自分は誰かの腹で育ち、生まれてきた誰かの息子。
「いつき」。その人は、愛されているのだろうか。
俯いた。
----------ひろき、お前は長男なんだ。いつか海森家を継ぐんだ-------
いつかから変わった父親。昔はもっと、大きい人だったのかもしれない。
力強く抱き締めてくる腕。
----------お前の名前はな、もともと「そら」だったんだ-------------
「宙来」だったんだろ、もとは。
-----------空の青さが、羨ましくなってこないかい-------------
どうして?
-----------我々は海の中で暮らすことは出来ない--------
人魚姫って美人な風によく書かれてるけど、ホントはもの凄くコワイんでしょ。
だってずっと水の中にいられるよう適した肉体ってそうなんでしょ?
-----------ひろき、お前は他人より知りすぎてしまっている-------------
他人なんてどうだっていいんだよ。人の悲しみをわかちあってたら、キリがないだろ。
人間って言うのは、人の不幸が好きなんだよ。
-----------本当に、そう思うかい?父さんはそうは思わない---------
どうして?
----------いつか、ひろきにも分かる日が来る。いつかきっと、ひろきを守ってくれる、好きでいてくれる人に出会える----------------
オレはそんなの、要らないよ。
だって父さんがいるじゃん。母さんだって。祭音だって・・・・・
-----------大人になったらね、きっとひろきは父さん達を捨てるんだ。そういうものなんだ------------
そんなの、信じない。オレは違う。
-----------ひろきにもきっと、父さん達より大切な人が見つかる。そんじゃなければならないんだ---------
オトナのクセに、悲しいこと言うなよ、みっともない。
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「いつき・・・・・会いたい・・・・・・・」
悲しげな声。会わせてやりたい。
「いつき、死なないで・・・・・・・・・・」
「オレは、いつきじゃないです」
何故だろう。酷く胸が痛んだ