「寒いね」

「そうだね。元気でね」

 それはどこにでもある送別会の最後だった。

 僕は、ミユに言い出せないままうつむいていた。

「シンゴくん、仕事、頑張ってね」

「……う、うん。ミユちゃんも……」

「……ありがとう」

 そんな余韻は、僕が思っているほど長いものではない。

「ミユちゃん。送っていくよ」

「シンゴくん。……さようなら」

「うん、元気でね」

 僕はその他大勢にまぎれて、ミユが大塚先輩の車に向かって歩く後姿をみおくるのであった。


 僕の勘違いだと思う。

 それとも僕が臆病だったからなのか。

 ミユちゃんは大塚先輩の彼女で、不仲だという噂も聞いてはいた。だけどやっぱり二人を見ていると、僕がその間に入っていく隙間はなかった。

「へへへ。忘れ物」

「何?」

「ミッキーのストラップ。これ、限定なんだよ。あげる」

「う、うん」

 すると、運転席の窓が開いて、大塚先輩がミユを呼び捨てにした。

「は~い!! じゃあね」

 最後まで笑顔を絶やさなかったミユは先輩の車に乗ると、僕の視界から見えなくなってしまった。もう逢えないんだと思う。ここで終わるからこそ、いい思い出に出来るのだと思う。僕は、夜空を見上げてそう思い込もうとしていた。

「シンゴ。行こうぜ!」

「うん」

「何だよ? どうかしたのか?」

「ちょっと、目にゴミが入ったみたいなんだ。痛くて涙が出てきたよ」

 そんな言葉を最後まで聞いている友人ではなかった。

「オイ、行こうぜ」

「うん」

 何度も目に入ったゴミを取り除こうとしたけど、簡単には取れなかった。痛くて涙だけは頬を伝うっていうのに。