児童相談所に入所した当日、先生たちに連れられ、所内を連れ回され、色々な検査をされたのであるが、それが何であったのか、当時の私には理解出来なかった。
漸く、これから寝泊まりする棟に連れて行かれると、そこには男女合わせ20数名の子どもたちが物珍しそうに私を出迎えてくれた。
本来、人見知りの激しい私であったが、新入りの私に対して誰彼となく質問責めに合い、それに答えて行くうちに、打ち解けて行った。
しかし、何気ない話しをしている最中に、私の背丈よりも倍以上あろう上級生の高橋(仮名)が、(私自身が幼稚園児みたいな背丈であったので、本当の所は分からない。)私に向かい、
「お前、チョン(朝鮮人)の臭いがするばってんが、チョンか?!臭かけん、寄るな。」と、言われたのに、憤りを覚えた。
まるで父親が私に良く言っていた、「あいつら・・」と言う言葉と被って聞こえたのである。
私は反射的に身構え、睨んでいると、いきなり拳で殴つけられた。
幸か不幸か、父親からの虐待で殴られることには慣れている私には、全く恐怖は感じはせず、かと言って殴り返す勇気のない私は、何度殴られてもただ、ひたすら睨み続けていた。
数分くらい過ぎた頃だろう。
男の先生が来て分けて入ってくれ、引き離され、私に事情を聞こうとするが、なぜ殴られなければならないのか意味不明であり、それよりも、殴って来た相手に凄く憤りを感じていた。
「キサン(お前)が何回殴っても痛くなかばい。今度来たらやるけんね!」と、高橋に怒鳴り付けたのである。
「今度来たらやるけん。」 その言葉の意味が分かっていた訳ではない。
父親が、良く口にしていたことを言っただけなのだが、先生から注意を受け、「正座しちょけ!」と、板張りの廊下で正座させられた。
なぜ、正座させられるのかが全く分からず、「おかしな所ばい。」と、思っていると、若い女の先生が小走りに私の所へ来て座り込み、「あなたは何も悪くなかったんやね。みんなの所へ行って遊びなさい。」と、言われたのだが、益々、私の頭のなかは混乱した。
後から聞くと、他の児童から事情を聞いたというのだが、何で正座させられていたのかが分からずにいた。