それから、何事もなく、
幼稚園の夏祭りやバザー、運動会と、
行事が続いていた。
娘には、幼稚園を変わったので、
たったの一年かもしれないが、
一年とは思えないほど、
よく馴染んでいたし、
楽しかったと思う。
わたしは、バザーの係で知り合った、
男の子のお母さんとも、
仲良くなった。
ある日、そのうちのひとりのお母さんから、
「相談したいことがあるんだけど…」
「飲みに行かない?」
と、誘われて、
わたしは、彼に週末娘を預けて、
飲みに行った。
わたしは、昔からよく人に相談をされる。
困っている人が、必ず近付いて来る。
最初は、こちらが友達と思っていても、
その問題が解決すると、去る。
と、いうことが、しばしばあった。
(この謎の現象も理由も、後々今のわたしの仕事に繋がっていくのだが…)
正直なところ、
このお母さんは、
ただの相談相手として、
こちらに近付いて来たのではなく、
なにかしらある人かもしれないなと思って、
日頃から、距離を取って警戒していた。
案の定、
不倫の相談だった。
不倫といっても、
彼女ではなく、彼女の夫についての相談だ。
わたしは、延々と話す彼女の愚痴に、
付き合った。
(きっと、話しを聞いてもらいたいのだろう)
しかし、話しは、
それだけでは、終わらなかった。
本題は、ここからだったのだ。
よもや、この最終話こそ、
わたしが日頃から、
彼女に対して違和感を感じていたことや、
彼女がわたしに言いたかったことだと、
わたしは、ようやくここで理解が出来た。
「ねぇ、〇〇って知ってる?」
知らない。
「わたしも入ってるの」
「ねぇ、入らない?」
えー、入らないよ。
「えっ、どうして?どうして入らないの?」
「わたしの悩み聞いてくれたでしょ」
「わたしみたいに悩んでても、入ったらいいことあるよ」
…。
「入ろうよー」
宗教の勧誘であった。
興味ないから。
と、言ったのだが、
全く聞き入れてもらえないのだ。
あまりにしつこいので、
わたしは、
そういうのキライだから!
入らないよ。
と、言ってしまった。
ここで、誤解のないように言っておくが、
わたしは宗教自体を否定するものはない。
個人がなにかを信仰して、
気持ちが落ち着くとか、
幸せな気持ちになるならば、
それは個人の自由だから、
むしろいいことだと思う。
しかしながら、
それに入る入らないは、
こちら側にも、個人の自由がある。
ここでいうところの、
わたしがキライと言ったのは、
勧誘の仕方そのものにある。
あれはわたしが小学校の頃、
またまた昔に遡ってしまうのだが、
たいして仲良くもないクラスの女の子から、
突然家に電話がかかって来た。
こんにちは〜
なにか用あるの?
と、聞くと、
「ねえねえ、お父さんとかお母さん、どこの政党?」
と、聞くのだ。
「もし決まってないなら、絶対〇〇に入れてね!」
と、わたしに言うのである。
選挙か…
わたしは、驚いた。
聞くと、彼女は、
クラスの名簿ひとりひとりに、
今電話を掛けているのだと、言う。
(えっ、小学6年だというのに…)
(なんで親が直接うちの親にかけて来ないんだろ?)
(こういうこと親に頼まれてやってんのかな…)
と、いきなり嫌悪感が走った。
電話を切ったあと、父親に言うと、
「あー、〇〇だろ、勧誘だよ」
と、言う。
けど、彼女まだ子どもだよ?
と、不思議そうに言うと、
父親は、
「そういうものなんだ」
と、そのとき答えていた。
そのずっと後だが、
今度は、わたしの兄が、勧誘された。
兄には発達障害があったのだが、
大人になって就職もして、
社会人として日常生活に問題はなかった。
しかしながら、
世の中にはいろいろな人がいて、
社会にはいろんな事情があるということを、
考えるのが難しかったんだと思う。
そういったことをよく知らなかったと言えば、
それまでだ。
バスでいつも会うその人に言われるまま、
勧誘だとは知らずに、
家まで行ってしまった経緯がある。
その人とは、ある団体の幹部だったのだ。
バスで何回か会ううちに、
話しかけられて、
世間話をしているあいだに、
日常の悩みを聞いてもらっていたらしい。
兄は自分に親切にしてくれるので、
なんの疑いもなく、
よく知らないその人に、
ついて行ってしまったのだ。
入会する前だったので、
親が立ち入り、
なんとか断ることが出来たのだが、
そこに何時間も拘束されて、
何人かで説得されたらしい。
過去にこういったことがあったので、
わたしは、常にイメージが悪い。
話しを元に戻すが、
すると彼女は、一瞬で顔色が変わった。
「そうなんだー、キライなんだね」
「あーあー、だったら、不倫の話しなんてしなきゃ良かった!」
「こっちだって、人に知られたくないことわざわざ話してるのに…」
「こういう話ししたら、入ってくれるかと思った」
と、言ったのである。
(そうか…それが手法なんだ)
(身の上話しか…)
(彼女嘘つきだ、彼女の夫、不倫なんてしてないわ)
と、直感的に、分かった。
それから、お開きにして、
何事もなかったかのごとく、
彼女と別れた。
その後、園で会っても、
普通に話して来る彼女を見て、
(あー、幼稚園もひとつの社会かー)
(人付き合いって大変だなぁ)
(ママ友って、なんなんだろう…)
(またひとつ勉強になったな…)
と、思ったのだった。
と、同時に、わたしは、
そろそろ外で働きたいなぁ…
と、思い始めていた。
Keiko
つづく
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