週末の僕は、わずらわしい細々した雑務をする為に、郵便局と銀行に向かっていた。
「せっかくの休みなのにな……」
車の運転をしながら、小さく愚痴をこぼしていた。
「そうだ。月曜には……」
気分転換したいなと思うほどに、僕の気分は滅入っていた。
込み合う駐車場。ようやく車を止めて、郵便局へと向かう。カウンターにも人。窓際のイスにも人がたくさん座っていた。
気分がさらに落ち込んだ。
「あら?」
「おお」
僕は、三軒となりに住む飲み仲間の友人の妻、小枝子と出くわした。いつもは、お邪魔して、手料理をご馳走になるけど、簡単な「ご馳走様」しか言えていなかった。
「支払い?」
「そうなんですよ。独身はこういうとき大変です」
「だって好きで結婚しないんじゃなかったの? この前、そう言って飲んでいたじゃない?」
笑う小枝子だった。
「そう言われると……。参ったな」
僕は、頭をかいた。
となりの並んで、こんな風にゆっくりと話したのは初めてだった。だから妙に親しくしているだけに緊張もあった。
「よっぱらっているイメージしかないから、随分と違うのね」
小枝子はカジュアルな洋服をまとった僕を足元から眺めた。
「変ですか?」
「いいんじゃない。何で彼女つくらないの? わずらわしいの?」
「何ででしょうかね」
僕は、テキパキと料理できる小枝子を見て、初めて結婚に憧れるようになった。まさか、そんなことを本人にいえるはずもなく、だから少しとぼけて答えた。
しばらくして小枝子が呼ばれた。
「ごめんね。ちょっと」
カウンターに立つ小枝子の後姿を見つめた。
僕は、飲み友達が羨ましかった。社内で気になっている女子にさえ、こんな風に憧れを抱いたことはなかった。
人には、数えられないほどの顔がある。僕は、小枝子を見てそう思うようになった。
「もう直ぐね。じゃあね」
僕が持っていた小さな番号の書かれた紙を見てから、小枝子が言った。そして立ち去り際に、「またあの人と遊んでね。ご馳走するから」
そんな小枝子に、僕は思わず笑顔になった。知らぬ間に、心がほっこりとしていた。
僕は、自分の順番を確かめた。まだ、少し間があった。
