こないだ入った中華料理屋でのランチのこと。
いつもオレがオーダーするのはラーメンセット。
5種類のラーメンと5種類のご飯ものを
組み合わせられる、よくあるやつだ。
その日も、こうオーダーした。
「マーボー飯 と 台湾ラーメン」。
隣のテーブルに、若い男性が座ってた。年のころは二十歳くらいか。
彼は言った。
「チャーハンください」。
中国人のウェイトレスとオレが聞く耳を立てているにもかかわらず
だが、彼はその次を言い放たない。
二の句が告げないほど、ラーメン選びに迷っているのか。
もう一個のラーメンものをオーダーしない彼の元へ、時は流れ、やがてチャーハンが
運ばれてきた。
店内にはレンゲが皿にあたる「カッカッ」という音がこだまし
口いっぱいに含んだチャーハンを流し込むべく、熱々のスープで喉を鳴らす音も聞こえる。
‥‥‥‥。完食しちゃったよ、彼。
そうだ。
彼はきっと、飯は飯、ラーメンはラーメンで食べる派なのだ。
オレと中国人は、そう思いを巡らせては共に安堵の表情を浮かべた。
やがて彼の右手が天を指差した。
彼はなにを頼むんだろう、とんこつか醤油か、オレと同じ台湾か?
「天津飯ください」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
さっきチャーハンを平らげた彼は、間違いなく言った。
オレが食べていた台湾ラーメンの丼は宙を舞い
ウェイトレスは自らの聞き間違いかと、目を通すのは来日以来2度目になるであろう
日本語ガイドブックを引っ張り出した。
厨房では、静かに中国人のコックがフライパンを温めはじめた‥。
彼が最後に天津飯と叫んだことにより、前もって食されたチャーハンは『おかず』へと
なり下がった。
それとも、後で食べられた天津飯が『おかず』に値するのだろうか。
彼は天津飯をかきこむと、オレよりも早く席を立っては
堂々とした面持ちで「ラーメンセット 750円」を支払って店を後にした。
昼時だけれど客の入りがみょうに少ない中華料理屋では
飯ものを2度続けて食うのがジャパニーズ・スタイルなのね、と言いたげな中国人女性と
「値段はそのままでいいから、ラーメンセットじゃなくご飯セットだろ!」と
突っ込むオレだけが取り残された。
厨房ではコックが、さっき使ったフライパンを洗い始めた‥‥。