病弱な智と生まれながら視力が悪い俺は徴兵される事もなく二人、田舎町に暮らしていた。
年頃の若い男が戦争にも行かずに呑気に絵を描いて遊んでいると村人が噂していた。
「気にするなって、和。みんないつまでも終わらない戦争に苛立ってるだけだって。」
優しい智はそう言いながらいつも笑っていた。俺はまだしも智は画家としても認められてきたとこだったのに。
「だったら、戦争が終わったら俺頑張って絵描いて日本の為に役に立つって。な?」
いつまでもムスッとしている俺に智は優しく宥めてくれる。そうだよな……今は戦時中。みんな少しおかしくなっている。
いつの日か、平和な世の中になったら智はいっぱい絵を描いて人々を幸せな気持ちにさせる事が出来るんだ。
「うん、わかった。もう少しの辛抱だよね。」
「んふふ、その時は和もしっかり手伝ってくれよな。」
優しく俺を包み込んでくれるその腕はすっかりと痩せ細っていた。智が描いた絵を売り細々と暮らしてきたが、食べ物がなかなか手に入らなくなってきた。
それでなくとも良く思われていない俺たちに売ってくれる業者はなかなかいない。いたとしても通常よりも高値を要求されてしまう。
でも、今は我慢だ。智と二人で乗り越えるんだ。
「なぁ、和……俺は和さえいてくれたらそれで良いんだ。ずっと一緒に居ような。」
「ふふ、俺が居ないと智は何にも出来ないしね?」
智の言葉がちょっと照れ臭くて誤魔化して視線を泳がせた。
「ったく、素直じゃねぇなぁ……和、こっち向けって。」
グイッと俺の顎を掴んで正面を向けられた。智の瞳は真っ直ぐに俺を捉えている。
「わ、わかったって……ずっと一緒にいるから……」
「なぁ、和……戦争が終わったら旅に出ないか?絵を描きかながら日本中を旅してぇ。」
「へぇ、良いんじゃない?素敵な絵が描けそうだね。」
「ああ。で、和に旨いモノ食わせてやる。」
「旨いモノって、俺あんまり食えないよ。」
「いいんだよ。腹壊したって食え。」
「なにそれ?嫌だよ、お腹壊すなんて。」
「食わせてやりたいんだよ。和にはずっと我慢させてるからな。栄養とれよ。」
栄養って……自分の方が痩せちゃってるのに……
智はいつも俺の事を1番に考えてくれている。でもね……俺だって智が1番なんだよ。
だから智にいっぱい栄養あるモノ食べさせてやりたい。
「わかった。二人でお腹壊すまで食べよう!」
「あはは、なんだそりゃあ!」
こんな戦い、いつか必ず終わって平和な時代は来る。
そして智と二人で日本中……ううん、世界中を旅するんだ。
そんな時代が必ず来ると信じている。
「あっ、智見て!綺麗な茜雲だよ!」
「おっ、ほんとだぁ……綺麗だなぁ……」
二人で見上げる空は美しくて……
俺たちの未来はきっとあの空の向こうに続いてる
いつかあの空の向こうへ……
終