砂漠階層中前編 | アヴァベル×ラノベ

アヴァベル×ラノベ

アヴァベルをラノベにしてみました(`・ω・´)
といっても完全に2次創作に近い感じになってますが(´・ω・`)
念のために言っておきますが、非公式です。

日付が変わった直後、コウガとソウマはまだ戻らないリンを心配して、校舎内に捜索に来ていた。
真夜中の校舎は人気がなく、気味悪いものだと2人は感じていた。
最上階の渡り廊下にリンはいなかった。渡り廊下を抜け、2人は実技棟に向かった。
実技棟の最上階は主に飛び道具系の武器の練習場になっていた。松明が所々に炊かれており、手前にテーブル、30メートル程離れた場所に的がそれぞれ並んでいた。
2人の他には誰もいないはずなのに、どこからか発砲音が聞こえてきた。その正体は角のテーブルでリンが拳銃で的当てをやっていたからである。
2人はリンに近づいていった。

「…ちっくしょー、前々当たんねぇ…」

リンはテーブルの上に拳銃を叩きつけるように置いた。的は全くもって無傷であった。

「ちょっと貸してみろ」

ソウマはその拳銃を手に取った。そして割り込むようにしてテーブルの前に立ち、次々に銃弾を発射していった。銃弾は多少の位置は違えど、全て的の中心に命中した。

「悪くはないがブレがひどいな。所詮は練習用か」

ソウマは拳銃をそっとテーブルの上に置いた。

「リンちゃん、時間が時間だし、そろそろ寝ないと、体持たないよ?」

コウガも拳銃を手に取ってみた。重厚感のある拳銃をまじまじと眺めた。

「布団にもぐったってどうせ今日は眠れねぇよ…」

「気持ちはわからなくもない」

ソウマはコウガの拳銃を取り上げてテーブルの上に置いた。

「むしろ、あの真実を…まだ仮説に過ぎないが…それを知って、悩まない方がおかしい。だが、少しは周りのことも考えてくれ」

「…………」

リンは俯いたまま、言葉を発することはなかった。

「仮にもお前のような、年頃の女が夜中に1人でうろついていたら危ないだろ。それに、ここは治安がとても悪いらしい。カナエは風呂を覗かれそうになったって言ってたしな」

「…おいコウガ、お前の仕業じゃねぇだろうな?」

リンはコウガを睨み付けた。

「見ないよ…。そんなことしたら半殺しじゃ済まないからさ…」

コウガは首を振って否定した。

「とにかくさ、もう1度サキちゃんとか、保険の先生から話を聞こうよ。俺たちも一緒に行くから。今日はとにかく寝よう」

コウガはリンの手を取り、渡り廊下の方に向かって歩き出した。ソウマは松明を消してから後に続いた。

渡り廊下の真ん中に差し掛かったとき、3人は学習棟の方からしてくる物音に気づいた。3人はその正体を探ることにした。
真っ暗な廊下を足音をたてずに進むと、真ん中の教室から音がしていることを発見した。3人は開いているドアから中の様子を覗きこんだ。
数名の人物が何かを手に取り、口元に持っていっているようだった。

「タバコ?」

コウガは極力小さな声で2人に話しかけた。

「いや、違うな」

ソウマも声のボリュームをコウガに合わせた。

「タバコなら火がついているはずだ。だが、見てみろ」

ソウマは指で闇に蠢く人物を指差した。人物の周りからは明るい点等は見当たらなかった。

「じゃあ、何だって言うんだよ」

リンは声の大きさを考えずにソウマに聞いた。
コウガとソウマが「あっ!」って思った瞬間、3人の存在がその人物たちにバレてしまった。

「やべぇ!逃げろ!」

男子学生の一声で、数名の学生が蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

「…もっと考えて行動しろ、リン」

ソウマはリンの頭をグーで軽く叩いた。

「ういっす…」

コウガは小光球を生み出して、辺りを照らした。その明かりを頼りに、3人は教室に入っていった。

「…やはりな。タバコじゃなかった」

窓辺にの位置にある机の上に置かれた緑色色の粉末を見て、ソウマは確信を得た。

「ん?」

ソウマはその隣に乱雑に置かれていた葉っぱを見て疑問を覚えた。

「これは…」

その他に、すり鉢やガラスパイプが見つかった。

「まさか…」

コウガはやれやれといった表情で呟いた。

「全く…、仮にもお坊っちゃまお嬢様の身分の人がこんなことしていいのかな…」

リンは2人が何のことを言ってるかわからず、首をかしげるだけだった。

「おい、どういうことだよ?」

「タバコよりもっとたちが悪いやつを吸っていた」

ソウマは葉を掴み上げ、月明かりに照らした。

「こいつは恐らく大麻草だ。まさかここまで腐りきってたとはな…」

ソウマは大麻草を机の上に置いた。

「流石にこれは放っておけない。奴らを探すぞ」

ソウマはすり鉢とガラスパイプを窓の外に投げ、拳銃で撃ち抜いた。













その頃、大麻を吸っていた学生たちは校庭にまで逃げていた。
安心感を覚え、悠々と校庭のど真ん中を歩いていると、突然、辺りに地響きが鳴り響いた。しかし、それはほんの一瞬のことで、学生たちは何事もなかったかのように寮に向かっていった。

「何だったんだ?」

「さあ?早く帰ろうよ。大騒ぎになる前に」

「そうね。じゃあ、おやすみー」

「おやすみなさーい」

彼らは知らなかった。彼らの背後で蠢く、とても巨大なサソリが尻尾の毒針を振り上げていることを。













朝、4人の学生の死体が発見された。4人の内2人が首を鋭利な刃物のような物で切断されており、残る2人が胸を極太の槍のようなもので貫かれていた。
この事実はすぐに学園内に行き渡った。そして、今日の授業は中止、学生は皆、寮で待機ということになった。

「大麻を吸った学生がサソリに殺された…か。言い方は悪いけど自業自得ね」

夜中、一連のやり取りを実技棟の屋根の上で観察していたアツミは、宿泊棟の個室の窓から、朝日に照らされる校庭を眺めながら言った。

「だけど、大麻なんて…一体どこから…」

その時、アツミの背後で緑の霧が発生した。霧が消えると、ローブのフードを被ったサリーが姿を表した。

「久々に母校を訪れた気分はどう?」

「そうですね…。相変わらずというか…情けないというか…」

アツミは、夜中から今朝までの流れをサリーに説明した。

「ふーん…。大麻…ねぇ…」

「いくら親が権力者だからといって、そのような代物が手に入るでしょうか?」

「あら、いくらでもルートはあるわよ?そうね…私だったら研究のため、とでも誤魔化せば簡単に入手できるわ」

サリーはアツミと並んで校庭を眺めた。

「もしくは、どこかで育ててるとか」

「育ててる…ですか…。そうだとしたら探し出さないと…」

「勝手にするといいわ。私は止めないから」

サリーは左手から緑の霧を放出した。

「あ、後、そろそろリグルがソルレインを見つける頃だと思うわ。それじゃあね」

サリーは緑の霧に体を包み込ませ、その場から消えた。

「…もう一眠りしようかな…」

アツミは布団に転がって目を閉じた。













その頃、リグルは廃墟と化したソルレインの屋敷に足を踏み入れていた。

「残るはここだけだ。慎重に探さないとな…っと」

リグルは足元に転がる瓦礫につまずきそうになった。

「ふぅ、危ねぇ危ねぇ」

リグルは慎重に進んでいった。
中庭に出ると、雪の中に破壊されたオブジェを見つけた。

「あーあー…なんじゃこりゃ。結構固そうなやつじゃないのか?これは」

リグルがオブジェに触れたその時、ジャケットのポケットに入れた、サリーからもらった薬が輝き出した。

「何だ?」

リグルはそれを取り出した。

「熱っ!!」

それは火傷するほどの熱さになっており、リグルはすぐさま薬が入った小瓶を地面に投げ捨て、反対側の手から魔法で産み出した流水をかけた。
雪の上に落とされた小瓶は、周囲の雪をあっという間に溶かした。そして蓋が一人でに開き、ぐにゅぐにゅと気持ち悪い音をたてながら中身が飛び出してきた。

「スライムかこいつは…?」

まるで意思を持った生き物のように、薬はオブジェに近づいて行った。オブジェの前で動きを止めた。
一瞬の静寂の後、薬は人間の形を整形していった。

「…なるほどな。サリーの奴、ここまでやるか…」

リグルとほぼ同じ背丈になった人形は、緑色から、透き通るような色白の肌色になり、ゆっくりと目を開いた。

「よう」

リグルは軽く挨拶した。

「…誰だ。俺はなぜこの場所にいる」

ソルレインは低く、はっきりとしない声でリグルに向けて言った。

「まあまあ、難しい話は後だ。とりあえずついてこい」

リグルは魔方陣をソルレインと自身の足元に発生させ、サリーの研究室にワープしていった。

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サリーが研究室に戻るタイミングと、ソルレインを連れたリグルが戻ってくるタイミングが同じだった。

「連れてきたぜ。こいつでよかったんだろ?」

リグルはまだ意識がハッキリとしていないソルレインをサリーの前に突き出した。

「そうよ。よくわかったわね」

「お前は…確かサリー」

ソルレインはぼんやりとした意識の中でサリーの姿を認識した。

「俺は死んだはず…。なぜこんな場所にいるんだ…」

「説明してあげる。とりあえずはこれを着ておきなさい」

サリーは白のシャツと黒の長ズボン、銀色のジャケットを渡した。
ソルレインが着替えている途中、エスナが奥から姿を表した。

「おや、また新しいお仲間ですか。全く、1度死んだ者を蘇らせて、サリーは一体何を考えているんでしょうねぇ…」

エスナは自嘲気味に笑みを浮かべた。

「近いうちにわかるわ。さて、ソルレイン」

サリーはソルレインの方を向き直した。

「あんたの肉体は既に消滅したって報告を受けているわ。今のあんたは魂が宿った人形。少し違うけど、そこのエスナみたいに」

エスナはソルレインに向かってお辞儀をした。

「俺が…人形…。ふざけるな!!」

ソルレインはすぐそばにあった机を蹴り飛ばして、怒りを露にした。

「全然説明になってないぞ!いきなりこんな場所につれてこられて、訳もわからないうちに人を人形呼ばわりだぁ?!」

激怒するソルレインと対照的に、サリーは冷ややかな視線を送っていた。

「何か言ったらどうなんだ!!」

ソルレインは怒りに身を任せ、拳を振り上げた。

「…あんたバカね」

サリーは左手を突き出し、紫の波動を出した。波動を浴びたソルレインはたちまち元のスライム状の固まりに変わってしまった。

「な、何だこれは?!」

スライム状になったソルレインは何が起こったかわからず狼狽えているようだった。

「はなっから説明する気なんてないわ。あんたはここから出られない。今度また怪しい様子を見せたら…」

サリーは爪先で足元に転がるスライムをつついた。

「踏み潰すわよ」

サリーは再び紫の波動をスライムに浴びせた。スライムはソルレインへと変化した。

「エスナ、この際だから言っておくわ。あんたも妙な動きを見せたら、死体に逆戻りよ。いい?」

「わかってますよ。あなたに歯向かうにはリスクが大きすぎますからねぇ…」

この2人のやり取りをソルレインは悔しそうに睨み付けていた。
ソルレインの心情を察したリグルは1人考えていた。

「(ほほう…。こりゃ遅かれ早かれ一波乱起こるな…。まあ、何が起こっても俺は知らないけど…)」













昼、コウガは1人で4人の学生が殺された現場を訪れていた。遺体は既に片付けられていたが、生々しい血痕が残っていた。

「前にも似たようなことあったね…確か…」

コウガは雪山で起こった事件を思い出していた。

「まさか助かったかもしれない人間と遭遇するなんてね…」

コウガは宿泊棟に戻ろうと振り返ったとき、怪訝な顔をしたカナエがそこに立っていた。

「カナエちゃん…どうしたの、そんな顔して?」

「ちょっと…ね…」

カナエはコウガの横に並んで、血痕を眺めた。

「聞きたいことがあるの」

「何?」

「あんた、個人的にあの鞭使いの女と合ってるでしょ」

カナエのストレート過ぎる質問に、コウガはドキッとした。

「…さあ、何のことかな?」

コウガは咄嗟に知らない振りをした。

「惚けないで」

カナエは真剣な目でコウガを見つめた。

「昨日お風呂に浸かってるときに、その人に合ったわ。世間話…って訳じゃないけど、その人が話したことと、あんたが昨日話した内容が似すぎてるのよ」

「…………仕方ないか」

コウガはやれやれとポーズをとって、ため息をついた。

「何度か合ったことあるよ。全部向こうからのアプローチだったけどね」

「やっぱり…」

「だけど、いずれは折を見て打ち明けるつもりだったんだけどね。いやー、カナエちゃんは鋭いなー」

コウガは苦笑いをして後頭部を掻いた。しかし、カナエの無言の圧力によってコウガは真面目に話すことにした。

「…彼女が他の幹部と同じならヒョコヒョコ近づいていかないよ。あの人は何かが違うんだ。カナエちゃん程じゃないけど、人を見る目はあると思ってるから」

「違うって…何が違うのよ」

「何て言うのかな…。グランゼールに対する忠誠心っていうの?あれがちょっと異質な感じがするんだ」

カナエは黙ってコウガの話を聞いていた。

「他の幹部…少なくともサリーは心からグランゼールを尊敬し、彼のために行動をしている。だけど彼女はどっちかって言うと自分のために行動をしてる気がするんだ。でなきゃ、俺やカナエちゃんに個人的に接触してこないでしょ」

「それは…そうかもしれないけど…仮にもあの女はファボスの幹部よ?何が裏があるとしか思えないわ」

カナエは視線を落とした。

「どっちにしろ、あんたがスパイとかそんなんじゃなけりゃいいの。だから、今後、極力会わないで欲しいわ。変な疑いかけられたくないでしょ?」

「うん、まあね」

「もし会ったなら私に教えて。私もあんたに教えるから」

「わかった」

コウガは深く頷いた。

「…で、さっきから俺たちのことを見てる人がいるんだよなぁ」

コウガは視線を上げた。正面の寮の最上階の窓から、サキが2人の様子を見ていた。
サキはコウガが自分の方を向いたことに気がついたのか、軽く頭を下げた。

「あの子は…昨日リンと戦った子…よね?」

カナエは顔だけをコウガの方に向け、確認をした。

「そうだよ。あっ、そういえばサキちゃんに聞きたいことあったんだ」

2人は寮の方に近づいて行った。それを見たサキは急いで1階まで降り、玄関から2人を出迎えた。

「こんにちは」

昨日の運動着や制服とは違い、半袖シャツと短パンを来ているサキは、礼儀正しく頭を下げた。

「こんにちは、サキちゃん」

コウガは軽く手を上げて挨拶をした。

「具合はどう?」

「おかげさまですっかり良くなりました。リンさんは今どこにいらっしゃいますか?」

「リンちゃん?多分まだ寝てると思うけど…。連れてこようか?」

「あ、いえ、お休みのところを邪魔するなんてとんでもないです」

サキの礼儀正しさにカナエは感心していた。

「(さすがお嬢様って感じね…)」

カナエはコウガと話しているサキに声をかけた。

「あなたしっかりしてるわね。何か私たちが年下に思えちゃう」

カナエは苦笑いを浮かべた。

「そんな、滅相もございません。私は家で教えられたことを忠実に守っているだけですよ」

「へぇー、そうなんだ。結構いいところのお嬢様でしょ?」

「そんなことありません。ただメイド25人、執事40人は常に150部屋しかない屋敷の中にいて、山を2つ所有しているだけです」

「想像以上だった…」

顔をひきつらせて呟くコウガと対照的に、カナエの反応は薄かった。

「ここに通ってる学生はみんなこんな感じ?」

カナエはコウガを放っておいて、話を進めた。

「というわけでもありません。小さな村の地主の子供だったり、大国の王子様だったり、様々です。私は真ん中より上っていう感じです」

「(あれで中の上って…)」

コウガは既に話についていけてなかった。

「(それだけの身分や地位を持ちながら、大麻とか使うなんて…)」

コウガはなんとなくサキの顔を見つめて考え込んでいた。

「(まさか…サキちゃんも…。そんなわけないよね…)」

コウガは話を本題に切り替えて、話を終わらせようとした。

「ところでさサキちゃん、小さい頃手術とか受けたりしてない?」

サキの顔が一瞬にして暗くなったのを、コウガは見逃さなかった。

「手術ですか?…あれを手術と呼べるのなら…あります」

コウガはその独特の言い回しが気になった。カナエはコウガの質問の意図がわからず、困惑していた。

「ちょっと、いきなりどうしたのよ?」

「理由は後で説明するよ」

コウガはサキの方を向き直した。

「話しづらいかな…。嫌だったらいいんだ」

「いえ…大丈夫です…。ただ、場所を変えてもいいですか?」

サキは2人を連れて実技棟に入っていった。昨日、リンと模擬戦を行った場所である。
サキは2人に背を向けて重たい口を開いた。

「…私が7歳の時です。心臓に先天性の疾患を患っていた私は、治癒魔法等ではどうにもできず、早急に心臓移植が必要な状態でした。その手術も、合法ルートでは不可能でした。そのため、父はやむを得ず闇ルートで手術が行える医者を見つけた、と仰っています」

コウガとカナエは真剣な顔でサキの話を聞いていた。

「手術が決まったとき、本当は嬉しいはずなのに、両親の複雑な表情は今でも忘れられません。子供だった私は、その時は何で父と母は素直に喜ばない理由がわかりませんでした。しかし、すぐにわかりました」

サキは一呼吸置いて話を続けた。

「特殊な花を嗅がされ、意識が飛ぼうとしている中、子供の悲鳴が聞こえました。私の目の前で、私と同じくらいの年の子が殺されてました…」

3人の間に沈黙が訪れた。その沈黙をサキ自ら破った。

「私の心臓がその子の物だと思うと…」

「…サキちゃん、関係者にソルレインっていう男はいる?」

コウガは俯いているサキの背中に話しかけた。

「わかりません…。ただ、銀髪の男が手術の様子を見学していた、と、うかがっております」

カナエは「銀髪の男」というフレーズに反応を示した。

「その人、多分ソルレインだわ」

コウガとカナエは顔を見合わせ、お互いの複雑な表情を一瞬見た。

「やっぱりそうか…」

「やっぱりって?」

「昨日サキちゃんが倒れたとき、保健の先生から色々と聞いたんだ。それで、もしかしたら…って思ってね」

サキは胸を押さえてその場に膝をついた。2人はサキに駆け寄った。

「サキちゃん、大丈夫?」

コウガが声をかけると、サキは苦しそうな表情でコウガの顔を見た。

「大丈夫です…。いつもの…ことですから…」

サキはふらつきながら立ち上がると、2人に向かって頭を下げた。

「失礼します」

サキは今にも倒れそうだったが、実技棟を後にした。残された2人の間に交わされる言葉はなかった。













深夜、大サソリによる凶行は続いた。
校庭の隅で女子学生に性的暴行を加えようとした3人の男子学生が、1人は毒針による刺殺、残る2人は鋏により斬殺された。女子学生は無事だった。
直後、校門近くで男子学生を集団でいじめていた男女合わせて6名の学生が、ボディプレスで圧殺されていた。こちらも、被害者の男子学生は無事だった。
大サソリは学生を殺害したあと、煌々と輝く三日月に向かって咆哮をし、素早く砂の中に潜っていった。

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「おお…なんとむごい…」

早朝、ユキミチは校門の現場を訪れていた。血痕や体液、さらには肉片や内蔵などが辺り一面に飛び散っており、一行の中で最年長であるユキミチでさえも言葉を失うほどの光景であった。

「昨日に続いて今日もか…。一体誰が…」

表情に嫌悪感がにじみ出ているソウマは腕を組んだ。

「連れてきました!」

そこに、とある男子生徒を連れて、マツリが現れた。男子学生は若干怯えている様だった。

「そなたが目撃者でございますか?」

ユキミチが話しかけると、男子学生は挙動不審そうに数回頷いた。

「では、ゆっくりで構いませんので、何が起こったか私たちに教えていただけませんか?」

男子学生は夜中、目の前で起こったことをユキミチたちに話し始めた。













同時刻、校庭の隅ではカナエとカグラが、難を逃れた女子学生から話を聞いていた。その間、コウガとリンは乾いた砂に染み込んだ鮮血を不気味そうに眺めていた。

「よくも2日連続でやってくれたな…!」

リンは正体不明の殺人者に向けて怒りを露にした。

「目的がどうであれ、許されることじゃないよね…!」

口ではこう言っているが、どこかコウガの表情は安心感が含まれていた。

「(けど…これでリンちゃんの気が反れてくれるなら…)」

コウガは、怒りのあまり寮の外壁を拳で凹ませているリンを横目でチラ見した。

「(いや…こんなこと考えるのはよそう…)」

コウガは考えを打ち消すように首を横に振った。
それと同時に、カナエとカグラがコウガとリンに駆け寄ってきた。

「カナエちゃん、カグラちゃん、何かわかった?」

「わかったも何もビックリよ」

カナエは女子学生から聞いたことを2人に話した。

「そんなことが…」

カナエから襲撃者の正体等を聞いたコウガは、簡単に言葉が出なかった。

「何でもいい!その大サソリをさっさとぶちのめそうぜ!!」

対照的にリンは戦う気満々である。

「…何でそのサソリは悪いことしてた人ばかりを狙ったんでしょうか?」

カグラがリンを放っておいて、コウガとカナエに疑問を投げかけた。

「確かに気になるわね…。単純に考えれば悪人に裁きを下したってなるけど…」

「何か裏がありそうな感じだね…。言葉が通じるなら目的、聞く価値はありそうだよ」













昼、食事を済ませたコウガは宿泊棟の部屋で横になっていた。ソウマは大サソリの捜索に出かけ、リンは目的も告げずにどこかに消えていた。

「(そういえば…大麻草の出所も探さなくちゃいけないんだった…。やることたくさんあるなぁ…)」

あれこれと考えを巡らしていくうちに、コウガは寝息をたて始めていた。