実は最近…白髪が増えてきた。
うちの家系は薄くならない。
父親はすでに他界しているが、
白髪のオールバックでロバート・デ・ニーロばりの苦みばしった顔で渋かった。
僕は子供の頃から父が大好きだった。
小さい時には海外への技術指導とかで、ほとんど一緒にいたことはなく、
日本に帰ってきても休日も関係なく仕事に出かけ…遊んでもらった記憶なんてない。
でも大好きだった。
 
朝、目が覚めるとリビングには、
すでに身支度をした父親がタバコに火をつけコーヒーを飲んでいて、
僕の顔を見ると、ニコッとして「おはよう」と声をかけてくれた。
朝起きて最初に目にするその姿からしてカッコよかった。
たいそうモテたらしいが、浮気一つしなかった。
「男はなあ…モテなくてもイイ。一生に一人だけ愛せる人を見つければイイんだぞ」
…と、ガキんちょの僕に話してくれた。
まあ、母に言わせると、「そういうコトに疎くて鈍感なのよ」というコトらしいが…。
僕がコーヒーが好きでタバコを吸うようになったのは全て父親への憧れから来たものだった。
 
その記憶は、先日の手術後の錯乱状態の中ですべて蘇ってきたものだった。
(一気に思い出したことが錯乱の原因の一つでもあったが)
亡くなる直前に喧嘩をして、和解しないまま逝ってしまった事。
まだ存命だった実母(僕からは祖母)を見舞ったとき、身体中に繋がれた管を見て
「俺はあんなふうになってまで生きていたくない」と言っていた父。
呼吸困難になり自分が病院に運ばれたとき家族が帰宅して
看護師のいない隙に自分で管を抜いて逝ってしまった父。
僕が帰ったときには、すでに棺の中で、
棺の上に缶ビールを置いて飲めない酒を泣きながら一緒に飲んだ通夜。
良いことも悪いことも一気に思い出したものだから…病院のベッドの上で泣けた。
ただ一つ思い出せて良かった事は…。僕は確かに父が大好きだった。
それを思い出せたよと、母に話せたことも良かった。
父親の命日であり、母の誕生日でもあるその日には、家族みんなが集まる。
その時にはまだ思い出せてない姉たちや親戚の顔も見れる。

P.S.ちなみに僕は父親似ではないらしい。(鈍感なトコは似てるらしいが…)
だから父が愛用していたレイバンのサングラスは僕には似合わない。
 
 

Coffee break by Christofer Andersson