231~240 | BED

231~240

☆231

 カワナニの街にサルは憶えがある。ただし夕猿はこの市へ、薬を卸してはいない。先に別の組に入られ牛耳られていた。その別の組の組長の名は十山(トヤマ)といった。この十山の卸す薬の質が、最近落ちていると言われていた。十山は市の元締めであるカワナニ本人と金銭でも揉めたらしい。
 カワナニの市に割り込むなら今かも、と。サルは考えてもいた。十山とサル、それぞれが組員を率いて、カワナニの街で斬り合った過去がある。乱闘で市から火が出て、一部全焼した。以来、サルはカワナニの市に出入りを禁じられていた。何年か前の話だ。今回サルがカワナニの街、ツジ南門に入るのはその乱闘以来だった。
 カワナニの市は人身売買の件数は少ない。なんといっても賭場で大金が動いていた。その賭場が薬を必要としていた。そこへ品を卸せることになれば利益は少なくはない。十山の後釜を狙って、夕猿、そのほかの組も動きつつある状況だった。
 カワナニの市は混沌として危険な場所でもある。外部からの人間が捕らえられ、薬付けにされ数年後に出てきたという例があった。喧嘩、それに伴う殺傷事件は日常。
 賭場への道は堅く封鎖されている。朝廷の兵士たちでも賭場近くへは辿り着けないほど、込み入った造りであった。うまく賭場に入り込む自信がサルにはあった。だが背が高い。歩くと目立つ。
 裏から賭場へ、知り合いの女に入れてもらおうかな、などと考えていた。市には女郎屋も氾濫している。不細工な女ばかりであったが、カワナニでは、この女たちが小便を出すところを客に見せるのが流行っているらしかった。そんな話を少し前によそで聞いた。
 それにしても自分は、いつまでこの商売を続けるのか、なんで胸が騒ぐ―
カワナニの街でもサルは、由宇という偽名を用いている。馬は進んだ。

☆232

 夏の夕暮れ、サルは宿に入った。刀を包んだ布。しばらく剣に手入れをする。握り返して見た。お守りの刀もそこに。
 次の朝、出発して午前にツジに着く。快晴。冬ならば吹きさらしで寒い平地。夏草が揺れる。夏の風。緩やかな高台を降りていった。遠くの森森。
 ツジの外壁、内部からは何本かの煙が上がっている。静かだった。なんてきれいな空かな。その道を何年も前に、キジもキタも歩いた過去を知るはずもないサルである。
 サルは西門、北門と廻り、東門からツジへ入ろうとしていた。ゆっくりとツジ外縁を進んでいく。飢饉の時に荒れ果てていた都市の外壁。それは整え直されて今ある。北の空の地平いっぱいに、横に広がる積乱雲の起こっているのが見えた。
 まぶしい―
 この都市が飢饉に覆われた過去をサルは知らない。産まれたばかり、さらわれた自分を救うために、キジは東門から鬼畜たちを追った、あの日。
 胸が騒ぐ、なんでだ―
 サルは不思議に思った。それはきっと産まれた場所に戻って来たから。このツジで発狂寸前の女に自分が託された過去をサルは知らない。そこにキジがいて、お守りに刀を預けてくれた過去も知らずに生きてきた。
 以前ツジに来たときにも胸が騒いだ。斬り合いはしたくねぇが―
 サルは東門からツジに入る。サルが救われた日、キジはそこで乱僧たちに指揮をした。時は流れる。知るはずもない。
 サルは馬を預けた。南北の道、東西の道が交差するツジ中央に立つ。どの通りも賑わいはじめていた。南門の影が、立ち昇る煙と共に見える。

☆233 これまでのあらすじ

 キタという男がいた。放浪の末、飢饉にあるツジという都市にいる。治安の悪化するツジ鎮圧に、朝廷からは乱僧と目付の兵士が送り込まれた。兵士を束ねるのがキジという長身の男だった。キタとキジは、この飢饉の都市ツジで、はじめて出会い言葉を交わす。
 キジはツジ鎮圧と並行して、大陸へ渡る船に同乗させる乞食を探してもいた。ツジの名士カワナニの住んだ大屋敷に、乞食がいたことをキタはキジに伝える。さらにキジは赤子を救い、その子を知らぬ女に託してもいた。飢饉を生き延びた女は、その子をサルと呼んで育てることになる。
 ツジは乱僧と兵士に制圧され封鎖される。キジは乞食を連れ出した後にキサラギへ、キタも何年も帰らずにいた故郷へと向かった。

 キタの故郷である海辺の集落は消えている。士に連れ去られた後であった。武装集団化する者たち、士(し)が各地で台頭をはじめていた。士たちは人身売買の独自の市場を持っている。そこで膨大な金品が流通されていた。
 キタはこの海辺でキビという海女と出会う。キビは夫の暴力で不生女とされ、その夫と死に別れて親元へ出戻った女であった。料理が上手いキビに団子を作らせて、キタは街道沿いの市で売るようになる。大陸船の出る港へ向かうキジが、そこを通り偶然にキビの団子を食べた。キジに問われたキビは、その団子を「キビ団子」と呼ぶ。
 大陸から還ったキジは、バクセという偽名を用い再び朝廷に傭兵として雇われた。キタとキビは山へと移り住んでいた。その場所からさらに内奥に桃源郷と揶揄される小国がある。朝廷の配下に属することを拒んだ小国は朝廷との戦いで消滅、その妃は生まれたばかりの王子を籠に乗せ渓流へ逃がした。それをキビが拾い上げる。
 朝廷軍として戦うキジもそこにいた。キジとキタはその山あいで再会する。キタはキジに流れ着いた赤子を見せた。キジはそれが桃源郷の王子であることを認め、さらに王子の命を見逃す。キタとキビは翌日、その赤子を連れて密かに河を下り消息を絶った。

 士の勢力は増し続け、朝廷の脅威となっていった。士のうちには「貴族」に対抗して「士族」を名乗る意識が広まりはじめていた。さらに先鋭的に「朝廷を倒す」と考える者が現れてくる。

☆234

 ツジ南門。カワナニの市。その内奥に存在する賭場。
 それは六つの「壇(だん)」で仕切られていた。「一ノ壇(いちのだん)」。そこでの勝負は一度に最も多くの額が張られる前線であった。
 二ノ壇、三ノ壇。下がるほどに賭金、勝負の規模は小さくなる。各壇にはカワナニ側の賭け師がそれぞれに張り付いている。外部からやってきた賭け師は、この各壇を守るカワナニの賭け師たちと戦った。
 勝負は二つの「賽(さい)」により行われる。賽とは正六面体の象牙のようなもの。賽は二本の指に隠れるほどの大きさ、手の平に小さく乗った。
 賽は相対する二面が黒、次の相対する二面が赤、残りの相対する二面は白であった。さらに白地の二面、その一方の面には赤い丸が刻印されている。
 壇上の勝負は、振り師と賭け師に相対する。振り師は賽二つを両手それぞれに一つずつ、素手で握る。両手を練り合わせ、交錯させながら面前へと両手の蓋を落とす。左右どちらに賽があるのか。両手、左右にそれぞれ一つずつ賽が振られていると思えば「丁」。どちらか一方、二つの賽が片手に振られたと思えば「半」となる。賭け師はそれを答える。
 振り師が半に振った。賭け師が見抜いて半と張った。賭け師の勝ち、的を得た。
 しかしこの場合、張られた賭け金は動かない。次の勝負へと掛け金は積まれていく。「半」、「丁」を見抜いただけでは金は動かない。
 真に的を得るためには、さらに右、左、どちらの「半」であるかが問われた。賭け師から見て向かって右を「上(かみ)」、左を「下(しも)」という。「上半」か、「下半」か。
 的を得れば、積んだ掛け金、それと同額の木札が賭け師の側に動かされた。外部からの賭け師は現金で張る、受ける賭場の賭け師は木札で受けた。賭場側が敗れた場合、戦いの後、皆の見る前で精算となる。
 そのひとつに張った額の倍額精算となる掛け方があった。半上、半下、そのうえでさらに色目を当てるのである。白か、黒か、赤か。
 特にこの頃流行していたのが、赤丸の面か、否かの択一の勝負方法だった。采には白地に赤丸の一面があるが、この一面は「一矢(いっし)」と呼ばれた。半であるか、丁であるか、さらに上か、下か、そのうえで一矢であるか、ないかを張るのである。
 的を得た場合、掛け金と同額が賭け師へ渡される。

☆235

 「丁」とだけするのが最も簡略。この場合、左右どちらの采も一矢ではないことになる。「丁、一矢なし」。
 これで的を射た場合、張った額の一割が賭け師に支払われる。勝負としては小さい。中継ぎの手。このような勝負は、壇が上がるほどに無くなる。張り師にも誇りがある。
 「丁、一矢あり」。
 左右に振られたどちらかの賽が一矢であると賭けた場合である。これで的を射れば、張った額が賭け師に支払われる。さらに賽の上下を張り射れば張った額の倍が支払われる。小さくはない。「半」においても同じである。
 一振り、二振り。振り師はその三回の振りのうち、一度は必ず一矢を出す決まりであった。三回目までの振りのうち、一矢を一度も出さない場合、親と子の交代がなされる。
 振り師が「親」、賭け師が「子」と呼ばれる。最初、まず賭場側が親となって各勝負は始められた。それぞれの壇上に散っていくのである。
 賭場側の親は自ら子になることができた。子である相手の振り方、その腕を見極めるときに、この交代が使われた。賭場側の親は二つの賽を子の側へ投げる。「子成り(こなり)」という。
 賭場側も対する外部の側も子のときに自ら親になることはできない。一矢を出した勝負で的を得たとき、子が親となる権利を得る。子は親へ交代可能となる。すぐに親にならず子のままで張り続けることを「流し」、「回し」などという。親権を持つ子は親となろうとするときに三三七拍子を叩く。「鳴き」という。子が鳴くと親子は交代される。一矢を読めるか否かが勝負に繋がった。
 賭場では振り師、親が完全に有利である。手先に驚くほどの技術、さらに肝の座った男たちが賽を振った。カワナニには役者が揃っていた。カワナニの賭場は名門。外部からも名人が参入している。
 そのカワナニの賭場に潰し屋が入っているのだという。十枚目、九枚目、八枚目。カワナニの役者たちが次々に破産に追い込まれているなんて。
―信じられないぜ
サルはそう思っていた。

☆236

 「ハチを呼べ」
そう告げた老人。小さな体。命じられた男は部屋を出て行く。夏の闇が迫りつつある。夕暮れ。蝉が鳴いていた。
 ハチはいつもの夢で目が覚めた。幼少の頃。忘れられぬ。かなしい。
 立ち上がり細い体、高い背。いつものように階上へと上がった、細いくるぶし。鋭い目線の先に夕陽が沈んでいく。いつもの景色。細く伸ばした顎の髭。若さがたぎる。
 足元に広がる屋根屋根はカワナニの街。その屋根。ハチの背を呼ぶ男の声がした。
「二枚目。親方がお呼びです」
屋根に頭を出した男。黙ったままのハチの背を見ている。夕空。

 老人とハチは一室で向かい合った。
「ハチ。知っているだろうがな、八枚目が破られた―」
その小さな老体は、ゆっくりと続ける。
「相手は三人だ。十日、初めて顔を出したそうだ。十日に十枚目、二十日に九枚目と八枚目が倒された。十、九、八と、それぞれ三枚とも単騎、相手は連賭けと番できた」
 賭け師は一組、三人までが張り座につくことができた。三人一組で賭けることを「連賭け(れんがけ)」という。一人で賭けることを「単騎(たんき)」、二人組で賭けることを「番(つがい)」という。
 「三枚とも始まりから終いまで、単騎のみで張ったそうだ。無理してからに―」
組の場合、三人のうち誰でも賽を振ることができた。勝負は局で進む。局とは勝負の始まりから最初の親と子の交代で「半局(はんきょく)」、さらに交代で「局(きょく)」となる。一局、二局、三局、四、五、六と勝負の局が積み重なっていく。
 三人組で座についた場合、ある局を「単騎」で戦うならば誰が、「番」で戦うならば誰と誰が、「連賭け」はそのまま三人、それぞれの局ごとで振り張る形態を決める。その選定は局ごとに各側により選択される。一度決めた型は局が終わるまで崩せない。振り師、張り師とも局の途中に降りれば負け。各局面で戦う勝負師双方の振る力、張る力が晒される。

☆237

 老体は続ける。
「調べさせたが新手だ。連中の面はこの辺りじゃ誰も見たことがない。十日、二十日と、奴ら掛け金は確実に上げてきている。三十日の市に来た場合、連中の持ち金によっては、さらに上の壇に通すことになるかもしれん。三ノ壇か、二ノ壇か」
 賭場、その各壇が開かれることを、「明ける(あける)」という。賭場の明けると同時に、それぞれの壇に人々が入って行く。この賭場に集う人々を「見世(みせ)」という。
 どの壇に入るかは見世各人の持参金による。見世も高い持参金を持つ者は一ノ壇、低い額の者は六ノ壇と、自然に流れていくものだった。
 それぞれの壇に入るため各見世は、まずその壇に入場料金を支払う。一ノ壇への入場料金が最も高かった。
 通常どこの賭場も壇内は板間である。この板間部分を「蓋(がい)」という。各壇内には「本台(ほんだい)」という、ほぼ正方形に近い賭け台が据えられている。膝ほどの高さの張りの舞台であり、勝負師双方はここへ上がって戦った。
 カワナニの賭場、その一ノ壇には中央に本台が一つ据えられていた。さらにその両脇に本台とほぼ同じ形質の張り台が一台ずつ、計三台が据えられている。
 両脇の二つは「脇台(わきだい)」と呼ばれる。それぞれの脇台は、西側寄りの台を「上脇(かみわき)」、もう一方は「下脇(しもわき)」と呼ばれていた。
 カワナニの一ノ壇の場合、振り師と張り師は本台に乗る。その勝負の行方を見世が二つの脇台で賭けた。脇台での勝負に入らないで本台の戦いを見る見世もいる。勝負には入らないが脇台の勝負を見る見世もいる。これらの見世は蓋で立ち見した。
 カワナニの六ノ壇には、六つの本台が据えられていた。各本台に、それぞれ四つの脇台が添えられていた。全部で三十の張り台が置かれ各台はそれぞれの名で呼ばれた。五の壇以下でも、それぞれの壇数と同じ数の本台があり、各本台に四つの脇台が添えられている。全部で二十一の本台と八十二の脇台。百三の賭場としてカワナニは聞こえていた。

☆238

 賭場に入るにはまず大金が要った。入場料だけにしろ。六ノ壇に出入りする者も、賭場の外では大金持ち、見世は皆、金持ちであった。金が飛ぶ。右に左に。
 「ハチ―」
老体は続ける。
「今回は普通じゃねぇような気がしてる。おまえはどう感じているかと思ってな」
夏の陽が暮れていく。ハチは何も話さない。
 「三次(さんじ)にな、連中の張り振りを見極めさせてた」
三次とはカワナニの側近の一人である。
「あの振り方は本土の人間じゃねぇと言ってた―。本土でなけりゃ、南土か、四州(しそ)。どっちからか来た人間だ」
 四州とは、南土の東に位置する土地の呼び名である。本土とも、南土とも海で隔たれている場所であった。数人の強力な士が存在すると目されていた。
 「オロチの話は聞いたことがあろうが、おまえも」
ハチは黙っている。
「セキが殺されたらしい。兄貴のカミノが死んだそうだ。オロチが襲った」
ハチは表情ひとつ変えないで座っていた。その様を睨み見て頷く老人。
「いい面構えだ」
 ハチはカワナニの賭場で二枚目を張る勝負師だった。枚数が上がるほどに賭けは大きくなる。勝負師としての力は賭場では、この二枚目が最強であった。
 一枚目とは元締めのこと、この賭場を仕切るカワナニ本人のことをいう。実質、賽は振らない。ハチに語る老体がカワナニ本人だった。

☆239

 「連中が潰し屋だとしたら、奴ら普通じゃねぇ」
ハチは黙っている。このハチの本名がイヌといった。しかしそれは誰も知らない。
「連中は、士だ」
 夏よ―
「だとすれば、オロチかもしれん」
ひぐらしが鳴き飛んで消える。
 「うちの役者が三枚タテで倒された話は外に聞こえてる。とにかく桁が普通じゃねぇから。それに派手にやられちまったって話でな」
 「今度の三十日の賭場は相当な数の見世が集まるはずだ。それで回収のケツは十分に立ってる。三次にも言ってな。逆に良かったかもしれねぇな。金のことについて言えば。皆おもしろがってるらしいから、いい話だな」
 「ただな、俺の言うのは金だけの話じゃねぇんだ。悪い気がする、今回は」
 「俺の親父は、このツジの中央に屋敷を構えて住んでた。前にも言ったろうが、ハチよ。おまえさんの生まれるもっと前だ。屋敷跡が今もある。親父は表見は綺麗だが、性根はとことん悪い野郎だった」
 「飢饉になってな。親父もツジを出て。この市をここまでするのに俺は随分と骨を折った。賭場の勝負に関しちゃ、場数を踏んできた。お話にならねぇくらい、沢山の勝負師を見てきた」
風鈴が揺れる―
 「オロチの連中は危険すぎる。これは俺の勘だ。市にもオロチの荷は入れねぇように言ってきた。ただ人は別だ。オロチがうちの賭場に入ったのかもしれねぇ」

☆240

 夏の夕闇がおちてくる。南門の賑わい、その息遣いが空気となって流れはじめる頃。
 ハチは何も喋らない。自分の親方、雇い主であるカワナニの顔を一度も見なかった。目は伏せていた。いつものように。
 流れゆく殺気のごとき市のざわめき。それを見つめるようにして目をやり、部屋の外を眺めたり、はぐらかすように。
 毎度のこと。その態度にもカワナニは怒らない。叩いた手で呼んだ男に、ロウソクをともさせた。
 どこか遠くから子供の泣き叫ぶ声が聞こえている。折檻でもされているのか。
 炎揺れる、静かな間。
 「聞いた話だがの。太陽と鉄の連中が、朝廷兵と戦ったのは知っておろうが―」
「奴ら捕虜にした朝廷の連中を熊だか、虎だかに襲わせて商売しよっての―」
「さんざん儲けたあげくに捕まったそうだ。朝廷が兵を挙げた―」
「奴ら北海の岸に駐屯しとったそうだ。それをキサラギが聞きつけて包囲した。とんでもねぇ話だ―」
 「ただな、悪い話、聞いた。昨日だ。三次がヒロシマの市から戻ってな―」
「三次が聞いてきた話じゃ、太陽と鉄は連行される途中で逃げたそうだ。連行する朝廷の軍をオロチが襲ったらしい。オロチが襲って太陽と鉄を逃がした―」
 「三人がオロチだとしたら―。ハチよ。三十日に奴らが来なけりゃ、以後は奴らは出入り禁止にする。それで三十日に来た場合、おまえさんが戦ってくれ。どの壇で張り振りするか。七枚目から役者の割り振り。すべておまえさんに任せる。好きにしろ―」
 「ハチ。おまえが破られた場合、この賭場は終いだ―」
「その場で殺せ」