この会社でバイトを始めて間も無く、Kという男が話し掛けて来て仲良くなった。
この男、新者好き?で普通は接点の無い部署の者とも喋っている、新しい顔には積極的に話し掛けていく、所謂「いい奴」。休憩に行くとKが喋っていたのが徳弘。名前を知ったのは「シェイプアップ乱」連載してからだけどね。
デビュー前やヒット作の無い漫画家の、赤の他人への第一声は
「どんな漫画読みたいですか?」だ。どの位の人がこの言葉を聞いているか知らないが、俺が漫画関係者以外で最も多くこの言葉を聴いた人間だろう。人生で10人を越えるデビュー前の漫画家と話をするなんて、しかもその漫画家が殆ど成功しているなんて、奇跡としか言いようが無い。尾田ひとりと知り合いだと言っても信じる者は少ないのに、全部書いたら余計信じてもらえないのはわかっているが、事実を書かなければ会う事は叶わないだろう。書きたくない事、書けないと思う事は書かないが、それ以外は事実を書く事しか俺に出来る事は何も無い・・・
デビュー前の名乗りもしない漫画家と、1・2度話しただけの話を覚えている者は少ないだろう。
実際、会社に現在いる者に訊いても漫画家がいたと知ってる者はいなかった。俺が僅かな喋りでも覚えているのは、俺がSF作家志望で、才能の欠片も無く、キャラ作り・ネーミング・設定・構成・・・独学で足掻くしかなかった俺の副産物だろう。小説だけでなく漫画も教材にしていたし・・・
物語を作るのに1番必要なのが、物語を作る切っ掛けになる「アイディア」だ。キャラだったりセリフだったり様々だが、それがあれば物語は作れる。今、原案は軽視されている。漫画家の中に原案者を気にかけている者は皆無だろう。物語を作るという事は発明と同じだ。1%の閃きと99%の努力なんて馬鹿論が罷り通っているが、これは時間の比喩でしかない。重要度と時間の長さは一致しない。何も無いところにアイディアは生まれない。そこまで詰込んできた知識と経験が無ければ生まれないものだからだ。声を残したいという発想(連載への渇望)から想い続けた事で蓄音機の発想(作品のキャラ等)を得て試作を重ねて蓄音機という製品(連載)が誕生する。閃き自体は一瞬でも、決して閃きは一瞬では生まれないものだと知ってほしいものだ。
Kはこの時の事、覚えてないだろうな・・・少なくとも、漫画家志望がいた事は覚えている筈だが・・・もうひとり、ガモウひろしとも喋っていたから・・・・・