の、家族に助けを求め、必死に伸ばした右手だった。

『…ごめんね』

アツミはその手をゆっくりと握り締めた。
そして、目を黄色に光らせ、その箇所を思いっきり殴り付けた。
すると、その箇所からモノクロの景色にひび割れが走り、激しい音をたてて割れた。そして、新しい景色がアツミの目に飛び込んできた。場所はさっきと変わらなかったが、鮮やかな色がつき、写真から映像に変わっていた。

『これは…』

アツミは辺りをゆっくりと見渡した。そして、視線を前に戻すと、道の向こうから歩いてきた人物に、衝撃を覚えた。

『なぜ…あのお方が…?!』

アツミはその場から1歩も動くことが出来なかった。













アツミの異変は、部屋でくつろいでいたコウガとユキミチにもわかった。

「うっ…ううっ…」

アツミが苦しそうな表情で呻き声をあげていたからである。

「うなされてる?悪夢でも見てるのかな?」

コウガはアツミに近づき、顔を覗き込んだ。

「少し様子がおかしゅうございます。しばらく警戒しておきましょう」

ユキミチはコウガの肩をつかんで、上体を起こさせた。

「…が……ちが…」

アツミが再び呻き声にも聞こえる寝言を言い始めたので、コウガとユキミチは意識を集中させた。

「…違…う……違う…こんな…の…」













『私は覚えていない!!』

アツミは目の前に繰り広げられている惨状を受け入れることが出来なかった。
なぜなら、今起こっている出来事は、かなり衝撃的な出来事にも関わらず、アツミの記憶には少しも刻まれていなかったからである。

───────────────────

「嘘だ!!」

悲鳴に近い叫び声と共に、アツミは勢いよく上体を起こした。額には嫌な汗がベッタリとかいてあった。
アツミの迫力に、男2人はキョトンとしていた。

「…ここは…私は一体…」

我を取り戻したアツミは、2人の存在に気づいた。その目は強烈な殺気がこもっていた。

「き、気分はどうですか?」

コウガは恐る恐るアツミに聞いた。

「…見ればわかるでしょう。最悪です。本来敵であるあなたたちが近くにいるので尚更」

コウガとユキミチは顔を見合わせ、やれやれといった表情をした。

「まだそんなこと言ってるんですか?あなた、仲間のリグルとかいう魔法使いに殺されかけたんですよ?」

「助けたから仲間になれって?冗談じゃありませんよ」

「別にそんなこと一言もいってません。ただ…」

コウガはアツミ依然殺気の籠っているの目を見た。

「あなたは絶対に死なせてはいけない…そんな気がしたものですから」

コウガの一言にアツミの目に籠っていた殺気はかなり和らいだ。
アツミは視線を海の方に向けた。コウガは折を見て再び話し始めた。

「…そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね。何て言うんですか?」

「…アツミ。アツミと言います」

「アツミ…?」

アツミと言う名を聞いた瞬間、コウガは一瞬だけムッとした表情になった。

「まさかね…」

コウガは誰にもわからないような小声で呟いた。

「コウガ殿?いかがなされました?」

「え?あっ、何でもないよ」

ユキミチはコウガの微かな異変に気づいた。













夕方。

「ただいまー」

遊び疲れた様子でカナエたちが部屋に戻ってきた。ソウマはリンの首根っこをつかんでいた。

「もう2度と俺にボールを当てるなよ」

「だから、わざとじゃねぇって…」

リンはソウマの手を払った。
部屋の中ではコウガが昼寝をしていた。
ユキミチとアツミはベランダで話をしているようだった。

「やっと目が覚めたのか」

「いってみましょ」

ソウマとカナエは2人の話に乱入することにした。













「…なるほど。それでうなされていたわけでございますね」

ユキミチはアツミの悪夢の内容を聞いていた。視線は合わせずに、2人とも海の方を向いていた。

「はい。信じてもらえるとは思ってませんが…」

そこに、窓の扉を開けて、ソウマとカナエがやって来た。

「お帰りなさいませ」

アツミは一瞬だけ視線を向けたが、すぐに元に戻した。

「おう。なぜこんなところにいる?」

ソウマは率直な疑問を投げ掛けた。

「アツミ殿が、コウガ殿に聞かれたくない話だと申したので、頃合いを見てこのような場所に」

「アツミ?」

ユキミチはアツミの方を指した。2人はアツミの方に顔を向けた。

「ああ、こいつか」

「あんた、コウガに聞かれたくないって、どういうことなの?」

カナエがアツミに向かって言った。

「…話せば長くなります。…どこから話せばいいでしょうか?」

アツミはユキミチに顔を向けた。

「そなたとコウガ殿の関係からお話ししたらどうでしょう」

「…そうですね。そうします」

アツミはソウマとカナエの方を向き直した。

「このペンダントをご覧ください」

アツミは首から下げているペンダントを取り出し、カバーを開けて、ソウマとカナエに見せた。

「小さい頃の私です。隣に写ってるのは、生き別れになった弟です。…グランゼールから、自分についてくれば弟を探すと言われて、この前までずっと従ってきました」

アツミはペンダントを閉じて、胸元に閉まった。

「ですが、もうその必要は無くなったかもしれません」

アツミは布団で寝ているはずのコウガに視線を向けた。それに連れるように、ソウマとカナエもその方を向いた。
相変わらず気持ち良さそうに眠っているコウガは、マツリとリンから何やらイタズラされていた。傍観しているカグラとサキは今にも吹き出しそうになっていた。4人は呆れた顔になった。

「ど、どういうことだ?探す必要が無くなったとは」

ソウマは半ば強引に話を戻した。

「…私の弟が、コウガさんである可能性が高いんです」

「何だと?!」

「えっ?!」

ソウマとカナエに衝撃が走った。

「…姉がいるなんて…コウガはそんなこと一言も言ってないわ?」

カナエは今だ状況が飲み込めていない様子だった。

「でしょうね」

アツミはため息をついた。

「私も彼も、記憶を改ざんされてましたから。グランゼールに。多分今私の弟だと言っても、絶対に信じないでしょう…」

アツミの言葉はどこか諦めに近いようなものがあった。

「仮に、お前の話が事実だとして、なぜコウガと姉弟関係だったということがわかった?」

ソウマは腕を組んだ。

「グランゼールの術は非常に強力なのですが、1つだけ弱点があります。それは、自分の記憶に欠落、もしくは間違っている部分があるとわかった瞬間、術の効果は薄れます。私はリグルに殺されかけた後、自分の記憶を遡る機会があって、時間はかかりましたが、記憶の間違いに気づけました。ただ、1つだけ気がかりなのは…」

アツミは声のトーンを落とした。

「グランゼールはコウガさんに対してどの様に記憶を書き換えたか不明な点です。私の場合は、グランゼールの仲間になった経緯を改ざんされ、コウガさんの名前を忘れさせられました。もしかしたら、あなたたちの誰かに危害を加えるような記憶を植え付けられているかも…」

4人の間に沈黙が訪れた。その時、部屋の中が突然騒がしくなった。
大爆笑しているカグラとサキを尻目に、目を覚ましたコウガがマツリとリンに向かってげんこつを噛ましているところだった。顔にはよくわからない謎の落書きが施されてあった。

「(コウガがそんなことするはずがない…)」

カナエは逃げ回っているマツリとリンを追いかけ回しているコウガを見つめながら考えていた。

「(ない…よね…絶対に…)」













夜、一行はバルバロスの家に向かった。
昼間に案内されたリビングで、バルバロスとそのお手伝いと思われる、数名の男性が料理の準備をしていた。

「おう!来てくれたか!」

バルバロスは新鮮な海産物を使った料理をテーブルの上に置いた。

「だが、見ての通りもう少し時間がかかる!悪いが時間までゆっくりしていってくれ!」

一行はバルバロスから半ば追い出される形で屋敷を後にした。













アツミは船着き場の岬に行き、柵に凭れかかって1人星空を眺めていた

「ここにいたのか」

アツミは背後から声をかけられた。暗闇からソウマが現れた。

「…私を探してたんですか?」

「少なくとも、俺はお前のことを完全には信用していない。それはお前もじゃないのか?」

「そうですね…そうかもしれません」

ソウマは灯台の壁に寄りかかった。

「まさかお前と話す機会が来るなんてな。初めて雪山で会ったときは想像してなかった」

「私もですよ。…ソウマさん…でしたよね?」

「ああ、そうだ」

アツミは体の向きを変え、ソウマの方を向いた。

「あなたはなぜコウガさんたちと旅をしているんですか?」

ソウマは少し考えてから話し始めた。

「…そうだな。今から4、5ヶ月前になるな、あいつらと出会ったのは。あのときはまだコウガとカナエの2人だけだった。当時、俺が住んでいたクリプスと言う村の周辺で、怪物騒ぎが頻発していた。サリーの仕業でな」

アツミの表情が暗くなった。ソウマは構わず話を続けた。

「俺は1人で怪物を退治していた。だが、あいつらは部外者にも関わらず、俺と共闘してくれた。そのお陰でサリーを倒すことができた。で、サリーがファボスの一員だとわかって、俺はあいつらと旅に出ることにした。…なぜこんなことを聞く?」

アツミは顔を上げ、再び星空を眺めた。

「…何ででしょうかね。自分の弟かもしれない人が信頼している人ってどんな人なんだろうと思ったからかも知れません」

ソウマはため息をついた。

「そうか…。最初はただの利害関係の一致だけだったが…」

ソウマは薄ら笑いを浮かべた。

「今はどうだろうか」

ソウマも顔を上げ、星空を見上げた。
その時、マツリとカグラが走ってきた。

「あっ、いたいた。ソウマさん、準備ができたみたいですよ。すぐにいきましょう?」

「わかった」

マツリは再び走って戻っていった。

「…先に行ってます」

カグラもその後をついていった。

「お前も来たければ来ればいい。話し相手ぐらいにはなってやろう」

ソウマは歩いて岬を後にした。













ソウマがバルバロス邸に到着したとき、パーティーはすでに始まっていた。バルバロスのこぶしのきいた歌声が玄関まで響いていた。

「おいおい…主催者が楽しんでどうするんだ…」

ソウマがため息をついた時、アツミもバルバロス邸に到着した。

「結局来たのか」

「他に行く宛がありませんから。それに、ここに来たから参加するとは限りませんよ?」

アツミは屋敷の中に入らずに、フラッとどこかに消えていった。













リビングでは豪華な海鮮料理がいくつも配置されたテーブルを囲むように、コウガたちが食事を楽しんでいた。
しかし、ユキミチはあまり手を伸ばしていないようだった。

「食べないのか?」

ソウマはユキミチの隣に座った。

「私は仮にも修行中の身。必要以上の食事はなるべく慎むように心がけております」

「そうか」

ソウマは箸を取り、目の前にあった魚の活け作りに手を伸ばした。そして、何もつけずにそのまま食べた。

「そんなこと言ってねぇでさ、ちゃんと食おうぜ?」

ユキミチの隣に座っていたリンが、ユキミチに小皿の上の寿司を食べさせようとした。

「お断りさせていただきます」

ユキミチはやんわりと手でそれを制した。

「なんだよ。ノリ悪ぃな」

リンはその寿司を自分の口に入れた。

「(これはあの日の自分に科した罰のようなもの…。…余計な贅沢は絶対にしない…)」

ユキミチは立ち上がって、テーブルを離れ、コップに冷水を注いだ。
それを持って席に戻ろうとしたとき、何かにぶつかった。直後、激しい音をたてて相手は倒れた。

「申し訳ありません!お怪我はございませんか?!」

ユキミチはすぐにかけより、相手の無事を確認した。ユキミチがぶつかった相手は、まだあどけなさが残る少年で、手にしていたトレーの上で料理がぐちゃぐちゃになっていた。

「…すいません、大丈夫です。すぐに片付けます」

少年は床に飛び散った料理を手で広い集めた。

「いえ、私の不注意で起きてしまったことです。私がやりましょう」

ユキミチは素早く床の上の料理をトレーに乗せた。そのまま、トレーを直通のキッチンにまで持っていった。少年はその間、なにもせずに立ち尽くしていた。そこにバルバロスの怒号が飛んだ。

「おい、ブーカ!!お前お客様に片付けをさせるとは何事だぁ?!」

「すいません…」

「謝る相手は俺じゃないだろ?!ほら、さっさと言ってこい!!」

ブーカと言われた少年は小走りでユキミチのもとに向かった。バルバロスはコウガたちにいきなり大声を出したことを詫びた。

「すまないな!あいつも悪いやつじゃないんだが、どこか引っ込み思案なところがあってな!気にしないでくれよ!」

といっても、声のボリュームは対して変わってはいなかったが。

───────────────────

バルバロス邸を後にしたアツミは、足の赴くままに、町の中心部を散策していた。

「(やはり有名な観光地のことだけはある…。こんな時間になっても、観光客で溢れ返ってるなんて…)」

アツミはすれ違う人々の、楽しそうな表情を見比べていた。
大概がグループかカップルで行動している中、1人でいるアツミは妙に浮いていた。しかし、いつの時代にも柄の悪い連中というのは存在する。
アツミはすれ違った大柄の男性とすれ違うときに、肩が軽く触れてしまった。

「いてててててて!!いってぇ!!」

男性はその場に倒れ、肩を押さえてのたうち回った。アツミは今から何が起こるか容易に予想がついた。

「(うわっ、めんどくさそう…)」

アツミが足早にその場を去ろうとしたところ、腕に厳ついタトゥーを施している男性と、スキンヘッドで筋肉質な男性に前方を塞がれた。

「よう、姉ちゃん。お前なんてことをしてくれたんだ?」

タトゥーの男性がアツミに詰め寄った。

「あいつ俺たちの仲間なんだよ。仲間を怪我させられて黙ってるわけにはいかねぇなぁ?」

スキンヘッドの男性がアツミの胸ぐらをつかんだ。アツミは表情1つ変えなかった。

「どう落とし前つけてくれんだ?」

「金が無理なら体でもいいぞ。お前結構いい体してっからよ」

男性2人が卑屈な笑みを浮かべた。

「…あなたたちにお支払するお金なんてありませんし、もちろん夜のお相手をするつもりもありません」

「あっ?生意気言ってんじゃねえぞゴルァァ!!」

胸ぐらをつかんでいたスキンヘッドの男性はアツミに殴りかかろうとした。アツミは胸ぐらをつかんでいた手を持って、体を持ち上げてパンチを回避した。そのまま足を男性の首に絡ませ、地面に叩きつけた。

「こ、こいつ!!」

タトゥーの男性はナイフを取り出してアツミに切りかかった。アツミは素早い動きで両手を地面につき、男性の顎に回転蹴りを放った。タトゥーの男性も地面に倒れた。
アツミは先程ぶつかった男性を睨み付けた。男性は情けない悲鳴をあげながら一目散に逃げ出した。
2人の大男を一瞬のうちに倒したアツミの周りにはいつの間にか野次馬が集まっていた。

「やり過ぎてしまったかな…?」

アツミは伸びている男性たちの顔を見た。

「いや、このくらいが丁度いいでしょう」

アツミは自分に言い聞かせるように言って、足早にその場を去った。













「何?!わかった!すぐに向かおう!」

使用人から連絡を受けたバルバロスは、ハンガーにかけてあった赤色の薄手のコートを手に取った。

「どこに行くんですか?」

コウガはエビのサラダを食べながら言った。

「町中の方で乱闘騒ぎがあったらしくてな!これから様子を見に行ってくる!地元の男連中は海賊出身者が大半で、荒くれ者ばかりだから、こういうことが度々起こるんだ!根はいいやつらだから、仲良くしてくれよ?!」

バルバロスはコートを翻し、屋敷を後にした。

「…海賊か」

ソウマの一言で、その場にいた全員の視線がマツリとカグラに集まった。

「「…えっ?」」

「いや、お前たちの父親はバルバロスと親友なんだろ?」

「ええ、そう聞いてますけど…」

マツリはカグラと目を合わせ、不思議そうな表情をした。そしてソウマの方を向いた。

「まさかとは思うが、海賊だったっていうことはないだろうな?」

「いやいやいやいやいや?!そんなことないですよ?!お父様が元海賊なんて…。ねぇ、姉ちゃん?」

カグラは数回頷いた。

「僕たちが知ってるお父様はそんな人じゃありません!」

マツリはソウマの目をじっと見据えた。

「本気にしなくてもよかったんだが…」

ソウマは少し呆気に取られているようだった。













午後10時半、バルバロスが戻ってこない中、使用人がそろそろ引き取るよう申し出た。一行はそれぞれ宿に戻ることになった。
が…

「姉ちゃん姉ちゃん」

最後に屋敷を出たマツリは前を歩くカグラの肩を叩いた。

「…何?」

「ちょっと一回りしない?」

「…いいけど」

「よし、じゃあ行こう!」

マツリはカグラの手を引いて町中の方に向かっていった。













夜のファボスは禍々しい空がより一層禍々さを増していた。
その中、屋上でエスナはぼんやりとどす黒い空を眺めていた。

「(ここに来てもうすぐ1ヶ月になるのに、未だにこれといった命令がない…。グランゼールは私に何をさせるつもりなんだ…)」

エスナが思いを巡らしていると、サリーが屋上にやって来た。

「ここにいたのね。何をサボっているの?」

「サボってなどいませんよ。まあ、やることがないですからねぇ、あなたの目にはそう見えるかも知れません」

「そう。じゃあ仕事をあげる。ついてきなさい」

サリーはきつい口調でエスナに言い、先に城内に戻っていった。

「やれやれ、どうしていつも上から目線なんでしょうねぇ…」

エスナはため息をつき、その後をついていった。













サリーが案内したのは城の地下だった。明かりも何もなく、真っ暗であった。

「そろそろ仕事の内容を教えてくれませんかねぇ」

エスナは若干苛立っていた。
それに対してサリーは何も答えずに、頭上で指を鳴らした。すると、壁の松明に明かりがいっせいに灯された。

「これは…」

エスナは目の前に広がる光景に、言葉を失った。
無数の骸骨がところ狭しと整列していたからである。

「私の研究成果。今までは肉体が必要だったけど、これからは骨になっても自在に操ることができるわ」

「なるほど…。では以前私が受け取った物は?」

「あれは試作品。まだ完全じゃなかったから、肉体を構築してしまう手間があっただけ」

「手間?一体どういうことなんでしょうねぇ」

「骨だけの状態が色々と都合がいいのよ。それに…」

サリーは近くにいた1体の骸骨を呼び寄せた。サリーはその骸骨の頭蓋骨を殴り飛ばした。
しかし、骸骨は倒れることなく、かつ吹き飛んだ頭蓋骨を探すこともなかった。骸骨はもといた場所に戻っていった。

「ね?」

「なるほど…タフというわけですねぇ」

「そういうこと。それでこの子たちを連れて、あんたたちに行ってもらいたい場所があるの」

サリーはエスナに今後の予定と細かな動きを説明した。